第68話 帰結

「はぁ… 薬が手に入らない上に『可愛いボク』がこんなムキムキマッチョになっちゃって、二重の意味でベルモ姐さん達に会わせる顔が無いよ…」


 モンモンは自分の新しい体を検分しながら、何度も落胆のため息をいている。


 確かに街で待機しているクロニア達や、森で療養しているベルモに今のモンモンを見せたら驚くこと請け合いだ。

 

 だがしかし、何度も言う様だがモンモンがゴツくなったからと言って俺の対応は変わらない。今は見る影もないモンモンの白くて細い腰は惜しいとは思うが、これはきっと『これ以上倒錯するな』という女神様の啓示なのだろう。知らんけど。


 とりあえず嘆いていても事態は好転しない。街に帰る前に今のモンモンの出来る事と出来ない事を把握しておきたい。


「なぁモンモン、ゴツくなった分、パワーとか上がってるのか? 攻撃力上がったのか?」


 モンモンは無言のまま両の手をグーパーグーパーしながら力の入り具合を確かめている。見た目だけなら如何にも鬼族オーガらしい戦闘力の高そうな兄ちゃんだ。


「確かに筋力は凄い上がってると思う。でも指が太くなった分、鍵開けとかやりにくくなった気がする…」


 なるほどなぁ。以前よりも前衛寄りになったという事なのだろうが、そもそもモンモンは最初から火力源ではない。彼の撃つスリングショットは直接の攻撃力は高くない。それよりも、仲間の支援や揺動に使ってこそ意義のある武器だ。


「ちなみにその筋力アップはどんなもんなんだ? そのスリングショットでそのへんの幹でも撃ってみてくれよ」


 モンモンはいかにも『めんどくせぇ』と言わんばかりの顔をして背嚢バックパックから得物を取り出す。

 そのまま足元の小石を拾って、武器を構えて弦を引く… すると『バツン!』という鋭い音と共にモンモンのスリングショットの弦… というかゴムが切れた。


 大柄なオーガが、子供の使う玩具に毛が生えた程度のスリングショットを思い切り引けばこうなる可能性は予想出来たが、まさかここまで脆いとは思わなかったな……。


「あー、壊れたー! ボクの一張羅の武器なのにぃ。おにーさんのせいだよ!」


 いや俺は触ってねーし。壊したのお前だし、経年劣化とかもあるんじゃねーの…? まぁ「やれ」って言ったのは俺だから『俺のせい』で間違いないな……。


「いや悪かったよ… 街に帰ったらもっと上等なやつを買ってやるから許せって。それにしても大したパワーだな… 普通に殴っても強そうだ」


「あのね、おにーさんバカなの? 下手に殴って指でも痛めたら本業に差し支えるんだけど? 手は一番大事にしないといけないんだよ?」


 なるほどそういう物か。ならばやはりモンモンは後衛で支援してもらう、で変更無しだな……。 


「これだけの力があるなら、もう弓矢とかに持ち替えた方が戦力になりそうね…」


 俺達2人から離れて、誰か別の人と交信していたチャロアイトも戻ってきて会話に加わる。ワイバーン戦でもモンモンの動体視力はとても頼りになった。うちのパーティに課題であった長射程の攻撃力が加わるのは、とても喜ばしい。チャロアイトもいつまで居るか分からないしね。


 ☆


「な… え…?」

「まぁ!」


 クロニアとティリティアの反応はほぼ予想通り、見事な絶句を見せてくれた。まぁそうなるよな、俺もたまげたもん。

 半裸だったモンモンには俺の服を着せたが、どうにもサイズが合わなくて、つんつるてん状態になってしまっている。モンモンの服や装備も買い直さないとな……。


「カクカクシカジカでベルモを助ける為にはもう少しチャロアイトに付き合う必要がある。済まんがそのつもりで協力して欲しい」


 クロニアとティリティアに今回の経緯を説明する。2人ともモンモンの件は不可抗力だったと理解してくれたようだ。


「まぁそうでしたの… 不死の怪物が相手でしたらわたくしがお役に立てたかも知れませんわね…」


 ティリティアが残念そうに言ってくれるが後の祭りだ。まさかいきなりゾンビに囲まれるとは想定外だったし、何より身重のティリティアに野宿等の無理をさせたくない。


「次のお仕事ですけど、とりあえず私の持ち帰った証拠品の鑑定からね。それが済まないと私も動けないから、3日から長くて5日くらいは手隙の状態よ。街でのんびりするなり冒険者匠合ギルドで依頼を受けるなりご自由にどうぞ。あ、でも何日も掛かるような仕事は受けないでね」


 という事らしい。チャロアイトもこの後、本部に戻って仕事が山積みだそうだ。


「それはそうと勇者様… 私達も何日も放ったらかされて、凄く寂しかったのですよ…?」


 話が一段落してティリティアがねだる様な視線を投げてきた。俺の隣に来て腕を絡めてくる。


「あまりに寂しすぎてクロニアと2人で慰め合ったりもしたんですの…」


「テ、ティリティア様! それは彼に言わない約束では…」


 ティリティアの爆弾発言にクロニアが顔を真っ赤にして抗議する。確かに今回の任務に行って帰って4日間、その前も王様との謁見やチャロアイトとの密会等で、なかなかスキンシップをする時間が取れなかった。


 確かに寂しい思いをさせてしまったのは否定できない。チャロアイトも加わった事だし、久しぶりに皆で『パーティ』するか!


 ……?


 気分が盛り上がってきた所だが、他の皆の視線に違和感を覚えた。気まずい雰囲気を醸した女達の視線の先に居たのは誰あろうモンモンだ。

 

 あ〜、モンモンはどうするかなぁ? 今までの小柄で華奢なモンモンなら俺も抱く事に抵抗は無かったのだが、今のガチムチなモンモンを後ろから責める気にはならない。モンモンあいつが尻に力を入れたら俺の一物が千切られてしまいそうな気がする。


「あ、ボクはもう仕事以外ではお払い箱かな…? ボクはどこか別の場所で時間つぶしてるから、皆はこのまま楽しんで…」


 気まずい雰囲気を察したモンモンがパーティ参加を辞するのだが、サイズが合わなくてパッツンパッツンな俺の服の下にある奴の一物が固くなっているのは容易に見て取れた。

 

 俺はもうモンモンを抱ける気がしないし、かと言って俺の尻を差し出すつもりも無い。

 クロニアとティリティアはモンモンの一物を「受け入れない」事で、女に興味のないモンモンも双方で合意している。


 でも俺達のパーティーは『体の繋がり』で絆を築いてきた感がある。ここからモンモンを締め出すのも薄情だよな……。


「そう言えばモンモンちゃんってまだ童貞なのよね…? お姉さんが『初めて』をもらって上げましょうか…?」


 ここでチャロアイトが意外な手に出た。恐らくは雰囲気を察してフォローしてくれたのだろう。でもどうかな…?


「いやぁ、でもボクは女の人のアソコってちょっと、あっ…」


 モンモンが言い終わらぬうちにチャロアイトはモンモンの股間に手を伸ばし、優しく指を這わせていた。そのままモンモンを寝台ベッドに押し倒して唇を奪う。


 チャロアイトの奇襲に一瞬虚を突かれたが、間髪入れずにクロニアとティリティアが2人して俺を挟んで腕を絡めてきた。

  

「ま、なるようになるか…」


 俺も流れに任せて、『両手に花』と2人を抱きしめた……。

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