第85話 凱旋

 屍人ゾンビ軍団を見事撃退した俺達の帰還は、王都バルジオ市民らの大層な歓迎を受けた。


 討伐軍の本隊にして俺達の後詰めとして用意されていた王国騎士団は、編成を終えて城を出立したぐらいのタイミングで「勝利」の報告を受け、出た時そのままで引き返したらしい。


 もともと「騎士団到着までの時間稼ぎ」が目的と想定されていた俺達冒険者部隊が事件を解決してしまったのだから、出鼻を挫かれた騎士団としても面白くないと思う。だがまぁ今回は涙を呑んでもらうしかない。


 東門から王都に入ると、貴賤を問わず市民たちが街道を囲んで俺達を祝福してくれた。特に計らった訳では無いが、まさに『凱旋パレード』の様相を呈している。


 中でも全身骨折という満身創痍の中でも武器を振るい続けたゴルツさんの人気は凄まじく、救急車に積まれているストレッチャーによく似た移動式のベッドの上で上半身だけ起こした状態で民衆に手を振っている。

 

 顔はいかついオッサンだけど、その真っ直ぐな性格の為か、民衆の人気は高いみたいだ。


 ゴルツさんを筆頭に冒険者達も続々入城し、同様の歓待を受ける。

 ゴルツさんの次に人気があったのは、アイトゥーシア教会公認の『勇者』であるショウ、更に『聖女』ホムラ、『野伏レンジャー』アンバーも大きな歓声で迎えられていた。


 そして『俺』はと言うと、観衆からは「その他大勢」の1人、という位の扱いで迎えられた。


 まぁ大ボスにトドメを刺したのはショウだし、そのボスのコアを撃ち抜いてショウのサポートをしたのはアンバーさんだし、ホムラさんの回復能力が無かったらゴルツさんは死んでいた可能性が高い。


 みんなそれぞれ活躍している訳だから、大歓声で迎えられるのも納得だ。

 俺の扱いが小さいのは、単純に今回での俺の八面六臂の働きが『まだ』市民に伝わっていないからだろう。正直面白くは無いが焦ってはいけない。


「もっと胸を張れ。大袈裟なくらい民衆に手を振って見せろ。お前は讃えられるに相応しい働きをしたんだ。もっと売り込んで良い」


 いつの間にか俺の隣に来ていたクロニアがそっと耳打ちしてくる。やっぱりそうだよな? もっとアピールして良いんだよな…? っていうか俺もともと陰キャだからこういうパレードとか、見る方はともかくる(?)方はまるで勝手が分からない。


 とりあえず上っ面だけの硬く引きつった笑顔を作って、当社比120%の力で手を振る。特別なリアクションは起きない。まぁそうだよな……。


「多分明日になれば冒険者匠合ギルド経由でおにーさんの武勇伝は街中に広まるよ。おにーさんと同じ一党パーティでボクも鼻が高いよ!」


 今度はモンモンが隣に来た。モンモンも最後の最後で結構美味しい所を持っていったよな。ゴリゾンビのコアを露出させたパワーシュートも、ゴリゾンビ討伐の重要なファクターだった。


 モンモンの「キャラ変」には俺も少なくないショックを受けたものだが、今にしてみると戦闘力が上がった分、悪い事ばかりでは無いのだな、とも思える。


 更にティリティアが俺の隣に来て、無言のままで俺の空いた左腕に絡まってきた。こんな往来で堂々と未婚のアイトゥーシア教会の神官が異性と腕を組むのは、教義的に恐らくNGだ。

 

 そんな事は門外漢の俺なんかよりもティリティア本人がよく分かっているはずだ。その上でこの行為は、「結婚前提の関係です」と周知しているのだろう。まぁ良いけどね。


 突発的な疑似パレードは王城の手前まで、凄い熱気のままずっと続いていた。

 

 王城直前で見覚えのある顔を見た。出発の時に俺を送り出してくれた(多分)盗賊のディギールさんだ。ほとんど「町民A」だった前回と違って、今は「羽振りの良い貴族」みたいな上等な衣服を纏っている。


 ホント謎なオジサンだが、前回も励ましてくれたし、今回も民衆に紛れて拍手で迎えてくれた。いきなり全幅の信頼は寄せられないにしても、とりあえず敵では無いと思う……。

 

 ☆


「仔細は大司教と衛士隊長から聞き及んでいる。諸君らの働きで王国はまた1つ危機を乗り越える事が出来た。この度犠牲となった勇士4名は『国定英雄』として弔い、その遺族には年次給付金を与える事を約束しよう。諸君らには感謝の意を込めて宴の席を設けさせて貰った。今宵はゆっくりいくさの疲れを癒やして欲しい。大儀であった!」


 何故か城の大広間に集められて隊列を組まされた俺達は、カーノ王によるサプライズ謁見式に付き合わされる羽目になった。

 

 前回の謁見も心臓に悪かったけど、今回みたいなサプライズもマジでやめて欲しい。前回もサプライズで殺されそうになったし、俺はあの王様の持つ聖剣とは相性が悪いせいか、どうにも苦手意識が働いている。


 自分の都合で他人を振り回す事に頓着しない、イジメっ子に通ずる性格っぽいので、正直あまり関わりたくない人なんだよなぁ……。


 ☆


 王様の言う宴は俺達の集められた広間の隣の部屋で行われ、急ごしらえにしてはかなり豪勢な支度がしてあった。

 それこそ貴族の舞踏会みたいな雰囲気の所で、俺達みたいな薄汚れた戦場帰りの冒険者が、身支度もせずにそのまま飯を食うのは、我ながらあまり良い傾向では無いのでは無かろうか?


「さぁ、王のご厚意です。お酒もたんとありますので、どうぞ無礼講でお楽しみ下さい」


 ここからはライク大司教が仕切る。王は臨席せず、高座には先程のストレッチャーに乗ったままのゴルツさんが、両手で大きな骨付き肉と酒のジョッキを持ってガハガハ笑っている。


 冒険者連中も育ちの良い人間は少なく、あっという間に『王国主催の戦勝記念宴席』は『場末の居酒屋の宴会』に名を変えた。まぁ俺としてもその方が居心地は良いかもね。


 冒険者仲間達は俺の活躍をその目で見ていた訳で、この宴会の主役はショウやゴルツさんではなく、紛れもなく『俺』だった。数十人の冒険者が入れ替り立ち替り「お前は凄ぇよ」と俺を称えてくれる。いやぁ、とても気分がいい!


 食事も酒も美味くて無限に腹に入りそうだ。最高の気分のまま壁際の長椅子に腰掛けてウトウトしていたら、俺の様子を見に来てくれたティリティアに声をかけられた。

  

「勇者様、少しよろしいですか? 紹介したい方がいらっしゃるの…」


 半分寝ぼけていた俺は、ティリティアに手を引かれるまま、半ば強引に宴会場から連れ出しされたのだった……。

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