第21話 慟哭
俺の目の前では悪夢と言っていい光景が繰り広げられていた。
ゴブリン達がこぞって部屋の中央に吊るされているティリティアに群がっている。
ティリティアは両手首をロープで縛られ、天井から支えのない状態でぶら下がっている。下半身は1m程の木の棒を背中に置き、持ち上げて広げた両膝を棒に縛って強制的に開脚させられている。
ぐったりとした彼女の秘所からは破瓜の鮮血とゴブリンどもの体液で赤と白、そしてそれらの混じったピンクの液が漏れていた。
そしてゴブリンどもは自分の腰を振る番が終わると、10cm程の
刺された錐が増える度に周りのゴブリンが沸き上がる。完全にゲーム感覚で輪姦と拷問を続けているのだ。
時折上がるティリティアの叫び声は、この錐を刺し込まれた時に上がっている様だった。
ゴブリンの体格は大きくても身長150cmくらいだが、奴らの中には更に身長が半分ほどの奴も何匹かいる。恐らくゴブリンの子供なのだろう。子供のくせにこの残虐な催しに手を叩いて喜んでいる。
おぞましい… 俺は予想していた『最悪』よりも更に酷い状況に数秒固まってしまった。頭が状況を理解するのにそれだけの時間が必要だったんだ……。
俺がもっと早く到着できていたら… いや違う、『最初からもっと慎重に行動出来ていたら』ティリティアはもちろんクロニアやベルモも大怪我をせずに済んだはずだ。
社会的なパーティの責任者はクロニアだが、今回の無様な作戦の立案者は俺だ。相手がゴブリンと見て完全にナメてかかっていた……。
状況が理解できたら、俺の頭の中は怒りと絶望で満たされる。ここのゴブリンを殲滅しないと腹の虫が治まらない。そんな事をしてもティリティアの心の傷が癒せる訳はないのは分かっている。それでも俺は『けじめ』として聖剣を抜いた。
ゴブリンどもは完全にティリティアとの『ゲーム』に熱中しており、俺の存在には気が付いていない。
俺はまず聖剣を横に薙いで、ティリティアが吊るされている天井からのロープを断ち切った。
唯一の支えを失って地面に落ちるティリティア。落ちた衝撃で苦しそうなうめき声を上げたが、ゴメン、それだけ許して欲しい。
楽しんでいた『ゲーム』を中断させられてゴブリンどもが不満げに俺の方へ顔を向ける。
奴らが戦闘態勢を整える前に、俺はロープを切った剣を返す動作でティリティアを囲んでいた5匹のゴブリンの首を刈り取った。
ティリティアが床に倒れてくれたから遠慮せずに横振り出来たよ。
残りのゴブリンに向けて突撃、真っ先に奥に居た
部屋の隅に集まって震えているゴブリンの子供達。これはどうしようかなぁ? 武器も持ってないし、完全に怯えた目をしてこちらに慈悲を乞うている。
まぁこれだけやれば嫌でも反省しただろうし、どこか山奥で細々と生きてくれるなら見逃してやっても良いかな? なによりゴブリンとはいえ俺も子供まで殺すのは気が引けるんだよね……。
「殺して下さいまし…」
ゴブリン達の血の海となった部屋の床に倒れていたティリティアから声が聞こえた。
初めは空耳かな? と思ってティリティアを見ると、彼女は眉を怒らせ歯を食いしばり、まさに『般若』の様な表情を浮かべて俺を見つめていた。
「汚らわしい汚物以下の存在のくせに、
俺は子ゴブリン達とティリティアを交互に見て途方に暮れていた。どうすりゃ良いんだよこれ…?
「殺せよぉぉぉっ!! それがお前の仕事だろぉぉぉっ!!」
そう叫ぶとティリティアは床に突っ伏して激しく慟哭し始めた。
確かに俺達の受けた任務はゴブリンの討伐だ。下手に生き残りを逃して第二第三の被害を出しては元も子もない。
「悪く思わないでくれな…」
俺は目を閉じて子ゴブリンに向けて剣を横に振った。目を開けた時、そこに生きているゴブリンは居なかった……。
☆
部屋の中にもうゴブリンは居ない。この大広間に全てのゴブリンが集中していたのかどうかも分からないが、廃坑の入り口に居た奴ら以外には他のゴブリンを終始見かけなかった。
とりあえず大広間周辺の安全は確保したはずだ。俺は未だにすすり泣きを続けているティリティアの元へ来たものの、どう声を掛けていいのか分からずに固まってしまっていた。
『大丈夫か?』 全然大丈夫じゃない。
『遅れてゴメン』 謝って済む問題じゃない。
『生きてて良かった』 生きてるだけで後はボロボロだ。
『立てるか?』 脚にたくさん穴が開いているから無理だ。
『仇は取ったぞ』 彼女の傷は埋まらない。
『犬に噛まれたと思って』 そんなレベルじゃない。
『俺は何にも見てないから』 言った直後に見ざるを得ない。
どれを選択しても正解どころか、逆にティリティアを追い詰める言葉になりそうで思考が止まる。聖剣による叡智もここでの最適解を教えてはくれなかった。
さめざめと泣き続けるティリティアの傍らで膝をつく。ゴブリン達の血は落とし穴の裂け目に流れ込み、クロニアらのいる下層へと流れていったらしかった。
いっその事、ここでティリティアの肩に手を触れて『全て忘れろ』とか言ったら良い感じで忘れてくれないかな? そういう使い方が出来る物なのかな…?
俺自身も煮え切らない態度で、満身創痍のティリティアの脇にいるだけで、何の役にも立っていない。ティリティアの泣き声だけをBGMに無駄に時間だけが流れていった。
おもむろにティリティアが俺の袖の裾を掴み、体を起こして俺に抱きついてきた。そして再び号泣し始めた。
俺はそんなティリティアに掛ける言葉も思いつかずに彼女を抱き締める。
ティリティアの号泣はほんのふた呼吸ほどで終了した。そして息を整えた彼女は涙で潤んだ瞳で俺を見つめる。
「勇者様… ご覧の通りこの身は下賤なゴブリンによって穢されてしまいました。この腹の中には
ティリティアの言葉の意味が理解できなくて、一瞬呆けてしまう。その隙を突いてティリティアは俺に唇を重ねてきた……。
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