第35話
一方、ホワイトハウスでは、
「モシモシ、ワタシミヤチャン。ノロイハトケタノ」
その電文を受け取り、トルーマンたちは、ホッと安堵するのだったが、再び、次の電文が入ったのだった。
「モシモシ、ワタシミヤチャン。トウソウガドロヌマカシタラ、タイショウドウシデ、イッキウチヲスルノ。タイマンニオウジナイト、マタ、ノロイガハツドウスルノ」
その電文の内容に、顔を寄せ思案を始めたトルーマンの側近たち。
「おい、闘争が泥沼化したら大将同士で一騎打ちをするのが、日本古来の習わしらしい」
「そういえば、日本国は、天皇が出て来るらしい」
「大将同士タイマンって、講和条約なんだから、ここは手打ちと表現するところだろう?」
「いや、ステゴロで殴り合って最後はお互い友情が芽生えるとか?」
トルーマンを取り巻く側近たちは、何か、変なマンガ雑誌でも読んでいたらしい。いや、ここに大和がいたら、「お前らいつの時代の人間だ!」と確実に突っ込むところである。
そして、トルーマンの方を見ると、一斉にトルーマンに会合に出ることを促すのだった。
「「「「大将、ここは、仲間のために命を懸けてください。お願いします」」」
「いや、大将じゃなくて、大統領だろう! それになに、仲間のために、命を懸けろって!
俺この中で、一番偉い人だよね?」
トルーマンの叫びも無視して、側近たちは、講和条件についての会合に、トルーマン大統領が出席することを、日本国に連絡するのだった。
****************
そして、一週間後、沖縄の首里城で講和の条件について、日本国の代表は天皇陛下、そして、アメリカの代表として、トルーマンが、会合に出席して話し合われていた。
この首里城、歴史では、太平洋戦争の最激戦地で、軍艦ミシシッピーからの砲撃を受け、消失、その後、陸上戦での激しい戦闘で、首里城やその城下の町並み、琉球王国の宝物・文書を含む多くの文化財が破壊された。
さらに、歩行不能の重傷兵が首里城の地下陣地で自決している。また、宝物庫は奇跡的に戦災を免れたのだが、中の財宝は全て米軍に略奪された。戦後しばらくして一部が返還され、また所在が明らかになり、現在、返還に向け交渉中の物もある。
しかし、この世界では、まだ、沖縄にアメリカ軍は上陸しておらず、幾度かの空襲に遭いながらも、幸い無傷の状態であった。
「トルーマン大統領、日本の講和条件は、先に話したとおりだ。軍部は解体して、責任者は、裁判にかけて、責任を追及する。
そして、満州国と韓国については、独立を認め、その他の植民地や領土も放棄する。
しかし、あなた方の植民地支配についても止めてもらう」
「天皇、その植民地支配については、イギリスやフランス、ポルトガルなど植民地を持っている国と調整する必要がある。今すぐ約束はできない」
「いや、トルーマン大統領、あなたは、全権を委任されてここにやって来たはずだ」
「そう言われるとそうなのだが。我々が植民地を放棄した後、日本がそこに進出しない保証はない」
「そう言うだろうと思っていた。しかし、日本国は軍事国家をやめて、民主主義国家に生まれ変わる」
「口ではなんとでもいえるぞ」
「だから、私は、現人神(あらひとがみ)の神格を捨て、人間として野に降(くだ)る。日本国民に承認された政府が、日本国を運営する。われわれは民力を持って海外に進出する。そしてアジアの経済圏を守るための先兵になる」
「あなたは、神代の時代から続く神としての立場を捨てるというのか?」
「そうなれば、権力が集中している私を担ぎ出そうとする者は居なくなる」
「確かに、権力が分散すれば、戦争を起こそうとする者たちに余計な労力が必要になるが……」
「そうだ、すでに大本営での放送も決定している。私は、この戦争で、本物の現人神をすでに見たのだ。もはや、私が神である必要がどこにあろうか。」
「そうなのか? あなたは神を見たのか。私は、本当の悪魔を見た。神と悪魔か……。 すでに、この戦争の決着は付いているのだな……」
二人の脳裏には、大和と巫矢が浮かんでいる。
「天皇、あなたの講和条件を我が国アメリカは承認しよう。その代り、あなたは、今、収束に向かっているヨーロッパ戦線には手を出さないと約束してくれ」
「我が国には、もはや、そんな戦力はない。またあの現人神も、日本を離れたヨーロッパには興味も関心も無いだろう。
それより、トルーマン大統領、中国はどうするのだ? 日本はすでに、戦闘を中止し、中国から軍隊を撤退するように命令を出している。この講和条約が締結されれば、沖縄に停泊している軍艦や補給船などの船団は、中国から日本軍を撤退させるための郵送船団に変わる。
これについて、攻撃しないようにして頂きたい」
「それは、もちろんだ。講和条約締結後に攻撃するのは、条約違反だ。悪魔を前に、そんな恐ろしいことができるか。それよりも、アメリカも中国相手に、すでに大量の赤字を垂れ流している。
日本が撤退すれば、アメリカも借金を回収して、撤退するだけだ」
「中国共産党を影で操っているソ連に対しては? 」
「ソ連も独裁者のスターリンが暗殺されて、共産党もヨーロッパ各国の講和条約に中で、資本主義との協調路線に変わってきている。後は、中国国民党と中国共産党の内部の争いだ。もっとも、金になるなら、我々は、援助するがな」
「日本国も、アジア発展のために、中国に協力や援助を惜しまない」
天皇とトルーマンは、お互いに顔を見合わせニヤリと笑った。
「日本国は、貧富の差を解消するために、財閥を解体する。そして、富と資源を求めて、海外に進出する」
「国際秘密結社の息のかかった財閥を解体して、世界のルールの中でやって行けるのか?」
「何とかやるだけだ。富める者を、更に、富ませるためにする戦争はもうこりごりだ」
「崇高な理想だが、きっと、後悔することになるぞ」
「わかっているさ」
天皇は(国際秘密結社の連中は、人の皮を被った鬼だ。その鬼をあの現人神が放っておくはずがない。本当の平和は、その先にあるのだ)という言葉を飲み込んだ。
「「それでは、手打ちとするか」」
こうして、長かった講和条件の大本の部分での合意ができ、後は、官僚レベルで詳細部分を詰めるだけになった。そうして、一週間後、沖縄講和条約が出来上がり、天皇とトルーマンとの間で、条約が締結された。
遂に、長かった戦争は終わったのである。
そして、沖縄講和条約が締結された翌日、天皇は、ラジオで玉音放送を行なったのである。
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