第44話 大和、ここから、熱田神宮まで
「大和、ここから、熱田神宮まで、歩いて行くしかないのね」
「そうだな、汽車やバスを乗り継いでいくのもいいが、主さんたち、第七七七部隊から貰った選別だけじゃあ、心もとないしな」
「そうね、そのお金は、熱田神宮の近くの茶店で食べる名物、きしめんのために、残しておかないとね」
「巫矢、まだ。食い足りないのか?」
「えっ、私たちの婚前旅行って、名物の食べ歩きが目的じゃなかったけ?」
「えっと、まあ、そういうことだ」
「でっしょ」
巫矢は、にこにこしながら、大和を上目使いで見る。
「まあ、振り出しに戻るのも悪くはないか」
そうして、大和と巫矢は、再び、婚前旅行を繰り返すのだった。
四日後、熱田神宮にたどり着いた二人は、闇に紛れて、草薙の剣を鬼瓦の中に戻すのであった。
草薙の剣を戻すことので、時空の扉が開き、元の世界に帰ることができると考えていた大和だが、熱田神宮では、結局何も起こらず、がっかりしていた。
「やっぱり、分杭峠まで行かないとダメかな」
「大和、焦らないの。まだ、名物きしめんを食べていないんだから」
そう言うと、熱田神宮の境内のベンチに座って、夜が明けるのを待つ二人。
夜が明けて、境内の茶店が開くまで、境内の中をぶらついていると、その先に、見知った土偶の石碑があったのだ。
遮光器土偶、いわゆる宇宙人が、太古の昔、この地球に飛来した証拠であると言われているが、大和と巫矢は、別の意味でその姿形を良く見知っているのだ。
その土偶の鎮座している石台には「眼鏡之碑」と書いてある。
「ふざけやがって! このメタボが! 土蜘蛛一族は、容姿にコンプレックスを持っていたようだが、てめえのような体形に誰が好き好(この)んでなるかよ」
「こんなところで、えらぶっているなんて!」
この姿こそ、土蜘蛛一族と対峙したスコットランドの廃城に顕現した意識集合体の仮の姿であったのだ。宇宙から、この地球にテレポートしてきた知的生命体は、実は思念体であり、自分たちの前に現れる意識集合体の仮の姿を模して、肉体を持ち、神と崇められるようになったのだった。
天孫降臨という神話も、真実は、実はこんなところからきているのかもしれない
大和が、思わず、闇裂丸を鞘ごと、土偶に叩きつけようした途端、土偶から目に見えない波動が広がり、それに抵抗できずに大和と巫矢の動きが縫い留められる。
さらに、その波動は、空間を歪め、景色が白黒に変わり、周りの音が消える。
「巫矢、これは?」
「たぶん、時空を飛ばされます!」
焦った二人に、聞きなれた意識集合体の声が聞こえる。
「巫矢、お前の放った矢に引き寄せられるように電磁力を繋げ。わしでは、時空に穴を開けることができても、時空の先を指定することは出来んのだ」
「巫矢、こいつ、なんか言っているぞ!」
「そういうことですか。なるほど、わかりました」
二人は、気が付くと、屋根の上に立っていた。時空を飛ばされて平衡感覚を失っていた大和と巫矢は、足場が悪いため、思わずよろめいた勢いで、屋根から飛び降りた。
「あれ、ここは?」
「巫矢、どうやら、ここは、熱田神宮、しかも、お前が闇鋼の矢を放った元の世界の熱田神宮みたいだ。あの鬼瓦を見てみろよ」
大和に言われ、巫矢が、今まで立っていたところを見ると、鬼瓦の額には、巫矢の矢が通った穴が開いている。
「大和、私たち、帰って来たのね」
ほっと、安堵する二人に向かって、怒声が浴びせられた。
「お前ら、あんなところで何をしていた!」
いきなり、怒鳴られて、ふてくされた大和に変わって、ここの神主さんと思われる男に、巫矢が謝る。
「いえ、きしめんを食べさせてくれる茶店を探していたら、迷ってあそこに居たんです。信じてください」
「いや、迷って、屋根の上には上がらんだろう。まあ、怪我もなかったようだし、いい大人が、バカなことをするもんじゃない。
それに、古くからある境内の茶店は、その先じゃ」
「神主さん。ありがとう」
指先で、茶店のある方向を指し示す神主さんに、お礼を述べ、巫矢は、大和を引っ張って、その示された道を二人より添い、歩いていく。
「大和、ここで、きしめんを食べたら、どうします」
「巫矢はどうしたい? この前の旅行の続きで、諏訪湖まで行くか?」
「うーん。五年間も、長い婚前旅行を続けたみたいで、もう疲れました」
「だよな。きしめんを食ったら、神魂の里に帰るか?」
「でも、私たちって、里を離れて、五年も、経っているのよ」
「そうか、あのじじいにとっては、俺たちは、五年間もブラブラしていたことになるのか?
どやされるのが目に見えているな」
「だったら、私たち駆け落ちでもする?」
巫矢の言葉に思案顔を浮かべる大和。里に帰るのが嫌だとなれば、あいつ等(土蜘蛛一族)の息の根を止めるのも悪くない。天空の聖杯でも、里に持って帰れば、五年間もブラブラしていたことも帳消しになるかもしれない。もっとも、こちらの時代のいつに帰ってきたのかも、今のところはわからない。いや多分、大和や巫矢が闇鋼を練成してから、ほんの数日しかたっていないに違いない。
二人の姿形はその時と全く変わっていないのだ。
「そうだな。この世界には、石工がまだ存在しているからな。今から七〇年後か……」
「私たち、よぼよぼになっちゃうよ」
「だな、よし、巫矢、結婚しよう」
巫矢は、大和の申し出に、びっくりして大和の顔を覗き込んでいる。
「いや、まあ、あの化け物たち相手では、さすがに、よぼよぼになった俺たちじゃ、骨が折れるかなと思って」
「うん? だから」
「いや、巫矢がいう婚前旅行って相手をよく知るために、二人で旅行するんだろ」
「うん。それで?」
「いや、巫矢みたいなじゃじゃ馬を嫁にしようとする奴って、俺以外に居ないのがよくわかった」
「だから?」
「いや、新婚旅行の行き先は、海外がいいかなと思って……」
しばらく、考え込んでいる巫矢。本当は嬉しかったのだが、少し、デスられている気もする。
ジト目で、大和を窺(うかが)う巫矢。
「この時代、新婚旅行で、海外に行くのは私たちが初めてですよね。本当は、新婚旅行の行き先は、恋人たちのメッカ、ハワイと言いたい所なんですが、ヨーロッパのスコットランドあたりでもいいかなと、今思いました」
巫矢が、そこまで話し終えると、大和を見る瞳に熱が帯びる。
「大和、大好きなお兄ちゃんに、どこまでも付いて行きます。傷ついた時も、病める時も、貧しい時も」
「あの、巫矢さん。健やかなる時も、富める時もが抜けていますけど?」
「大和と一緒にいて、そんな時、来るわけないでしょ。大和、それにしても、神魂一族って貧乏ですよね」
「いや、清く、正しく、美しくが神魂一族のモットーだ」
「あーあっ、例え、大和の奥さんになっても、状況は変わらないか」
「俺たち、二人で、結構いいことしてきたのにな。こういうのを、貧乏くじを引いたっていうのかな」
「そんなことないよ。私が生まれた星みたいに、この地球にだってアセッションが起これば、飢えや争い、それに死さえなくなるんだよ。貧乏なんて概念がなくなっちゃうよ」
「そうか、じゃあ、ヨーロッパにいる鬼どもをぶっ飛ばさないとな」
「そうだね。俗物が世界を牛耳っている内は、アセッションも起こらないもんね」
二人は、なんだかんだ言っているが、二人の尽力に、人類が進化できるかどうかが掛かっているのだ。
前世、魂を分けた二人が、同じ世界、同じ時代に居て、神の御業を為す闇鋼の神器を持つ以上、神(意識集合体)は、さらなる試練を与えるに違いない。
完
太平洋戦争の裏側では、世界征服を企む秘密結社とそれを阻む一族がアルマゲドンを繰り広げていた 天津 虹 @yfa22359
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