第43話 そして、空船で治療を終えた大和と巫矢は

 そして、空船で治療を終えた大和と巫矢は、空船で、草薙の剣と天空の聖杯を返すための相談をしていた。

「巫矢、この治癒装置、マジですげえな。俺、もう一生、松葉つえが離せないと思っていたけど、怪我する前と変わらないもんな」

「でしょう。意識集合体にアクセスしたとき、生前の記憶を見せられて、空船の機能や設備について、色々と知っていたんですが、私もまさか、これほどまでとは思いませんでした」

「そうか、この空船、神魂の里の長になったら、自由に使えるのか……。長になるのも悪くないよな」

「そうですよ。やっとその気になったんですね。大和」

 実は、この空船の発動条件は、長の許可だけではない。神が認めた場合だけ、神が空船を動かしている反重力装置の電磁波動を、乗っている人間の気の電磁波動にシンクロさせているのだ。だから、気の量が大きいだけでは、この空船を動かすことができない。空船と操縦者の波長が合わなければ、動かすことは不可能なのだ。

 大和が、内心考えている空船を足代わりに使うという夢は実現不可能なのである。

 もちろん、巫矢は、このことも、テレポート前に知っている。

 しかし、大和が、長になることで、今の長の奥さん同様、神魂一族を影から牛耳ることが、出来るとほくそ笑んでいるのだ。

「それで、大和、草薙の剣と天空の聖杯とどっちを先に返すんですか?」

「それは、決まっているだろう。草薙の剣が先で、奥出雲の神魂の里が後だよ。天空の聖杯と空船は、最後に返す。空船ならあっと言う間に目的に着けるもの」

「そう、上手くいくかな? 」

 巫矢は、神のしたたかさを大和より良く知っている。なにしろ、意識集合体イコール神なのだ。大和も、そのことを後で知ることになる。神にとっては、土蜘蛛一族を滅ぼした時点で、大和や巫女の任務は終了。後は、自分たちで何とかしろと言うはずなのだ。

 果たして、巫矢が思っていた通り、空船は、大和の意志に反して、神魂の里に向かう。


ナビを見ていた大和は、必死で、気を制御し、空船を操ろうとするが……、すべて、無駄であった。

空船は神魂の里の上空に停泊させると、いきなり、巫矢最初に闇鋼の矢を打ち込んだ床ごと、大和や巫矢の足元の床が消滅し、そして、二万メートルの上空に大和と巫矢は放りだされていた。

「巫矢、どういうことだ?」

「もう、空船は、私たちの意志通りには、動かないという事ですね。空船に戻るための闇鋼の矢も、飛ばされました」

「という事は?」

「天空の聖杯を、神魂の里に返した後、歩いて、熱田神宮に行けということでしょう」

「やっぱり、甘くはないか!」

「婚前旅行をこの世界でしろとの、神様の計(はか)らいじゃないですか?」

「それなら、分杭峠からやり直させてくれー」

「いや、振り出しに戻るが正解でしょう」

「俺たちは、スゴロクの駒かよ!」


 そんな、愚痴を言いながら、スカイダイブの体制を取り、神魂一族の長の屋敷の前の開けた場所にライデングする。

 大和と巫矢の気を感じて、広場には、神魂一族の長を始め一族の者が、集まって来ている。


「よう、五年ぶりぐらいになるか?」

 大和が、長に声を掛ける。

「お主たち、よくも無事だったことよ。この太平洋戦争の結末、お主たちが暗躍した結果なのであろう?」

「そうでもない。天皇が人として野に降(くだ)ったことは、天皇がご自身で決めたことだ。それに、東京に原子爆弾が降り注ぎながら、無事だったのは、影の一族の主(つかさ)さんのおかげだしな」

「それにしても、日本国が、石工の陰謀で、軍隊の上陸を許し、焼け野原になることを見事阻止して見せた」

「そんなことより、これ、この里に置いていくから、守ってくれよ。神魂一族の至上命令なんだろう」


 大和が、リュックから無造作に取り出した手には、天空の聖杯が握られていた。そして、長に手渡しながら一言付け加えるのだ。

「これ、蓋とセットになっているから、絶対に蓋を開けっ放しにするなよ。とんでもないことが起こるらしい」

 これは、神から聞いた忠告である。実際になにが起こるかは、大和も巫矢も知っているわけではない。


「これは、天空の聖杯。確か、エルサレムで石工に強奪されたはずだが、お前たち、石工とも、やらかしたのか?」

「まあ、そういうことだ」

「過去から何度も、神魂一族の猛者が、取り返そうと暗躍したが、誰ひとりこの里にもどってくることは無かった……」

「そうか……、確かに、俺たちも苦労したからな」


「大和、あとほら、空船の事も」

 巫矢が、大和の脇を突っつく。

「それから、長。空船も、この里の上空に停泊している。もう、動くことはないだろう。確かに、返したからな」


 そう言うと、大和は、すでに長たちに背を負向け歩き出していた。

「すまなかった。大和、そして巫矢よ」


 長は、大和と巫矢に礼を述べるが、巫矢は、ぺこりと頭を下げ、小走りに、大和に追いつくと、左腕をとって歩いていく。大和は、振り返ることなく、右腕を後ろ手に振って、歩いていくだけだった。


「あれが、わしの兄貴になったかも知れない人か……」

 神魂一族の長、神魂聖衛門は、そう呟くと、自分の兄を誇らしげに思いながら、二人の背中を見送るのであった。

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