第42話 そこで、巫矢が答えたのだ

 そこで、巫矢が答えたのだ。

「あのね、あの邪玉の動き、あれは、原子モデルで言うと、原子核とその周りを動いている電子に似ているわ。そのことに気が付いた私は、固体中の電子を止める方法に気が付いたの。

 電子って言うのは、磁力を流して、電場を印加すれば、そちらの方向に加速され、電場の向きを反転させれば電子もそれに追従して向きを変えるの」


「それは、当たり前だろう」

 口から、血を吐きながら、悔しそうに唸っている。


「そうね。でも、電子が追いつけないほど素早く、地場の向きを変え続ければ、電子は結局どちらの方向に動いていいか判らなくなって、その動きを止めてしまうの。でも、電子が動きを止めるためには、一秒間に数百兆回のスイッチングが必要になるのよ。この周波数は、丁度、光の周波数に相当するんですよ」


「くそ、そんなことが可能なのか?」


「だから、理論的には、高周波の交流電場を掛けるためには、物質の破壊限界を超える強い光が必要になるんです。つまり、そんな高周波の波動を出せる物資など、この世には存在しないよ」


「くそう。それができるのが闇鋼という事か……」


「そうなの。神の波動は光の波動と同じ。神と悪魔は、しばしば、光と闇に例えられますよね。あなたたちの闇は、光によって砕かれたのです。まさに、「真の神の力を体現せよ」の言葉通り、闇鋼は、その真の力を発揮したんです」


「見事だ……。しかし、この世界で土蜘蛛一族が滅んだとしても、パラレルワールドは無限にあるのだ。また、どこかでお前らの隙をついて、呪い殺してやるぞ……」


 そういうと、土蜘蛛たちの身体は、灰になって、風の吹かない地下室の中に、一陣の風が舞い、その灰を吹き飛ばしてしまう。


「巫矢、お前、どこでそんな知識を?」

「私この星にやってくる前の星」

「いや、お前、その世界で、一〇歳で肉体を失ったんじゃなかったのか? とても子供が習得できる知識じゃないぞ」

「ええ、若かったわよ。でも、肉体を失って、思念体となって、でも意識集合体にアクセスすることで、過去、現在、未来の全ての知識が得られるのです」

「だったら、未来も見通せよ! こんなに苦戦しなくても済んだのに」

「バカね、肉体を持ったら、意識集合体にアクセスできないの。それに、すべての知識を持っていても未来は予測できない。ラプラスの悪魔って言葉知らないの」

「ラプラスの悪魔?」

「今の邪玉の動きがそう。電子の動きもそう、見ようとすれば、観察できない。観察しようとすると見えなくなる。要するに、動きが予想できないのよ。量子論が研究されて、一九世紀の物理学者のラプラスっていう人が言った。現在の全ての物理現象の状態が把握できれば、未来は予測できるという説が覆された。だから、ラプラスの悪魔っていうの」

「ふーん。もう一つだけ聞いていいか? 俺は、幼いころに死んだのに、お前はなんで、一〇歳まで生きて、アセッションを迎えることが出来たんだ? もっとも、だから、こうやって地球にやってこれたんだから、嬉しいことなんだけど」

「そうね。私の方が魂の量が多いからじゃない。なにせ、人類滅亡の危機を救ったんだから。魂の徳の量が違うわよ」

「そうか、そう言われれば納得だな。今、この世界があるのは、お前が、大洪水を止めたからだからな」

「そういうこと」


 そうやって、巫矢は、大和を支え、立ち上がらせる。

「うーん。私たちの傷、空船の回復装置で何とか治るといいけど。どちらも、複雑骨折していますね」

「まて、まて、この傷、直すことができるのか?」

「たぶん。神代って、兵器だけじゃなく、医療も信じられないくらい進んでますから」

「勘弁してくれよ。一番チートなのは空船じゃあないか」

「それで、思い出しました。ちゃんと天空の聖杯を回収して、空船と一緒に、神魂一族に送り届けないと」

 

巫矢は、そういうと、テーブルの上に転がっている聖杯を手に取り、背負っていたリュックに入れた。

「まだ、することが在ったか……」

 満身創痍の大和は、さすがに気弱な発言をしてしまう。

「まったく、天空さんが、時空を行き来できる神宝を作るから、私たち碌な目に遭わないよ」


 巫矢は、愚痴を言いながら、びっこを引く大和を支えて、廃城の地下室の階段を上がる。

 そして、地上に出ると、空船に帰還する前に、腹いせに、この廃城をダイナマイトで破壊しておくのだった。

 

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