第41話 その化け物が、首に掛けた一三の玉

 その化け物が、首に掛けた一三の玉を持つ数珠に手を掛ける。そして、何やら、口元を動かし、呪文を吐いている。明らかに、その数珠玉は、邪悪な気を放っているのだ。

「我らを見くびるなと言ったであろうが! 邪玉乱舞(ジャギョクランブ)!!」

一三人の数珠から邪玉が、大和と巫矢に向かって一斉に飛来する。その数、一三×一三=一六九個だ。そのスピードは音速を超え、ライフル銃の弾丸を凌駕している。

 その玉を、華麗に避け、躱(かわ)し、闇裂丸と鞘、草薙の剣と射闇弓を逆手に持ち弾き返す大和と巫矢。

 だが、躱したり、弾き返したその邪玉(じゃぎょく)は、向きを変え、再び大和と巫矢を再び襲うのだ。


「な、なに!」

 焦ったために、隙ができ、腕や足など、数か所を打ち抜かれ、なおも、大和と巫矢の身体の周りを衛星のように飛び交っている。しかも、逆回りしている邪玉や、その軌道を無視して、まるで、瞬間移動するように、その存在位置を変える邪玉があるのだ。


トップサーティーンが、フードを脱ぎ放ち、そのおぞましい肢体を晒した。

 全身、黒光りする鱗に覆われ、真っ赤な縦に割れた瞳に、その額にはさらに角が生えている。

「見たか! これこそ、死んでいった我が一族の怨念を凝縮した角を集め、錬成した邪玉の威力!手も足も出まい」

 その予測不可能な、邪玉の動きに、翻弄される大和と巫矢。致命傷となるような軌道の邪玉は、ギリギリのところで、弾いているのだが、すでに、体全体に傷を負い、着ていた特攻服はズタボロになっている。

「大和、私ダメかも知れない。大和と違って、刀の扱いになれてないの」

「巫矢、諦めるな。俺の背中に回れ! お互いに守る範囲を少なくして、この事態を乗り切るんだ」


 大和と巫矢は、背中合わせになって、お互いの背中を預ける大和と巫矢。二人の魂が一つになった錯覚さえ覚えている。何とか、窮地を脱したかに見えたが、邪玉の攻撃はさらに激しくなっていく。

 邪玉が、遂に巫矢の左ひじの関節を打ち抜いた。その衝撃で、大和の背中に倒れかかった巫矢を大和は、必死に支えて、巫矢を襲う邪玉を弾き返す。

「巫矢、大丈夫か!」

 しかし、その隙を付かれ、大和は、足首を邪玉に打ち抜かれてしまう。

 この邪玉は、壁や地面をすり抜け、大和の足首を穿ったのだ。


 だが、この瞬間、巫矢を大和が守った一瞬に、巫矢の脳内ドーパミンが一気に活性化する。

 これは、人間が本来は、死ぬ一瞬で、自分の人生を走馬灯のように見ると言われるように、脳の情報処理能力が一気にステージアップするためと言われている。

 それでは、大和と巫矢は、ここで死んでしまうのか?

 ところが、巫矢の性格はそんな、愁傷(しゅうしょう)なものではなかった。したたかな巫矢は、一気に上がった脳の情報処理能力を、敵を倒す一点に集中している。


「この動き、何かの動きに似ているのよね。なんだったかな?」

「何か言ったか、巫矢?」

 巫矢は、大和の問いかけにも答えない。たぶん、巫矢には、大和の問いかけは聞こえていない。おそらくは、五感のすべてを脳の情報処理に回している。人間が窮地に立った時、すべてがスローモーションに見え、その景色は、カラーから白黒に変わるのと同じ現象が、今巫矢に起こっているのだ。

 そして、大和にも同じことが起こっている。邪玉に集中するあまり、音速を超える邪玉をスローモーションのようにその目で捉え、巫矢に近づく邪玉を辛うじて叩き落としているのだ。

「大和、闇裂丸の電磁波動を光の速さで、電場を切り替えて!」

 突然、巫矢が、大和に向かって叫んだ。

 大和は、巫矢の叫びに合わせて、闇裂丸の電磁波動を光の速さで、電場を切り替える。

 すなわち、電極のプラスとマイナスのオンオフを一秒間に数百兆回スイッチングしているのだ。

 さらに、巫矢も同様に、草薙の剣の電磁波動を光の速さで、電場を切り替える。只違うのは、大和の闇裂丸のオンオフとは逆のタイミングで、一秒間に数百兆回スイッチングしたのだ。


 すると、今まで、激しく動き回っていた邪玉の動きが止まった。そして、その場で、超振動すると、粉々に砕け散ってしまったのだ。

 その爆発に驚愕して動きが止まったトップサーティーンに対して、この隙を見逃すはずがない大和と巫矢。

「大和、お願い」

 巫矢と大和は、持っていた闇裂丸と草薙の剣を素早く、それぞれトップサーティーンの一人に向かって投げつけた。さらに、射闇弓を大和が構え、闇鋼の矢を束にして番え、トップサーティーンに向かって矢を放ったのだった。

 左ひじを撃ち抜かれ、左が使えない巫矢と、左足首を撃ち抜かれ動けない大和の魂が繋がった連携攻撃であった。


 あっと言う間に、一二人の悪魔が倒れた。


「ばかな! こんなことが在るはずがない」

 最後に残った悪魔は、動けない大和に向かって、懐から抜いた邪角で錬成したダガーナイフを突き立てるが、大和は、片膝を付きながら、闇鋼の鞘で受け止める。

「動けない俺にわざわざ近づいてくれるとは好都合だぜ」

「なに? 動けんお前になんの策があるというのだ!」

 最後の悪魔は、勝ち誇ったように大和に罵声をあびせた。

 しかし、その時には、すでに、土蜘蛛の背中に闇裂丸が突き刺さっていたのだった。

 そう、闇裂丸とその鞘が、電磁誘導に引き寄せられ合った結果であった。


「ぐはっ、しまった。電磁力を忘れていたとは、不覚であった。しかし、なぜ、我らの邪玉が、途中で動きを止め、破壊された?」

 背中に闇裂丸が突き刺さったまま、血を吐く土蜘蛛一族の総大将。しかし、邪玉が動きをとめ、その場で、粉々に破壊された訳を聞かずにはいられなかった。


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