第40話 巫矢はそう言い放つと
巫矢はそう言い放つと、青銅の草薙の剣を構え、鋭い眼光で、土蜘蛛であるトップサーティーンを睨みつけた。
すると、青銅であるはずの草薙の剣がまばゆい光を放ち、その光の中、逆光で、その姿は輪郭でしか見ることはできないが、神々しいその姿が、ホログラムのように浮かび上がった。
「私をお兄ちゃんのいる地球のテレポートさせてくれた意識集合体の姿!」
「巫矢、お前のその気持ち、確かに意識集合体の深層に届いたぞ。そして、お前たちに真実を知らせるべき時が来たのだ」
その、神々しく、そして威圧感に満ちた声に、大和や巫矢、それに、トップサーティーンも誰ひとり動くことができない。
その中、意識集合体は滔々(とうとう)と話を始めるのだった。
「天孫降臨した神々に従う十部族が、双子の兄妹のどちらを後継者にするかで、争いを始めた。その時、丁度、神々とその十部族は、エルサレム周辺まで、征西していたのだが……。
我々、神と呼ばれる意識集合体は、たかだか土蜘蛛一族の甘言に乗ったその争いを見て、一旦、世界を造り直すことにした。そこで、世界が没するほどの大洪水を引き起こしたのだ。
だが、その大洪水に翻弄された空船から、我々神の怒りを鎮めるために、身を投げた少女がいたのだ。まあ、傍目には、兄妹が争い、兄の剣が、妹を刺し殺したようにみえたのだろうがな。
だが、事実は違う。時の天皇も、この大洪水による神の粛清は予知していたようで、この世界を滅ぼさないように、どちらかを神への生贄と考えて、双子を育てていたのであろう。
その場で、迷うことなく、天皇は、そこの娘を指差し「この洪水を鎮めるために、その女子を生贄にせよ」と言ったのだ。
しかし、そこで、天皇に刃を向けたのが、そこにいる大和、お前だった。「誰が、妹を生贄に差し出すものかとな」
ところが、妹は誰かが犠牲にならなければこの大洪水は収まらないことを知っていた。それで、妹は、天皇を庇うように、大和が天皇に向けた刃の前に飛び出し、自ら、大和の剣に向かって、心臓を刺し貫くように抱きついたのだった。
そして、その妹の最後の言葉は……」
神が言葉を濁したが、その後を、巫矢が言葉を繋いだ。
「お兄ちゃん、大好きだった。私は死ぬけど、お兄ちゃんはこの世界を滅ぼそうと、甘言を用いて欺いた土蜘蛛一族を、必ず滅ぼして」そう言って、私は荒れ狂う海の中に身を投じたの。私、あの時の事を全て思い出したわ」
「巫矢。そうだった。俺も、今すべてを思い出したぞ。そのことが在って、洪水の水が引けた後、父、天皇はお前が死んだことを悲しみ、東洋の島国に引っ込んでしまった。そこには、すでに、無用の争いは好まずと言って、十部族の争いから身を引いていた神魂一族が住んでいた。そうやって天皇は、神魂一族に守られながら、国を築き上げたのだった。
だが、俺は、妹との約束を守るため、妹の敵(かたき)、土蜘蛛一族を追いかけて、さらに西進して、土蜘蛛一族を倒しながら、ヨーロッパにたどり着いた。この地で、遂に力尽きたんだが、あの時の生き残りがまだ、一三匹も居たとはな」
大和は、眼光鋭く、トップサーティーンを睨みつける。
そして、現れた化身もまた、トップサーティーンを見て言うのだ。
「土蜘蛛一族よ。我らを裏切り、相変わらず甘言を用いて、人々を欺き、不幸に叩きこんでいるようだな。それは、神の容姿が得られず、爬虫類のような姿形になった腹いせなのか?」
「やかましい。先住民族の我らを滅ぼし、この地上を我が物顔で闊歩する奴らに何がわかる」
フードの中から、長いムチのような舌を出し、牙をむき出しにするトップサーティーンたちは、懐から拳銃を抜いて、神に向かって銃鉄を上げた。
「人の姿形は、心の写し身。汝らの魂はすでに悪魔になってしまったようだ」
「我らを悪魔と言うなら、神などは存在しない!」
現れた神に向かって、一斉に引き金を引いたトップサーティーンたち。
「愚かな、神に向かって牙を剥(む)く獣(けもの)よ」
トップサーティーンに向かって悲しそうな眼をした意識集合体は、今度は、大和の巫矢の方に向かって言うのだ。
「わが意志を継ぐ者たちよ。真の神の力を体現せよ!」
そう言うと、今まで光り輝いていた後光は消え失せ、ホログラムの神が姿を消すとともに、今度は、その光が、大和の持っている闇裂丸と、巫矢の持っている草薙の剣に収束していく。
そして、闇裂丸と草薙の剣の表面に亀裂が入ったかと思うと、表面が剥がれ落ち、中から、白金(はくきん)の輝きを持つ、刀身が現れたのだ。
「大和、どうしよう。黙って借りて来た草薙の剣の姿が変わっちゃった」
「別にいいんじゃないか。もともと、俺の物だし、闇鋼が真の姿になっただけだろう。やっぱり、神が闇鋼を錬成すると出来が違うな」
「そうね。大和の物は私の物だしね」
「ちょっと待て、それはおかしく無いか?」
「別に、夫婦だから当たり前だと思うけど」
「待て、いつ夫婦になった。じゃあ、巫矢も物は、俺の者なのか?」
「なにを、言っているのよ。私の物は私の物に決まっているでしょ」
傍目には、じゃれ合っているようにしか見えない大和と巫矢に向かって、トップサーティーンは銃を乱射する。
「やかましい! 死ね! 死ね! 我らの邪魔をするものはみんな死ねばいいんだ」
しかし、大和と巫矢は、弾丸程度であれば、その人智を超える身体能力と、動体視力で、次々と叩き落としている。
高々、8連発のリボルバー式拳銃などアッと言う間に全弾撃ち尽してしまう。だが、トップサーティーンは、次の弾倉を補充しようともしない。
「なんだ。もう諦めたのか? 俺たちに命乞いをしても、聞く耳を持たないぞ」
「誰がお前たちに命乞いなどするか」
「そうだ、我々には、秘術があるのだ」
「秘術? お前たちは、せいぜい、人の耳元で、甘言を吐き、誘惑して、堕落させるのが得意なだけだろう。正体を見破られた今、俺たちにはそんな戯言は通用しない」
そう言い放つ大和だが、決して油断することはない。少なくとも、神代の時代から生きている化け物なのだ。
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