第39話 揺らいでいた影の輪郭が

 揺らいでいた影の輪郭が、ますます濃くなり、フードを被って人相も何もわからないが、その血走ったような赤い瞳だけは、はっきりとわかるのだ。

 その者たちが、立ち上がり、何やら祈りを捧げている。そして、テーブルの中央に置かれている天空の聖杯に向かって、腕を差し出したのだ。

 その差し出された腕には、ウロコが生え、自らナイフにより傷つけた腕からどす黒い緑がかった血が流れている。その血を聖杯に向かって注ぎ込んでいるのだ。

「我々の血を媒介として、呪いが発動する。

神魂一族の大和と巫矢は、この呪いを受けて、時空に狭間に落ち、その場を永遠に彷徨いつづける。

二度と現世に蘇ることはないのだ!」


血液を注ぎ込まれた聖杯は、普通なら、その気のエネルギーを媒体に、空間を歪め、時空の裂けめを作りだし、大和と巫矢のいる空間ごと、時空のはざまに送り込むところなのだが、しかし、空間の歪みは起こらず、しかも、聖杯が突然輝きだし、その地下室を覆っていた深く淀んでいる空気を、清浄なものへと変えていくのだ。


「どうしたのだ?」

「なにが起こっているのだ。われわれの儀式が発動しない? 」

「いや、それどころか、われわれの邪の波動さえ、浄化されつつあるぞ!」

「みろ、聖杯が共鳴している」

「共鳴だと? 近くに闇鋼があるということか!」

 儀式による呪いが、発動せず、混乱するトップサーティーンたちに追い打ちをかけるように、声を掛ける者がいた。



「よう、どうしただって? それは、こちらのセリフだろ。勝手にこちらに呼び出した挙句、もう用がないから、時空のはざまにお祓い箱って、人のすることじゃないだろう? こちらから聖なる波動を送らせてもらったぞ」

 地下室中に響く声がする。

 慌てて、トップサーティーンが地下室の扉の方を振り向くと、その扉が、ゆっくりと開き、奥から特攻服を着た大和が、現れたのだった。


「ホントに酷いんだから。私たちが、新婚旅行、ゴホンゴホン。いえ、婚前旅行を楽しんでいるところを強制拉致ですからね。これは、平行世界間問題に発展してもおかしくありません」

 大和の後ろから、巫矢も現れた。もっとも、巫矢は、言葉の途中で、大和に頭を叩かれて言葉に詰まっていた。


 それを見たトップサーティーンは、未だに何者がやってきて、何を言っているのかも、あまりの突然の登場に、理解することも出来ない。


「お前ら、何者だ? その軍服、 日本人なのか?」

「おいおい。勝手にこの世界に呼び出しといて、その言いぐさはないだろう」

「なに、そうか。お前らが、神魂一族の大和に巫矢なのか? なぜ、ここがわかったんだ? 誰にも知られずに集まったはずなのだがな」

「極秘裏に集まっていたのか。それで、警備がほとんどいなかった訳か。不用心なことだ」

「われわれを甘く見てもらっては困る。神代の時代から数万年も生きながらえる土蜘蛛一族の頂点に立つものだぞ。驚いたか!」


「うん、知ってた。だから、私たちも、スペシャルソードを用意したのよ」

 大和とトップサーティーンの会話に、巫矢が割って入った。


「スペシャルソードだと? なんだ、それは?」

「その前に、私たちの婚前旅行の邪魔をよくもしてくれたわね。仕方ないから、私たち、この世界で、婚前旅行の目的地だった熱田神宮に、もう一度、お参りしてきたのよ」

「熱田神宮だと、それがどうかしたのか?」

「熱田神宮のご神体は、破邪の剣、草薙の剣。神代の時代、日本武尊が、土蜘蛛一族を滅ぼした一太刀の神剣。しかし、最後の詰めで、大和武尊は、草薙の剣を、尾張の国の姫に預けて、山の神、本当は土蜘蛛の大将だったんだけど、に挑んだの。

 だけど、草薙の剣を持っていなかった大和武尊は、途中で出くわした白い猪、本当は、土蜘蛛の大将だったのに、見逃していまい、逆に、呪いを掛けられ病に倒れてしまうの」


「そうだったな。白い猪に化けたのはわしだったんじゃ」


「だから、今回は、ちゃんと持ってきたの、草薙の剣。えへっ」

「なに、だから、この場所がわかったのか!」

「そう、草薙の剣は、あんたたち土蜘蛛一族を探し出す探索の剣。しかも前回と違って、今回は、ちゃんと片割れの魂を伴ってここにやって来たのよ。前のように、呪いなんて受けないようにね」


「なんだ、その物言い? お前らは、あのにっくき大和武尊とその妹の生まれ変わりだとでも言うのか?」

「そうだと言ったら?」

「はははっ、そんなわけがあるはずがない。あの双子は、お互いに魂が欠けている。たとえ生まれたとしても、長生きできるはずがないのだ。そして、あの鬼子(いもうと)殺しの武(たける)が、妹と同じ世界、同じ時代に生まれることなどあるはずがないのだ」


「さすが、土蜘蛛一族ね。人の機敏のわからないお馬鹿さん。私は、例え、兄に殺されたとしても、兄を慕う気持ちはかわらない!」

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