第38話 兄の方に、お前ら双子はツインミラー

「兄の方に、お前ら双子はツインミラー、体だけでなく、全てが対称だ。善悪、真偽、正邪、是非、お前はどちらだ。お前が善であり真であり正であり、そして是なら相手を殺せ。そうしなければ、この世界は悪であり、偽であり、邪であり、非に染まり、最後は破滅するぞ! って囁いたみたい。」

「はあ、そんなことで、兄妹同し殺し合うわけないだろう」

「そうだ、だから、妹にも同じことを吹き込んだんだ。もはや、どちらが善で、どちらが悪だろうが関係ない。双子の一挙手一投足がお互いに気になり始めた。同じ、背格好の二人、色々比べられることもあったろうし、ストレスも溜まっていただろう。

それに、それだけじゃないぞ。傍女のやつ、天皇の家臣にも、子息が双子であることを言いふらしてしまった。せっかく、隠して育ててきたのに。家臣たちも、それぞれの双子の後見人を名乗り、天孫降臨に付き従った一〇部族は、真っ二つに割れ、事あるごとに争うようになった。

 本当の意味で、天皇家を分かつ双子は、鬼子になった。だから、鬼子の兄は、鬼子の片割れである妹を殺した……」」

「だからと言って、兄が妹を殺すなんて……」

 大和は、主の言葉に、思わず口をはさんだ。

「さあ、私には、真相はわからない。ただ、事実は、妹が死んで、兄が生き残った。兄は、この騒動の張本人の傍女を追い、ついに、その一族を追い詰めた。しかし、一部のユダ族は、スコットランドに逃げ延びたみたいだ。さらに、兄は、追いかけている途中で、病になって死んでいるな」

「妹を殺した兄に対して、次は自分かもしれないと恐れた父親の天皇が、土蜘蛛を討伐するように、無理やり命令して、自分から遠ざけたという話なら聞いたこともあるんだけど」

 巫矢は、その話を聞いて、主に自分の知っていることを言ってみた。それを聞いた主は当然知っているものと思い、大和と巫矢に衝撃の事実を告げる。

「ああ、土蜘蛛とユダ族は、同じ一族だぞ。もともと、ユダ族は神や人とは、容姿が違っていて、まるで爬虫類のような外観に、頭に角が在ったそうだ。多分、今、イメージされている鬼の原型だろうな」


「「……!」」


 大和と巫矢は同時に絶句した。神魂一族では、自分たちが、他の部族と別れ、独自の道を歩み始めた原因については、禁忌になっていて、いまや、そのような文献は神魂の里には残っていない。

 それに、巫矢自身も自分が死んだときの事は、よく覚えていなかったのだ。

 大和もまた、自分が、主の話に出てくる兄の生まれ変わりであることは、巫矢から聞いて知っていたが、まさか、自分や巫矢の前世が、石工の陰謀で狂わされていたとは思わなかったのだ。


「おい、どうしたんだ?」

 絶句している大和と巫矢に対して、主が問いかけた。

「いや、神と悪魔、最終戦争ハルマゲドンはこれからだな」

「そうね。大和、西洋では悪魔と言われるものは、日本では鬼と呼ばれていますからね」


 大和と巫矢は、にやりと笑った後、主に向かって言い放った。

「主さん、ここでお別れだ。俺たちは、鬼退治に行ってくる」

「ちょっと、ハルマゲドンをかましに行ってきますね」

「いや、ちょっと待て、ハルマゲドンって?」


 主が呼びかけるのにも答えず、大和と巫矢は、主に背を向けて歩き始めた。いつものように、大和は、後ろ手に手を振り、巫矢は、大和の腕を取って歩いていく。

 その後ろ姿は、怒りに満ちているわけでもなく、気に食わないやつがいるから、ちょっとぶっ飛ばしてくるというような気軽さが漂っている。


「大和、お願いがあるの。奴ら石工のところに乗り込む前に、一か所、行かないといけないところがあるの」

「なんだ? どこに行くんだ」

「それは秘密。でも、一度行ったことがあるところよ」

「じゃあ、空船で、ひっと跳びだ」

「うん」


 *********************


 一方、こちらは、スコットランドの古びた古城の日の光さえ届かない地下室の一室で、ろうそくの火に揺れる一三の影があった。

 この影こそ、この世界を裏から牛耳る国際秘密結社(元は石工と呼ばれていたが)の最高にして頂点であるトップサーティーンの会合が開かれているのだ。


「さて、同士よ。別の時空から、神魂一族を呼び出し、ソ連のスターリンを殺害させ、国際共産党コミンテルンを崩壊させた。アメリカの大統領のルーズベルトも葬ってくれた。奴は、われわれの後押しで、大統領に成れたのに、取り巻きにそそのかされ、共産主義擁護の政策を打ち出し実行していた」

「しかし、その取り巻きを近づけさせたのは、われわれの落ち度だぞ」

「その通りだ。あそこまで巧妙にスパイ活動をされていたとは、コミンテルン、恐るべしだった」

「確かにソ連にあったコミンテルンは、スターリンの死とともに、解散したようだが、あれも、一種の宗教だ。このまま、根絶やしというわけにはいくまい」

「なあに、その時は、また、日本かドイツをけしかければよかろう」

「確かに、あの国々の国民は中々、辛抱強く、打たれ強く、したたかだ」

「しかし、日本の国で、我々の息のかかった政治家や、財閥は処分され、解体されたぞ」

「また、造れば良いのだ。われわれの力をみせつけてやれば、向こうから尻尾を振ってくるにちがいないのだ」

「確かに、われわれの隠れ蓑として、色々と悪役になってもらう存在が必要だからな。そのためにもある程度は復興させてやらねばなるまい」

「しかし、今回は、われわれの悪事がもろに表に出るところであった。東京に、原爆の絨毯爆撃を敢行するとは……」

「ああそうだ。あそこまで、非人道的だと、国際社会で反発を食うところだ。あれだけのことに見合った悪事をでっち上げて日本になすりつけるのは、情報操作が得意な我々でも骨が折れたぞ」

「はははっ、なら、それを阻止してくれたあの神魂一族の大和と巫矢には、スターリンやルーズベルトの件と合わせて感謝しないとな」

「まさにその通りだ。一番は共倒れを願ったが、結果的には、まあまあの結末に導いてくれた」

「しかも、やつら大和と巫矢は、われわれの手の内にある。すでに、もう用済みだ。そろそろ、この世界から消えていただくとするか」

「「「「「それでは儀式の用意を!」」」


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