第37話 ふと、長い夢から覚めたように

 ふと、長い夢から覚めたように理子は我に返った。

「えっ、ここは?」

 周りを見回すと、教室で授業を受けているようだった。

「さっきまで、太平洋戦争のまっただ中に居たはずなのに? やはり、元の時代に帰ってきたのかしら?」

「天皇の英断により、アメリカやその他の国と、沖縄で講和条約が結ばれ、その講和条約の内容のとおりアジア各地の植民地は返還され、独立するようになった。それらの国を経済的に支援したのが、日本の原子力発電所を始めとするエネルギーの供給だ」

 先生が、そこまで言って、教科書も開かずぼーっとしている理子を指さす。

「東城。日本が、原子力エネルギーを完全に制御する術(ずべ)を手に入れて、石油依存から脱却して、世界に先駆け、エネルギー革命を起こして今の繁栄を築いたんだが。

 太平洋戦争で、アメリカの原爆を核分裂制御装置(フォーカスディフェンダー)で無力化して東京を死の灰から守り、世界で最初に核エネルギーを完全に制御する技術を確立した化学者は誰だ? 答えてみろ」

「えっと、影野主さん……」

「正解だ。教科書も開かず、ぼーっとしていたから当てたんだが、しっかり、予習をしていたようだな。教科書ぐらいは開いておけ」

 理子は、先生に言われて、初めて、机の上に真新しい教科書が載っていることに気が付いた。

 理子は、すぐに教科書を開き、太平洋戦争についての章を読む。そして、書かれている内容に、すぐさまのめり込んでいくのだった。


 ******************


 一方、理子を彼女の世界に帰るところを見送った三人。

「理子さんは、自分の役目を終えて元の時代に帰ってしまったようだけど、この放送、俺たちにメッセージを発しているぞ」

「大和もそう思いますか?」

「ああ、財閥を解体すると言っている。これは、国際秘密結社、石工との決別を意味する。世界ルールを牛耳る石工と決別して、これから、日本はやって行けるのか?」

「アジア経済圏の構想に、必ずちょっかいをだしてきますよね」

「ああ、俺たちの戦いはまだ終わっていない」

「そうですね。コミンテルンの陰謀を叩き潰しておいて、石工の陰謀を叩き潰さないのは片手落ちですね」

「ああ、人知れず日本国の発展を願う俺たちのやるべき事ことは、まだ道半ばと言うところだな」

「まだまだ、ここから元の世界に帰れませんね」


 理子と違ってまだ、元の時代に帰れないため、暗い顔をして、落ち込んでいる大和と巫矢を見て、主が声を掛けた。

「どうしたのよ。この放送、そんなにショックだった? 確かに、天皇陛下が人間として、日本国の国民と同じ立場になり、すべての権力を国民にゆだねるというのは驚きだけど。でも、民主主義の一歩としては仕方ないんじゃないかな?

 王国制度を取っている国も、国政に対しては、国王は権限を持っていない国も沢山あるぞ」

「ああ、それは、天皇の責任の取り方だから、俺たちがどうこう言う立場じゃないのは、わかっているさ。まあ、俺たちは、その後の国際情勢を憂いているのさ」

「その後の国際情勢?」

「ああ、武力衝突の後で、次は経済衝突がある。上前を撥ねる組織から離反する道を選んだみたいだからさ。当然、今迄のようなおこぼれには在り付けない」

「そのことか? お前たち、国際秘密結社の事を心配しているのか」


 そこで巫矢は驚いたように、大和と主の二人の会話に割って入った。

「主さん。石工の事を知っているの」

「巫矢か。当然だろう。あたしも影の一族の一人だぞ」

「それもそうか?」

「そういえば、石工の先祖は、日本の神代の時代に遡るらしいぞ」

「石工って言うのは、日本の神々と関係があるのか?」

 今度は、大和が驚いて、口を開いた。


「あれ、知らなかったのか? 石工はもともと、日本人と同じルーツを持つユダ族だろう」

「はあ? 石工は日本人と同じルーツを持っているユダ族だと」

「ああ、間違いない。お前たちと同じように、神の天孫降臨に付き従がった部族の一つだったはずだ。」

「もし、そうなら……、なぜ?」

「しかし、神の世界制覇の過程で、神と仲たがいしたんだ。他の部族を貶(おと)しめたり、仲たがいさせたりしたからな」

「そんな、それは本当なのか?」

「ああ、確か、時代が進み、神がやがて、天皇と呼ばれ始めた時、ついに、決定的なことが起った。天皇と皇后の間に双子が生まれた時、ミラーツインと呼ばれる特徴があったんだ。

 身体的特徴が、例えば右利きと左利き、右巻つむじと左巻きつむじとか、合わせ鏡のように左右対称になっていることを言うんだが、双子の傍女(そばめ)が、双子の兄に、ある事を囁(ささや)いたそうだ」


 大和と巫矢は、身を乗り出し、主の話を聞いていた。

「なんと、囁(ささや)いたんだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る