第13話  でも、偶然、同じ世界、同じ時代に

でも、偶然、同じ世界、同じ時代に生まれることができた。ただし、地球から遥か遠く離れた星に生まれたんだけど。

その星は、この地球よりはるかに進んだ文明を持っていて、その星では、すでに、五次元の世界に、私たちは意識すなわち思念体で存在していたの」

「巫矢さん。それって宇宙エネルギーを受けて人類が進化するアセッションって言うやつじゃない?」

「理子さん良く知ってるわね。そう、私が生まれて一〇年後、私たちの星にフォトンリングが通って、アセッションが起こった。そこでは、意識集合体に、その星のすべての人が、アクセスできて、肉体を捨てて、思念体となった私たちは、第六感と呼ばれるテレパシーやテレポーテーションが使えることになったんです」

「巫矢さん。そんな進化が本当に在ったなんて!」

「そう、その進化は、多分呪いを掛けた土蜘蛛一族も想定外だったんでしょう。私は、大和の意識に意識集合体を通して、アクセスすることができた。意識集合体は、過去・現在・未来に存在する全ての意識の集合体。それで、前世をおぼろげながら思い出したってわけ」

「さっきの日本武尊の話がそうなのね」

「理子さん、そう言う事なの。お兄ちゃんの存在を知って、私は、居ても経っても居られなくなり、テレポーテーションでこの地球にやっていた。でも、思念体だから、幽霊みたいなものね。ある日、修行の事故で死んだ神魂一族の女の子の体を借りて、後は、意識集合体が、神魂一族の人たちの記憶を改ざんして、私の存在を誰も不振に思わないようにして貰ったの」

「そうか……」

 巫矢の話に静かにうなずく大和。しかし、神魂の里に育ち、今までの経験からも、大和は神のしたたかさも、また良く知っていた。

「巫矢、それだけじゃないだろう」

「その通りよ。意識集合体はまさに神々の意志。私に色々力を貸してくれた理由はちゃんとあるの。

 時代の裂け目に人の皮を被った鬼がでる。鬼退治の第一人者である日本武尊を時代の裂け目に送り届けて、その目を摘むのが私の仕事。大和や私は、存在する世界以外は、どの時代どの世界に飛ばしても、タイムパラドックスが発生しない便利な駒なんです」


「それは、例え、石工の奴らが、天空の聖杯を使って、俺たちをここに召喚したとしても、それは神の意志でここに飛ばされたということだな。この時代、この世界でこの空船を使えと言うのが神の意志なんだな。巫矢」

「大和、そういうことです」

「ちょっと、待ってください。私はなんで、この時代に居るんですか」

 神の意志? といわれて納得できる常識を持ち合わせていない理子は、訳がわからないというように食い下がる。ここで存在を無視されると、心細さで死にそうになってしまう。

「ああ、理子さん。どうやら、今の時代は、天空歴一九四一年、日本がアメリカとかイギリスとかと戦争を始めた時代みたいです」

「えっ、太平洋戦争の時代なんですか? そう言えば、私、この世界に飛ばされる前、先生と歴史の見解で言い争いをして……。それで太平洋戦争の真実が知りたい。だれが仕組んだのか真実が知りたいと望んだんです。そうしたら、戦死した英霊たちが、「行け、そして、神魂一族を助けろ」って言われて」

「さっきの話ね? 英霊たちも肉体を失った後、あの世で意識集合体にアクセス出来たことで、真実を知って、怒り心頭ってところかしら。それで、私たちを助けろってことは、私たちの水先案内人になれっていうことかな?」

「わかりません。でも、歴史には、自信があります」

 そうなのだ。何も知らない大和や巫矢が、国際秘密結社の思惑通り、ソ連とかみ合わなかったのは、理子という想定外の異分子が、召喚に紛れ込んでいたためなのだ。


「そうね。これから何が起こるのか知っているのは、断然こっちが有利ですからね」

「わかった。それじゃあ、行動を開始するか!」

 巫矢と東城理子の話を黙って聞いていた大和は、景気よく二人に号令を掛ける。

「さすが大和です。細かいことは気にしません!」


 大和は、自分が日本武尊の生まれ変わりだろうが、魂が半分しか無かろうが、そんなことはどうでもいい。今、自分のそばにいる巫矢を、自分の手で殺したことがあるという事実のみが、大和の胸を締め付けるのだった。

 この世界で巫矢を大切にする。大和が思うことはそのことだけである。

 それは、巫矢も同じことを考えている。

 このお互いの思いこそが、呪いに抗い生きて行くための原動力になっているのだ。


「巫矢、まずはどこに行く?」

「大和、その前に、これから一緒に行動するんですから、東城理子さんに自己紹介をしないと」

「そうだな。俺は神魂一族の大和だ」

「そして、私は巫矢。大和と婚前旅行の最中に、この世界に召喚されました」

「婚前旅行って、お二人はそんな仲なんですか?」

「ええっ、そうなの。大和は私にメロメロなの。だから、理子さん、大和に色目を使っても無駄ですからね」

「そんな、巫矢さん、色目なんか使ってません」

「巫矢、誰がメロメロだって」

「でも、大和、ほら、前世から、二人は結ばれるって決まっているんですよ」

「ばか、そんなこと言ってると、理子さん困っているだろうが」

「いえ、私、決して二人の間に入ろうなんて思ってないです」

「そういう意味で釘を刺しました」

「まあ、俺も、理子さんには、いつかは自分の時代に帰ってほしいとは思っているんだけど」

「大和さん、私、帰ることができるでしょうか?」

「ここで、自分の使命を成し遂げれば必ずな」

「はい」

「はいはい、そこで二人で見つめ合わない」

「ご、ごめんなさい。巫矢さん。でも、どこに行くにしても、私たちこの世界の情報が少なすぎます」

「確かに、理子さんのいう通りです。じゃあ情報収集のために、影の里でしょう」

「なるほど、日本の諜報活動を一手に引き受けているという影の一族か。それでこの空船どうやって動かすんだ? 巫矢」

「空船に気を通し、制御するんです。それに、モニターに行き先や行路もしっかり出ますから」

「便利な物だな」

「大和さん。これって私たちの時代では、ナビゲーションシステムって言うんです!」

「そうか?」

 大和は、理子が未来からやって来たことを知り、謎の言葉に一々(いちいち)反応することをやめたのだが、そのことで、理子は少し物足りなさを感じていた。

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