第14話 それから、わずか数分後に空船は
それから、わずか数分後に空船は、影の里の上空にいた。まったく知り合いがいない影の里で、どれほどの情報が得られるかはわからないが、それでも、今の時代の情報を得るために行かねばならない。
大和が気と意識を下界の影の里に向ける。そうすれば、空船の床が再び、円形に消滅し、大和と巫矢、そして理子は一直線に影の里に向かってダイブする。
理子の両脇で大和と巫矢が支え、なんとか、体制を整えながらの空中遊泳である。
「キャアー、な、なんで私の足元も消えるんですか! それに、な、涙が上に上がっていきます。それに、鼻水も」
「ちょっと、バランスがとりにくいんだから、理子さん大人しくしてください」
「まあ、まあ、巫矢、重し替わりに丁度いいじゃないか。風で流されることも無いし、落下スピードも速くていいな」
「そんな、大和さん。私、体重は軽い方なんですよ」
「そうだな、少し栄養が足りてないか?」
「乙女に、体重のことを尋ねるのはタブーなんだからーー」
「もうすぐ着地だ。歯を食いしばれ。舌を噛むぞ」
里に降り立った大和と巫矢そして理子。上空二〇キロの高さからのダイブで、生きた心地がしなかった理子は、足ががくがく震え、腰が抜けてしまったようだった。
そんなことはお構い無しに、周りを取り囲み、警戒する影の里の住人をしり目に、大和は大声を上げる。
「俺たちは神魂一族の大和と巫矢だ! 影の里の長と話がしたい!」
「神魂一族だと? 本当なのか?」
ガタイの良い男が大声を出す。
「空から参上する者が他に居るのか?」
大和がそれに答える。
「いや、パラシュートもなしで、そんなことのできる者は……」
言葉が詰まった男に変わって、ひとりの老人が前に出る。
「ほっほっほっ、そんな芸当、確かに噂に聞く神魂一族の者しかできんな。それに、その姿、以前に人相書きでみたことがある。紫の作務衣に漆黒の刀と弓。まさに、人相書きにあったとおりのいでたちよ」
「へえ、俺たちの人相書きがあるとは、驚きだな」
「お前たちのではない。今から七〇年も前に書かれたものだ。しかし、お前たちに似ているぞ」
「そっかあの時か……。でもなんで、この世界に紛れ込んでいるんだ?」
「大和、きっと、私たちを動きやすくするために世界が干渉しあったのでしょう」
「ふーん。時空の裂け目が、俺たちがこの世界に来ることで繋がったか」
「こらこら、そこで何の話をしている。わしと話がしたいのじゃろう?」
「そうだった。今の日本の情勢を訊きたい。すでに、アメリカと戦争を始めたと聞いているが、なぜ、アメリカと戦争を始めたんだ。色々な組織に潜り込んでいる影の一族なら知っているんだろう」
「なるほど、しかし、お前たちに、影の一族が協力するとでも思うたか?」
大和と巫矢は顔を見合わせる。
「それじゃあ仕方ない。得意技を出すか?」
「無理やり、要求を押し通すのですね」
大和と巫矢は、お互いに顔見合わせて口角を上げる。
「待て、待て、お前らがここで暴れるとこの里が壊滅してしまう。ここは、ほれ、七〇年もまえから訪問を予言されているお前らに免じて小銭で教えてやるわい」
老人は、二人の不穏な雰囲気に気が付いて、それでも、何とか、二人が暴れないように、折衷案を提案した。
「大和、お金を出すの?」
「金なんてあるわけないだろう。大体、この世界の金なんて見たことも無いんだから。闇鋼の矢でも出すか? ほんとに岩を穿つぞ」
「な、なに、言っているのよ」
これを聞いた巫矢は、プンプンという擬音が聞こえるのではないか思うほど、怒った顔をしている。
「金がないのか? 闇鋼の矢だと、そんなものでわしらが動くわけ無かろうといいたいところだが……」
そこまで聞いた大和と巫矢の身体から、殺気が膨れ上がる。
「待て待て、最後まで話を聞け! 神宝と言われておる闇鋼をわしらに出すとは、お前らのせっぱつまった状況は分かった。いや、せっぱつまっているのはこちらも一緒じゃな。おまえらの誠意に免じてお前らに協力してやろう。それに、闇鋼、おそらく、わし等一族では、使いこなせんだろう。神魂一族の神宝、興味はあるがな」
長の言葉に、人殺しをしなくて済んだとホッとひと安心して、体の力を抜く大和と巫矢。
「よし、話は決まった。それでは、教えてもらえるか?」
「ああ、わしの屋敷に付いてこい」
そうして、大和と巫矢そして理子は、影の一族の長と思える老人に付いて行き、立派な屋敷の座敷に上がり、影の一族の長老たちを前にするのだ。
そうして、この物語の冒頭で説明した通り、大戦前のソ連のスターリンとコミンテルンの暗躍によって、追い詰められた日本は、物資や石油を求めて、アジア大陸の南方に進出して、アメリカやイギリスを刺激し、遂に戦争を始めたと言う話を、老人たちから聞き出したのだ。
それに、アメリカの工業力についても、たった一日あれば、戦艦を一隻造れるだろうという敵の工業力を聞いて、神魂一族の長が言ったように、一回、二回は、敵を退(しりぞ)けることができたとしても、最終的には、大和たちでさえ力尽きて、日本国を守りきれないという結論に達したのだった。
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