第12話 さて、空に向かって飛び出した大和と巫矢
さて、空に向かって飛び出した大和と巫矢。いや、飛んでいるというより、見えない糸で引き寄せられているという感じだ。
そうして、二〇万メートルも上昇しただろうか。何もない空間にぽっかり穴が開き、その穴に、大和と巫矢が吸い込まれた。
そして、ぽっかり空いた空間が閉じると、大和と巫矢は、この世界の最初に立っていた物体の中に居た。
「巫矢、ここの床に闇鋼の矢を撃ちこんだのは、電磁力を使ってここに戻ってくるためだったのか?」
「そうよ、大和」
「大和も気が付いていたんだ。電磁力のこと」
「ああ、気にはプラスの気とマイナスの気がある。そして、闇鋼は、どちらの気を流してもそれが増幅されるみたいだ。それを、お互いに引きつけ合うように、違う電磁力を流していれば、人さえ引きつけるほど強力な力になる。
ところで、巫矢、お前、最初から、ここが空船って分かっていたのか? いや、それどころか、未来に飛ばされたり、俺が死んでいたり、訳が分からない。お前には分かっていたのか?
巫矢、お前は一体何者なんだ。俺はお前が、いつから俺と一緒に居たのか思い出せないんだ。そして、お前がどこから来たかもだ?」
気持ちの落ち着いた大和は、今度は、巫矢に湧いてくる疑問を矢唾に訊ねた。
一方、訳の分からない場所で、一人きりにされた理子は、大和と巫矢が返ってきたことに安堵する。
「あの、お二人とも、何が在ったんですか?」
「ああっ、理子さん。ちょっと待ってね。これから、大和に聞かせる話があるの。あなたも聞いてもらっていいから。きっと信じられないと思うけど」
そして、大和をまっすぐに見つめる巫矢。
「……大和、どこから話せばいいかな……」
少し、悩んだような表情をする巫矢は、やっと重い口を開いた。
「大和、あなたは、あなたが生きていた世界以外の世界では、一切存在していないの。当然、パラレルワールドなんだから、あなたが存在しない選択も時間の流れの中にはあるんだけど、その確率を超えて、あなたは存在していない」
「そうなのか。ここでも俺は死んでいるらしいからな。もう一つ、そのパラレルワールドっていうのが理解できないだけど」
「パラレルワールドと言うのは、可能性世界のこと、時空の中で、ある選択肢があって、世界が右に行くことにしても、ちゃんと左に行く世界も存在するの。だから、選択肢の数だけ、世界があるの。それをパラレルワールド、平行世界っていうのよ」
「それで、俺が生きている世界は、俺が飛ばされる前の世界しかないという事か」
「そうだと思う。たぶん天空の聖杯で、この時代に召喚しようとした人物は、過去、現在、未来、それ以外に、あらゆる世界で神魂一族、最強の者を召喚しようとしたんだと思う」
「俺が、時空を超えて、神魂一族で最強だって」
「そう、大和は最強で、しかも、前にいた世界にしか存在しない。それは、あなたが持っている魂に関係があるの」
「俺の持っている魂?」
「そう、あなたの魂は半分なの。半分の魂では、どんな世界にも存在することはできない」
「そんな、バカな!」
「大和、神代の英雄に日本武尊(やまとたけるのみこと)という偉大な皇族が居たことを知っている?」
「ああ、知っている。たしか俺の名前はそこから取ったんじゃなかったけ?」
「そこは、ちょっと違うと思う。字が違うしね。それで、その日本武尊は、魂を分けた双子がいたということは知っていた?」
「それは、初耳だな」
「そう、双子は忌み嫌われる存在。鬼子としてどちらか片方は、人知れず処分されてしまう。まして高貴な生まれだしね。それにその双子、片方は女の子だったの。どちらが処分されるかは、明白だった」
「それが、俺の魂とどんな関係があるんだ」
「大和、慌てないで話を聞いて。そして、どちらかを殺すことができずに、日本武尊とその妹は、時の天皇と皇后に、人に隠され、ひっそりと育てられたのです。しかし、一五歳になったある日、大和は、土蜘蛛という鬼にそそのかされて、自分の妹を殺してしまうの」
そこまで何を言っているんだという顔で聞いていた大和だったが、さすがに、双子が殺し合うところを聞いて顔をしかめている
「そうして、英雄、日本武尊は、妹殺しで、最初の鬼子成敗を果たしたわ。それを知った天皇は、とてもお怒りになって日本武尊に、日本各地の鬼どもを成敗するように命じるわ。そうして、日本武尊は戦いに明け暮れ、最後、憎き怨敵、土蜘蛛を退治するんだけど、その時、土蜘蛛の呪いを受け、病に罹(かか)り、死んでしまうのです」
「その日本武尊が、俺と何の関係があるのか、さっぱりわからないんだが?」
「土蜘蛛の呪いとは、ひとつの魂が二つに分かれて生まれた双子の片割れを、自らの手で殺してしまった罪の縛り、日本武尊の生まれ代わりのあなたは、魂を半分しか持っていない。そのため、どの世界でもけっして長生きすることはできない。それが大和、あなたなの」
すでに、大和は瞳を閉じて、巫矢の話を聞いている。そうして、巫矢の話が一旦途切れると口を開いた。
「生まれてもすぐ死んでしまう俺が、いま、生きているのは、巫矢のおかげなのか?」
「さすが、大和ね。そう、私が大和の魂の片割れ、鬼子と言われた双子の女の子なの。お兄ちゃんに殺されても、それでもお兄ちゃんを大好きだった私は、また、お兄ちゃんと一緒に生まれたかった。でも、土蜘蛛の呪いが掛かった私たちは、同じ時空、同じ時代に生まれることは無かった。私たちが居れば、世界は二つに分かれて争い合う呪いを掛けられた。
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