第11話 今度は、大和が焦って長に向かって

 今度は、大和が焦って長に向かって質問を投げかける。

「俺は、死んでいる? そんなバカな! なら、巫矢はどうだ? まだ生きているのか?」

「巫矢? 聞いたことも無い名じゃ」

「いや、そんな筈はないだろう。何時も、俺、いや大和の後ろに付いていた女の子だぞ」

「とにかく、この里にそんな者はおらん。きさまら、一体何者じゃ」


 その答えに、固まる大和。

(巫矢は存在しないだと。そういえば、巫矢は何時から俺のそばにいたんだ? それに、巫矢の親は誰なんだ? まるで空気のように、幼い頃から、いつも一緒に居たけど)

 大和は、巫矢の素性が思い出せない。確かに、里で一緒に、暮らしていたはずなのに。


 固まった大和に対して巫矢が、長の質問に答えている。


「私たちは、今から約七〇年以上前の時代から、時空を超えて、空から落ちてきたようです。こんな荒唐無稽の話でも、この里の伝承には、いくらか残っているでしょ?」

「なんと、お前たちは、過去から来たというのか? 確かに、伝承としては神隠しとして、そんな話も残っているが、この科学の時代、ただの作り話だと思っていたんじゃが」

「まったく、この時代は明治から入ってくるようになった石工の現実主義のプロパガンダのおかげで、すっかり過去の信仰や畏れが無くなっています。神魂の里でさえこうなんだから」

「そこまで言うなら、その証拠を見せてみろ」

「証拠? そんなものがあれば苦労しませんって。それに、この世界は、私や大和のいない世界みたいだし……。ああそうだ。神魂一族の者であるという証なら、ここにある射闇弓や、大和の持っている闇裂丸が、闇鋼でできているのを見れば証明できるかな?」


 そう言って、巫矢は、長に射闇弓を見せた。

「確かに闇鋼じゃ。だから、闇鋼の弾丸を弾くことが出来たのか。それにこの闇鋼に流れる気は? お前たち、これを闇鋼の御柱から錬成したのか!」

 感嘆の声を上げる長。

「今の時代、これだけの物を錬成できる猛者は、もうおらん。確かにお前たちは、過去からきたのじゃろう」

「わかって貰えました? ところで、天空歴一九四一年と言われましたね。今、この時代に何が起ころうとしているのですか?」

「日本国は、日中戦争の真っ最中じゃ。それに、アメリカと戦争を始めたようじゃな。先日、日本国は真珠湾を攻撃したのじゃ」

「戦争を始めたんですか? それで、この戦争で、神魂一族は動くのですか?」

「いや、わしらの情報から戦力を分析すれば、日本はこの戦争に負ける。それも、今の神武の時代から続いている天皇が首を取られるほどの完敗でな」

「それが分かっているのに、神魂一族は、なぜ動かないの?」

「そうだな。わしたちが、一〇〇〇機の飛行機を叩き落とし、100隻の軍艦を沈めても、あいつらは、倍の戦力、二〇〇〇の飛行機で、二〇〇の軍艦で攻めてくる。それを繰り返すうちに神魂一族は、力尽き果て、闇鋼の神宝が奴らの手に渡ることになるじゃろう。それだけは、神魂一族として避けねばならんのじゃ。

 わしらの存在理由、それは闇鋼の存在を隠し通すことじゃ。だから、神代の技術を決して外に出してはいかんのじゃ」

「なるほど、さすが長です。その判断は今の里の戦力では仕方ないでしょうね。たしかに、そんな凄い兵器で日本に攻めてこられればね。それでは、この里の協力は望みません」

「お前たちだけで、この日本を守るというのか?」

「ええ、そのために私たちが、この世界に呼ばれたと思っていますから」

「いや、しかし、闇鋼と言えど、所詮刀と弓だぞ。気合だけではどうにもならんぞ」

「もちろんわかっています。それでお願いです。長、この里の遥か上空に浮ぶ不可視の神器、空船の使用の許可をお願いします」

「おまえ、なぜ、そのことを知っている? 長になるものだけが口伝でのみ伝えられているはずじゃ」

「神代の時代、神に従い、全世界を平定した神魂一族が空を駆った神の乗り物、空船。そして、神が高天原に帰られた時、この世界の平穏のため、一隻だけ神が残していった空船、長の許可が在れば動かせると聞いております」

「わしもその空船が実在するかどうかも知らん。その口伝が真実かどうかさえ疑っておる」

「確かにこの時代なら、神代の話など作り話と思っても不思議ではないことです。貴方は、只、許可をしてくれればいいのです」

「在るのか? 空船は! 実在するのか? しかし、在ったところで、はるか上空。どうにもなるまい」

「大丈夫ですよ。そのための仕掛けもやってきました。早く許可を!」

 しばらく考え込んでいる長が、おもむろに口を開いた。

「お主たちの名は?」

「巫矢に、大和です」

「よし、巫矢に大和、空船の使用を許可する!」


 長の本気とも冗談ともつかない使用許可に対して、少し、何かの気配を探っていた巫矢が、独り言を発する。

「うん。停止していた機能が動きだしました。これが動くのは何万年ぶりかしら? 大和、行くわよ! 私にしっかり掴まって!」


 巫矢の存在は何時からだったのか。それに、今の巫矢と長の会話は? 固まっていた大和は、巫矢の言葉に我に返り、巫矢の瞳をボーッと見つめる。

 巫矢は、ボーッとしている大和の腕を掴むと、自分の持っている射闇弓に気を通し始めた。

「巫矢、何を? 」

 大和が巫矢の行動に戸惑っているうちに、巫矢が気合を入れる。

「やーっ!」

 その瞬間、巫矢と大和は、何かに引っぱられるように、上空に向かって一直線に飛び去って行ったのだ。

 その場に取り残された長や神魂一族の者たち。

「巫矢や大和は空を飛べるのか?」

 ただ、その光景を見た長が、静かに呟(つぶや)く言葉に、周りの者はただ無言であった。

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