第6話 高千穂を闇に紛れて出た大和と巫矢

 高千穂を闇に紛れて出た大和と巫矢。恰好はいつもの通り、濃い紫色の作務衣で、道具を入れたリュックを背負い、大和は、腰には闇裂丸を差し、巫矢は、闇射弓と闇鋼の矢じりを付けた矢を背負い、街道を歩いていく。

 目指す旅先は、分杭峠のある長野県の辺りに適当に決めた。

「巫矢、なんで、また分杭峠なんだろう。もっと、温泉でゆっくりするとかの方が良かったのに」

「いいえ、分杭峠っていいところですよ。分杭峠は、日本では、パワースポットとして名だたる場所です。それにゼロ地場の場所としても有名です」

「ゼロ地場って? それより、パワースポットってなんだ?」

「パワースポット、欧米では、ボルテックス(渦巻きの発生する場所)っていいます。つまり、大地の気を貰って元気になれる場所と言うことです」

「なんか、うさんくさいな。それで、ゼロ地場っていうのは?」

「地磁気が打ち消しあう場所で「ゼロ磁場」なる状態が発生し、そこに「五次元宇宙」からのエネルギーがもたらされるらしいです」

「五次元宇宙? なんか嫌な予感がする」

「大和、ちょっと闇鋼の錬成で疲れたでしょ。それに、分杭峠は秋葉神社の参道に当たる秋葉街道に在って、近くに良い保養温泉も有りますしね」

「そうだな、なんにしても、しばらくはゆっくりするか~」


 そう言って、大和と巫矢は、下関から京都にでる山陽道をのんびり歩いていた。

 この頃には、日本国内は、新政府によって、中央集権が実現しており、廃藩置県がなされ、関所は既に無くなっていた。そういうわけで、二人は、街道を行くことになり、各地で特産品を楽しみながら旅を楽しんでいるのであった。

 

 時には、刃物研ぎの商いをしながら、そして、狩った獣や魚、そして山で採取した高価な薬草を売りながら、のんびりと旅行を続けていたのだ。


そうして、ある茶店で一休みした時、ふと、巫矢が言葉を発する。

「ねえ、私たちずっと一緒にいられるかな?」

 悲しそうな顔をする巫矢の頭を撫でる大和。

「俺は、決して、巫矢を残して死んだりはしない。離れたたりしない。だって俺たちは誰が相手だろうと無敵だろう」

「でも……。わたしと大和が同じ時代に居るんだよ。良くないことが起こるに決まっているよ」

「まったく俺たちが一緒にいたら良くないことが起こるだって? 神魂の里で、古文書の中に閻魔帳でもあったのか? 根拠のないことなんて、気にしないことだな。鬼が笑うぞ」

「大和、それをいうならアガスティアの葉じゃないかな? 閻魔帳では未来は解らないよ。でも、大和も知っているはずよ。天空の聖杯のこと」

「天空の聖杯か?」

「そう、天空の聖杯。唯一闇鋼の神宝の内、神魂の里に保管されていない神宝。神魂の里の古文書によると、いまから数千年前、西の国にいた神の子と言われた天空が、迫害を受けて、日本の神魂一族の里に逃げて来たって」

「その天空が、神魂の里で神の真理を修行して、聖杯と言われる神杯を闇鋼から錬成したっていう話だろう」

「そう。その聖杯には、時空を超えて、過去や未来に行くことができるという力があるという話ですよ」

 巫矢の言葉に、大和は鼻で笑って答える。

「天空と言う人が、神魂の里には居たのは数年だろう。俺たちも闇鋼の柱から削りだしてわかったことは、闇鋼を錬成することは簡単じゃないってことだ。とても、その古文書は信用できないな」

「でも、天空って言う人は、それこそ神の子と言われるぐらい神通力があって、死んでも復活したという話です。それに、常に人々のことを考えていたと言われているわよ」

「そうか、確かに、闇鋼の柱から闇鋼を削り出すには、私利私欲を捨て、世のため、人のために使うことを願わなくては駄目だったな」

「でしょ。しかも天空は、その天空の聖杯を西の国に持ち帰り、エルサレムと言う場所に封印したと伝えられています」

「封印? それで、その後、聖杯はどうなったんだ」

「それで、天空と言う人は、西の地で、キリスト教という宗教の開祖になったみたいなんですけど。一〇世紀ごろ、聖地エルサレムを奪回するって十字軍のエルサレム遠征が始まったの」

「ふーん。そのころちょうど、今、世界を裏で支配しているっていわれる例の石工ギルドの国際秘密結社が、台頭していくころだな」

「そうなのよ。大和、その十字軍、崇高な理念を掲げて、エルサレム奪回とか言いながら、その地で破壊と略奪を繰り返す盗賊集団に成り下がっていた。その遠征を煽ったのがその石工ギルドで、その聖杯を手に入れて、世界を裏から牛耳っている国際秘密結社になっていったらしいの」

「確かに、闇鋼の神宝を手に入れれば、世界征服も夢じゃないだろうけど。その聖杯が本物かどうか疑わしいな」

「まあ、それが本当なら、私がさっき言った、良くないこともあるということなの」

「俺たちは表の歴史には決して出ることは無い。日の当たる場所を歩いていない俺たちを、聖杯を手に入れた石工が相手にするかだな」

 大和は、そう言うと串団子をほうばった。


「でも、私たちは、出雲の鉄師の流れの源流なのよ。鉄師と石工、もともと、仲が悪いんじゃないかな。確かに石工の邪魔をしているわけじゃないけどね」

 

 巫矢は大和を見て、自分に納得させるように呟(つぶや)くと、同じように団子を食べようとして、

「あれ、あの茶店の娘さん、影の一族じゃないかな」

「影の一族?」

「そう、影の一族。袖口から覗く黒い裏地がその証拠。何時でも、黒装束に早変わりできるんだって。

伊賀の地に、江戸幕府に与する伊賀流の忍術流派とは違って、伊賀流忍術古来の金銭によってのみ雇い主との関わりを持つ一族が居たの。

主君より一族の掟の方が上ということね。一族に対する裏切りに対する断罪は、今だ「抜忍成敗」を実行するという鉄の掟を持つ諜報集団、影の一族がいるって神魂の書物に書いてあったの。

興味あるでしょ。声を掛けてみようか? 一度、影の里に遊びに行きたいって」

「やめとけって、きっと今も、情報収集している最中じゃないか」

「それもそうね」

「そういうことだ。巫矢そろそろ行くか?」

「はーい。ここのお団子美味しかったね

それじゃ、お金を払っておくわね。娘さん。めんたし(ありがとう)」

「どうも有難うございました」

(今の人たち、出雲訛りがあった。それに、強い気を放つ漆黒の武具。まさかね、こんな所に伝説の神魂一族が居るわけ無いか? 伝説は伝説、実在しているわけ無いんだもの。でも、影の里の存在を知っていて一度遊びに行こうかっていっていたし)

 茶店の娘は、影の一族に伝わる神魂一族が、神魂の里を離れこんな場所をぶらぶらしている筈がないと感じながらも、一応、影の里に人相書きを報告しておくのだった。


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