第5話 今度は、二人は大量の水ガメに水を溜め
今度は、二人は大量の水ガメに水を溜め、山や川の出かけ、獲物を狩り野草を取る。小屋にある神代の時代の高炉は、一旦火を起こすと消すことができす、交代で寝ずの番をすることになるためだ。
そうして、一か月ほどの食糧を確保すると、二人は高炉に火を起こす。
それから、一心不乱に闇鋼を打ち続ける。大和と巫矢の呼吸はアンウンの呼吸だ。お互いの息遣いを感じ、その愛おしさは、二人のうちどちらが欠けても許されない気持ちが二人の間に高まっていく。
そうして、三週間の時が過ぎた。
そうして、打ちあげた闇鋼は、漆黒の刀と弓、そして一〇〇の矢じりに姿を変えていた。
「大和、二人の初めての共同事業でしたね」
「なんだ、その初めての共同事業って?」
「いや、ケーキを入刀する時にですね……」
なぜか、巫矢は、額に汗をかき、ほほを真っ赤にして、恥かしがっている。
「ところで大和、その刀は? 初代神魂一族の長が打ち上げた闇切丸(やみきりまる)に似てるよね」
「ああ、もっとも、神に近き者と言われた初代神魂聖衛門が打ちし闇切丸は、俺の憧れだ。闇切丸イメージして、打ちあげたのは当然だな。なんだ、巫矢、お前は、弓矢か? 普通女の人は小刀とか拳銃だと思うんだけど」
「そうかな? 銃と比べて一度にたくさんの矢が放てるし、連発もリボルバーより私の方が早いわよ。わたしは大和の背中を守るんだから、当然じゃない。銃に勝るとも劣らない物って考えていたら、この形になったの」
「そうだよな。この闇鋼まるで意志を持っているようにその姿を変えるよな」
「でも、使い手に馴染むようにも、その姿を整えるわ」
「まったくだ」
「それに、闇鋼って凄いわよ。だって、弦(つる)の部分まで錬成できるなんて」
「いかなる物にも姿を変えるって言うのは本当だったな。俺の刀も、鞘も柄も全部闇鋼だもんな」
「あとは、それぞれ銘を付けて、闇鋼の柱に、一旦奉納すれば、晴れて持って帰れるはずなんだけど、大和、銘は考えたの」
「もちろん、巫矢は?」
「私はね、この漆黒の矢が暗闇の中、一筋の光を放ちながら飛んでいくのを夢で見たの。だから、闇を射抜く意味で、射闇弓(しゃあんきゅう)と名付けるわ」
「そうか、俺も似たような感じだな。この漆黒の刀身が光輝き、闇を切り裂くイメージが頭から離れないんだ。だから、この刀の銘は闇裂丸(やみさきまる)だな」
二人とも、ほほが欠け、精気の無い表情で、お互い見合って、自分の武具の銘を披露する。
闇鋼の錬成に生も魂も尽き果てているが、それでも、出来あがった武具は、自分の分身のように愛いとおしく感じられるのであった。
「さて、それじゃ神の化身と言われる闇鋼の御柱にご挨拶にいくか?」
「うん」
二人は、自分たちの荷物を纏めると、闇裂丸と射闇弓を抱きかかえ、闇鋼の柱に向かう。
柱の根元に備え付けられている台座に、それぞれ、闇裂丸と射闇弓と矢じりを奉納しようとすると、柱が突然、唸りを上げるように振動を始めた。
その振動は、空間をも振動させ、辺りの景色は波打ち、周りの音も何も聞こえない。
「なに、なに、どうしたの?!」
「巫矢、うろたえるな! それでも、神魂一族か!」
「あの大和、あそこ、柱に文字が浮かび上がっている……」
「神代文字で書かれているぞ。「分杭峠を目指せ」なんだ理由が解らないぞ」
その柱に浮かび上がった文字は、今や神魂一族のみが使っている神代文字で書かれていた。
「大和、新婚旅行です! 二人で初めての共同作業の後、旅に出るなら、それは新婚旅行になります」
「新婚旅行? なんだそれ?」
「わたしと大和は、夫婦になる運命なのです。闇鋼の御柱が、二人が夫婦になることを認めました。新婚旅行は、夫婦になった二人が、温泉旅行に出かけて子作りをするのです。初めていった人は坂本龍馬という人だったと思います」
興奮するように話す巫矢の頭に、空手チョップを落とす。
「やかましいぞ。巫矢。そんな習慣、聞いたことも無い。第一、俺たちは結婚するともきまっていない」
「だったら、婚前旅行でもいいです。お互いをよく知るために、二人きりで旅行するんです」
(本当は、既成事実を作るためにする旅行なんですが、なんとか、大和を言いくるめないと)
大和を何とか言いくるめようと必死になる巫矢。
「大和が知らないのも仕方ないですね。でも、私たち神魂の里に帰れば、次にいつ里を出ることができるか? だって、私たち神魂一族の者は、里から出ることは禁忌になっています」
「確かに、俺たちは、気楽に、里から出ることはできないよな」
「だから、神様が、お前たちはよく頑張った。疲れているだろうから温泉にでも行こいってことなんじゃないかな」
「なるほどな! じじいの目の届かないうちに、羽根を伸ばせということか」
ポンと手を叩く大和。もともと、神魂の里の外の世界に興味があった大和。さらに、祖父である神魂聖衛門の体罰ともいえるしごきにはいつも反発していたのだ。
そこをうまく突いた巫矢の一本勝ちであった。
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