第7話 さて、大和と巫矢は話を終えると茶店を出て

 さて、大和と巫矢は話を終えると茶店を出て、長野県に向かって旅路を行く。


 そうして、大和と巫矢は、浜松を目指し、東海道を行き、景色を楽しんだり、途中、熱田神宮にお参りをしたりする。

「なんで、熱田神宮にお参りするんだ?」

「いえ、大和が大昔お世話になったものが、ご神体ですから」

「ああっ、ここのご神体って、草薙の剣だろう。俺、見たことも触ったこともないぞ」

「ごめんなさい。そうだったよね。じゃあ、草薙の剣ってどこにあるのかな?」

「さあな、でも、俺の聞いた話じゃあ、ご神体は、社の中に在るんじゃなくて、神社には、珍しい鬼瓦が社の上にあって、その中に収められているらしいな」

「ふーん。じゃあ、あれかな?」


 巫矢の指さす先には、茅葺の屋根の中央部に立派な銅板で造られた奇妙な鬼瓦があった。

「だろうな」

「そっか、未だに、草薙の剣は鬼どもに睨みを利かせているんだ」

「はあ?」

「なんでもない。私もお兄ちゃんにあやかって、奉納しておこう」

「お兄ちゃんって? 巫矢にお兄ちゃんがいたか?」

「どうでもいいでしょ」


 そう言うと、巫矢は、射闇弓に闇鋼の矢を番え、鬼瓦の額を撃ち抜く。

「おい、巫矢、そんなことをすると!」

「大丈夫です。矢は、鬼瓦の中に入っていって、外からは、穴しか見えませんから」

「それにしても」

「大丈夫ですって、仮にも闇鋼、神様も、ご神体が二つになって喜んでいますって」

「そんなもんかな?」


 二人は、熱田神宮で、とんでもないことをした後、何食わぬ顔で、神社を後にする。

 もっとも、この二人の奇妙な行動に気が付いた者は、参拝者の中では、誰一人としていなかったのだ。


そして、暑気払いに浜名湖で、自分で釣ったウナギを食べたりしながら、目的の一つである秋葉神社に参拝した。

 この浜松にある秋葉山本宮秋葉神社、全国にある秋葉神社の総本山とされ、関東にある秋葉神社は、かの有名な秋葉原の地名の由来とされている。そして、祭られている神は、火除け、火伏せの神として、信仰を集めているのである。


 その神社に立ち寄った大和と巫矢。

 大和との婚前旅行(?)に来ているテンションの上がった巫矢は、当然のごとくおみくじを引いた。

「巫矢、神魂一族の者が、神頼みなんて、あり得ないだろう?」

「何言っているのよ。ここは、さっきの熱田神宮と違って、私たちに縁も所縁もない神社。気兼ねなく、私たちの未来を占うのは当然でしょ。大和はそれでなくても、女心が分からない朴念仁なんだから」


 巫矢が、そう言いながら、大和の言葉を無視して引いたおみくじは、「吉凶未分(きっきょうみぶん)」その下には、神代文字で書かれた図形のような物が書かれている。

「何々、「吉凶未分」? それに神代文字って?」

 引いたおみくじを大和に見せる巫矢。

「吉凶未分? これは、吉凶の変動が大きいことを表す運勢だな。それに、この神代文字、読めることは読めるが、意味が解らない」

「大和、これって何かの原理と設計図を表している物だと思う。そこの社務所で聞いてみない?」

「ああ、そうだな。これじゃあ、運が、良いのか悪いのか、全くわからん。意味も気になるしな」

 

大和と巫矢は、社務所に行き、神主を捕まえて、おみくじについて聞いてみるが、

「あれ、こんなおみくじ入れたかな。確かに、「吉凶未分」っておみくじの運勢占いには、あることはあるんだけど、うちの神社は入れてないと思っていたよ。そういう意味じゃ、君たちレア物が引けてラッキーだったんじゃないか」

「ちょっと、神主さん。レア物とか。私、ガチャを回したわけじゃないんだから。それに、その下に書かれていること、今一つ解からないんだけど」


 二人の会話を聞いていた大和は、レア物? ガチャ? の意味が解らず突っ込みを入れたかったが、二人の会話が何事もなく進んでいるため、大人しく二人の話を聞いていたのである。

「この文字にこの図は……。ああ、これは、うちの神社に古くから伝わっている古文書の写しだな。何が書いてあるのかは、わしにもわからん。うちの神社は、火除けや火伏せの神様を祭っているから、きっとそのことの護符か曼荼羅の類であろう」

「ふーん。じゃあ、この枝にでも括り付けておきましょう」

「まあ、待て、折角(せっかく)、珍しいものが出たんじゃ。自分でお守りとして持っていきなさい」

「それもそうか。ありがとう。神主さん」


 そう言って、巫矢はおみくじを懐にしまうと、神主に頭とペコリと下げた。


「それじゃあ、大和、レヤ物も手に入ったし、いよいよ、この旅の目的、分杭峠に向かって出発しましょう」

「おおっ。お前たち、分杭峠に行くのか? あそこは、普段から、崖崩れの多い所じゃ。気を付けて行くんじゃぞ」

「うん、わかった。和尚さん!」

「巫矢、それ違うから。和尚さんは、お寺だから」

 大和の突っ込みににやりと笑う巫矢。

「大和相手じゃ、このくらい程度を落とさないと突っ込みも入れることができませんね」

「巫矢、なんか言ったか?」

「いえいえ、ナイスな突っ込みをありがとう。大和」

 巫矢は上機嫌になり、大和の手を取って秋葉神社を後にする。

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