第8話 さて、ここから秋葉街道を北上

 さて、ここから秋葉街道を北上、険しい山道を八〇キロ進んだところに、分杭峠があるのだが、大和たちは、さらにその先の諏訪湖を次の宿泊地に考えている。


「巫矢、悪いんだけど、ここから分杭峠まで、野宿なしで歩いて行っていいか。明日中に諏訪湖に着きたいんだ」

「諏訪湖まで、約一〇〇キロですからね。もう、お昼前ですし、休み休み行っても、明日の朝には、分杭峠には行けますね。そこから、諏訪湖まで、余裕で、夕刻には着きますね。いいですよ。ただし、名物の馬刺しや五平餅を食べさせてね。」


 巫矢は、おいしものが食べられれば、急ぐ旅ではなし、日程などどうでもよかったのだ。

 そうして、途中の飯田で、天竜川の川沿いに下り、宿場で、名物を食べ歩くと再び、秋葉街道に戻り、翌日の朝方には、分杭峠に着いたのだった。


 この分杭峠は、日本を東と西に分ける中央構造線の谷中分水界に位置しており、大変地質が脆く、頻繁に山崩れが起きる場所である。


 そして、最長の巨大断層地帯である中央構造線の真上にあり、二つの地層がぶつかり合っている、という理由からエネルギーが凝縮しているゼロ磁場であり、世界でも有数のパワースポットであるとされているが、実は、岩盤が押し合っているという考えは、地球物理学的には間違っていて、地震が発生していない断層の状況では、陸学的には、周りの岩盤と同じであると指摘されてもいる。


 しかし、大和と巫矢が訪れたその日は、いつもと様子が違っていた。

 地場付近には、全く野生動物が居らず、何か、目に見えない電磁波のようなものが地場からあふれ出ているようなのだ。大和は、闇裂丸の共鳴により、そして、巫矢は、闇射弓の震える弦によりいち早くそのことに気が付いた。


「何が起こってるんだ?」

 何かに引き寄せられるように、大和は、すぐさま秋葉街道を外れ、最も、地磁気が発生していると思われる気場に向かって走り出した。そして、巫矢もすぐさま大和に付いていく。


 大和や巫矢の周りには数人の人がいたが、この異変を感じた人はいなかった。そのため、大和と巫矢が走っていった先を、ボーッと見ているだけである。


 そうして、大和や巫矢がもっとも強い地磁気を発する気場に飛び込んだ瞬間、二人は見えない抵抗を受けた。それは、磁界の境界を越えた瞬間だったのだが、そんなことは、二人の知ったことではない。

 周りの景色が脈動を始め、周りの音が消えたかと思うと、強烈な地鳴りがして、地面からドンと突き上げられた瞬間、大和と巫矢の視界が光に包まれる。


「なんか、嫌な予感がしたんだよなー」

「大和、これって? なにが起こっているんですか?」

「そんなこと、俺にわかるかよ!」


 大和と巫矢を飲み込んだ強烈な光の渦が、その場所から消え去ると、その辺りだけに、局地的な地震が起こり、気場が山崩れの土砂で埋まり、さらにその揺れが分杭峠の秋葉街道を揺らす。思わず頭を抱え込んでしゃがみ込んだ、その場に居た旅人たちは、先ほど、二人が飛び込んでいった先が、土砂に埋まってそこから先へはとても進めなくなっていることに気が付いた。

そして、自分たちのできることは、二人の安否を気遣うことだけであったのだ。


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