第9話 大和と巫矢は片膝を付き

 大和と巫矢は片膝を付き、地鳴りや微振動が治まったことを確認して、顔を上げた。

 そして、自分たちが現在いるところに驚愕する。光源はどこにあるのだろうか、うっすらと輝く壁や床に周りを取り囲まれ、その壁には、外の景色を映しだしている物や、中心から円形の波動が出ている物、そして、見たことも無い景色が映し出された物など、自分の周りを取り囲むように、今の時代であれば、モニターと呼ばれる物が、所狭しと並んでいるのだ。


 どうやら、大和や巫矢が立っている場所は、何か建造物の中の様であった。

「巫矢、ここはどこだ? 外の景色を見る限りは空に浮んでいるのか? しかし、この高さは……」

「えっ、ここは? 私、今まで教室に居たはずなのに?」

「「はっ」」

 自分たち以外の声を背後に聞いて、大和と巫矢は驚いて、後ろを振り返った。そこには、今まで、見たことも無い恰好の少女が居たのだ。

「な、なんでここに人が居るのよ? あなた誰なのよ?」

「誰と言われても、私は、東城理子っていいます。なぜここに居るのかは私にもわからないんです。気が付いたらここに居て」

「へーっ、理子さんね。それにその恰好……」

「えっ、この恰好ですか? これは、私たちの中学の制服で、セーラー服って言います」

「中学? 制服? あなたひょっとして……」

「巫矢、一人で納得しないで俺にも教えてくれよ」

 大和は、巫矢と東城理子と名乗った少女の会話を聞いて、なんとなく納得している巫矢にたいして、なんとか、自分も話に入れてもらおうと口を挟んだのだ。

「えっと、大和、この人は、多分宇宙からきた少女だと思う?」

「なんで、最後は疑問形なんだ!」

「だって、私だって信じられないよ。でも、この恰好……。この国の恰好じゃないもん。あなたどの星から来たの?」

「私の居た星って? 私、地球人だし、日本人です。それに東京に住んでいるです」

「えっ、日本人なの。でも、日本に東京ってところ在ったかな?」

「理子さん、それに巫矢、少し冷静になろう。俺たちは、闇鋼の御柱に浮びかがった分杭峠にいって、そこから、ここに飛ばされたんだ。だから、俺たちがここに居るのは神の意志といっていいと思う。それで、理子さんも、ここに来る前に何が在ったに違いないんだ。だから、何が在ったか教えてほしい。なにか、わかるかもしれないだろう?」

「そういえば……、わたしは歴史の授業中に、靖国神社に眠る英霊たちに、太平洋戦争の悲劇を二度と繰り返さないように行けって、それから神魂一族に協力しろって」

「神魂一族って言うのは、俺たちの事だな……」

「そうなんですか! 神魂一族ってなんですか? あと、太平洋戦争って言っていたけど、太平洋戦争って、天空歴一九四一年に始まっているから……」

「理子さん、太平洋戦争って、天空歴一九四一年に起こったことなの? じゃあ、今から、七〇年ぐらい未来に起こったっていう事かしら」

「巫矢、そんなばかなことがあるか!」

「でも、天空の聖杯がある以上は……。ところで、理子さんが居た時代は何年なの?」

「えっと、天空歴二〇一八年ですね」

「天空歴二〇一八年ですか? 今から、一五〇年ぐらい未来になるかな」

「今から一五〇年ぐらい未来だって? じゃあ理子さんは未来人ということになるのか?」

「さあ、今の時代が一八七〇年かは、まだ、分かっていませんが?」

「うん? 巫矢どういうことだ?」

「大和、窓の外をみてください。大和は、こんな景色を見たことが在りますか?ここはどこ? 私は誰? って感じなんですが」

「なんだ、これー」


 大和が混乱するのも当然だ。外の景色と思われるモニターには、大和が見たことも無い、地球の地平線の一部が写っている。


「ここは?」

 巫矢に言われて、同じようにモニターを見た理子は、驚きの声を上げる。

「ここは、人工衛星ですか! あそこに映っているのは、宇宙からみた地球ですよね!」

「人工衛星?」

「ロケットで宇宙に打ち上げた後、地球の周りを回っているんです」

「ロケット?」

「大和、いちいち知らない言葉を聞き返さないでください。話が前に進みません」

「巫矢、そんなことを言われても……」

「もし、私たちが居た時代なら、こんな上空に浮んでる物は一つです」

「巫矢、なんだそれは?」

「空船!」

「「空船?!」」

 大和と理子は巫矢の言葉に、尋ね返した。

「そう、神代の時代、神が天孫降臨に使い、その後、世界を統一するのに使ったと言われている空とぶ戦艦です」

「いや、確かに神魂の里でその話を聞いたことはあるが?」


「……なるほど、そういうことですか……。こんなところに飛ばされるなんて? まったく、意識集合体の意図は人の想像を超えています。私も慣れないとね」

 巫矢は、思い出したように、何やらぶつぶつと独り言を言っている。

「おい、巫矢。意識集合体って?」

 大和は、巫矢の手を取って大きく揺さぶった。

「大和、ボーッとしててごめんね。ちょっと、やることができたから、離れていて」


 巫矢はそういうと、おもむろに、射闇弓を肩から外し、闇鋼の矢を矢筒から抜き取ると、矢を番え、足元に向かって構える。

 今立っている足元の床は何でできているのか、なめらかな岩石のようでもあり、金属のようでもあった。

「巫矢、何をやっているんだ? 」

「何って! ここから出るに決まっているでしょ」

「いや、ちょっと待て、この高さ……」


 大和の言葉が終わらないうちに、巫矢は、矢を足元に放っている。

 床に、闇鋼の矢が刺さった瞬間、大和と巫矢の足元の床が円形に消滅する。大和と巫矢は、足元の床がいきなり無くなり、浮遊感と共に、この物体から外に投げ出されている。


 すなわち、大和と巫矢は、成層圏の中へ放りだされたのだ。

 地上までの距離、およそ二〇キロ。大和と巫矢は地面に向かって落ちて行く。


「冗談じゃねえぞ!」

「理子さん留守番を頼むわね。すぐに戻ってくるからー」

「留守番と言われても?」

 理子の問いに答える者はいない。

(それにしても、私は、過去の時代にタイムリープしたみたい。 さっきの人たちが、神魂一族? たしか大和と巫矢って呼び合っていたみたいだけど? 私みたいなか弱い女の子が、こんなところから飛び降りる人たちをどうやって助けるって言うのよ? 私なんて、一度やったバンジージャンプの時でさえ、一〇分以上飛び降りることが出来なくて、結局、階段をまた、降りて来たのに)途方にくれる理子であった。


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