第21話 そうしているうちに

 そうしているうちに、大和や巫矢そして理子がこの世界に来て、二年が経った。

「もう、俺たちがこの世界に来て二年が経ったのか」

「そう言われればそうか。だが、お前たちは姿形が全く変わらないな? どうしてだ。巫矢ならなぜかわかるか?」

「うーん。なぜでしょう? この世界には、私たちの観察者がいないということでしょうか?」

「なるほど、この世界の異分子であるお前たちは、観察対象になっていない。だから、来た時から変わらない姿と言うことか。面白い意見だな。量子学の考えに、観察者がいることで、存在できるという考えがあるからな」

「アセッションを経験した私にとって、肉体なんて三次元に縛り付ける鎖にすぎませんからね」

「巫矢さん、それに主さん、私には難しくて良くわかりません。でも、私の知っている日本史より、アメリカの反撃は遅れているのは間違いないです」


 なぜ、大和、巫矢、理子が、年を取らないように、容姿が変わらないのは、なぞなのだが、この太平洋戦争は、理子が知る結果とは少しずつ内容が変わっていっているのは間違いなかった。


 もともと、日本国は、アメリカと戦争を始める前から、大量の物資と人員があるアメリカに対して、迎え撃つ受け身の戦争や、領土を征服する戦争を意図していない。

アメリカやイギリスの中国への支援を断念させるため、奇襲作戦で、太平洋の各基地を個別撃破、戦局が有利なうちに、講和条約を結び、戦争を終結させる目論見であった。


 その目論見は、ここまでは成功を収めている。暗号を解読できないアメリカは、どうしても、日本国の作戦の後手にまわり、速度の上がった艦隊が、太平洋の要所をヒットアンドアウエィーで翻弄し太平洋の西半分を手中に治めている。さらに、度々、アメリカ本土にも空襲を仕掛けるほどである。


 そして、太平洋戦争の転換期と言われたミッドウェー海戦のおいても、日本国は、アメリカ海軍の裏を書き、互角の戦いをした後、高速で、撤退して、レーダーと言う敵索に罹(かか)りながらも、全滅を避けることが出来たのだ。


 しかし、このレーダーはやはり曲者であった。

 この文明の利器により、どうしても、日本の偵察機がアメリカ艦隊を見つけるよりも早く、日本の艦隊の位置が知られてしまう。そのため、日本軍もアメリカ艦隊に打撃を与える前に撤退しなければならない。

それに、スクリューを変えて、速度が上がった軍艦に今度は、補給船が付いて行けない。

 しかも、偵察に引っかからない潜水艦の存在もあった。戦闘地域から離れた補給船が、レーダーを装備した潜水艦の魚雷によって沈没させられることが多々あったのだ。


 そこで、大和と巫矢は、空船に日本国の解読機を持ち込み、日本国の大きな作戦については、空船で出かけて援護もしていた。

 空船に装備されているレーダーによって、危なくなれば、解読機で電文を打ち、アメリカ艦隊の襲撃や補給船の撃沈を知らせる。そのおかげで、アメリカ軍の襲撃に対して、最小限の被害でなんとか逃げ伸びているのだ。

 そうして、均衡を保ったまま一年が過ぎた。


 そして、開戦から三年近くが経ち、業を煮やしたアメリカは、ついに受け身の戦略から、責めの戦略に方向転換する。

 日本軍の五倍以上の戦力を持って、マリアナの奪回を開始したのだった。

 戦略なしの力押し。まさに、悪魔の所業である。このマリアナは、日本国にとっては、いまだに抵抗が続いている中国への物資の補給路を断つ意味もある。それに、ここを取られれば、アメリカが開発に成功したB二九という、長距離戦略爆撃機が、空母を必要としないで、日本本土に飛んでくるようになる。

 そのため、その作戦を知った日本国も、今まで、何とか持ちこたえてきた全戦力をこのマリアナ沖海戦に投入することになる。


 日本国海軍は、アウトレンジ作戦で敵艦隊の殲滅を測ろうとしたが、アメリカ軍は、高度なレーダーと無線電話を用いた警戒機が戦闘空域を飛び交い、それらから得た情報を分析する戦闘情報センターと戦闘機が、電話で直接話せるような防空システムを構築していたのだ。

そして、向かってくる戦闘機の編隊ごとに、無線電話で最適な空域に誘導していく。


※アウトレンジ作戦=日本国の艦載機が長い航続距離を持っている特長を生かして、アメリカの航空機が届かない場所から発進させて、アメリカ艦隊を攻撃する作戦


 それに比べ、日本の艦載機は、あまりにも遠距離から発進したため、多数の艦載機がコースアウトし、また、アメリカの空母群を目指すコースに乗った艦載機も、アメリカ軍艦載機に、完全に待ち伏せされていた。アメリカ機の有利な高高度からの爆撃を受け、追い散らされ、逃げ惑う艦載機を迎撃していく。

 さらに、かろうじて待ち伏せを潜り抜けた艦載機は、今度は戦艦群の砲弾に、血祭に挙げられていく。これは、アメリカ軍の新型兵器、対空砲弾が命中しなくても目標物近く通過さえすれば熱を感知して砲弾が炸裂するVT信管が高角砲弾に導入されていたからだ。

 

 この砲弾の登場で、アメリカ艦隊の対空防御能力は、各段に上がり、これまでのような方法でアメリカ空母を攻撃しても、成功は奇蹟に近いものになっていく。


 さらに、日本国軍は、アメリカ軍の艦載機はアウトレンジできても、潜水艦をアウトレンジすることは出来なかった。

 日本国軍の潜水艦は、レーダーソナーにより、その位置を知られ撃沈され、逆に、アメリカ軍の潜水艦は、日本国軍の空母群の位置を掴み、魚雷で艦隊群が攻撃されることになってしまった。

 そして、飛び立った殆どの艦載機を失った日本国空母艦隊は、制空権をアメリカ軍に握られてしまう。

 制空権を握ったアメリカ軍は空母群を前進させ、万を持して、航空隊を発進させるのだ。

 日本国の戦艦を攻撃すれば、自分たちの空母に帰ることが出来ない距離でも、果敢に航空隊は出撃して、日本国の空母に大打撃を与え、日本国の海軍は、その機動部隊のほとんどを失うことになったのだ。

 まさに、片道切符の特攻作戦は、日本国の海軍に大打撃を与えた。しかし、日本国の特攻と違うのは、空母に帰れず、太平洋に不時着したパイロットのほとんどは、潜水艦によって回収されていることであった。

 そうして、この勢いに乗って、アメリカ軍はついにサイパン島を奪回すること成功する。

 

この日本海軍の命日ともいえる敗戦に大和と巫矢そして理子は何をしていたのか?


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