第22話 一方、この惨事を三人は
一方、この惨事を三人は、空船の中で、モニターで見ていた。
「これで、日本国本土に長距離爆撃機B二九が飛んでくるようになるわね」
「理子さん、このマリアナ沖海戦で、日本国の空母がほとんど全滅することを知っていて、俺たちは何もしなくていいのか?
せっかくここまで、互角以上の戦いをしてきたのに、このまま、アメリカ軍を見逃すのか?」
「大和さん、あなたは、この戦争どうなって貰いたい?」
「そりゃあ日本国に勝って貰いたいさ」
「でも、勝てると思う?」
「さあ、この物量作戦相手では、難しいだろうな。ある程度、この戦争の結末を理子さんから聞いているが、中でも悲惨なのは沖縄だったな。
沖縄上陸作戦なんか、一〇〇メートル四方に艦砲射撃による砲弾を、二五発も打ち込まれている。さらに、爆撃機によるナーパーム弾による絨毯爆撃だ。地形が変わるほどの爆撃を受けている。俺たちがその場にいたとして、きっと骨も残らないだろう」
「そうね。そして、その沖縄上陸作戦が決行できた原因は、このマリアナ沖海戦、ここで制空権を失った日本国軍は、この後、サイパン島へ上陸を許すことになるわ」
「そうだ、サイパン守備隊の最後は凄まじい。「天皇陛下ばんざい」といいながら、ただただ突撃を繰り返すだけ、まさに機関銃の的にしてくださいと言っているようなものだったらしい。
しかし、俺たちには、空船がある。神代の兵器、インドラの雷(いかづち)-やラーマヤナを使えば、勝機はあるだろう?」
「その通りなんだけど……。私が気に食わないのは、大本営(だいほんえい)の国民に向けての情報操作よ。あの人たちが言うような大戦果は、どの戦闘においても上がっていないわよ。かろうじて、ヒットアンドアウェーで、被害を最小限に抑えているだけ。私の知っている歴史でも、国民だけでなく軍部さえ、その嘘の情報に振り回されていたのよ」
「そうだよな。あれはないよな」
「そうよ。いま、外務省が必死になって、講和条約を結ぼうと動いているけど、とても、有利な条件での講和条約は無理。大本営を信じる人たちは、その講和条件に誰も納得できず、戦争は泥沼化するに決まっている」
「そうか、ここは、何とかなったとしても、結局、お互い息の根が止まるまで戦争を続けるのか……」
「そう、資本主義国の衰退。それこそ、ソ連のスターリン思うつぼよ。私たちがいるために、アメリカと日本が互角に戦えるようになってしまった」
「だからといって、日本がソ連と噛み合っても、国際秘密結社が喜ぶだけだしな」
「そう、ヨーロッパでも、ソ連とドイツが消耗戦になっているわ。おかげで、イギリスが、この太平洋戦争にあまり介入できないんだけど、いずれ、ドイツも負けるわよ。アメリカと同じようにイギリスも防衛から攻撃に転じて、力押しになっているし」
「だな、物量で攻められると作戦以前の問題だしな」
「そういうこと、日本の未来のためには、私が住んでいた未来と同じように、この戦争負けた方がましだと思うの。後は、タイミングの問題ね」
「だが、なにも関係ない人たちが、戦火にさらされることになるぞ」
「うーん……。でも、日本国に余力があると反って、日本国が消滅するまで戦うわよ。軍部はこの戦争で日本人が総玉砕しても構わないと思っているんだもの」
「どうするかな。せめて善良な人たちには、生き延びて欲しいんだけど」
「大和、そして理子さん、最後は仲間を守るため、頭同士の一騎打ちで、決着をつけるしかない気がする」
「巫矢、それだけは、俺たちにとっては、絶対に避けたい所なんだけどな……」
巫矢の過激とも無謀とも言える案に、天皇を危険にさらすことだけは避けたいと考える大和であった。
******************
さて、サイパン島が、アメリカ軍に落ちたことで、大和たちの心配と未来予想図は、現実のものとなる。
サイパンから、飛び立った長距離爆撃機B二九が、今から一年以内に、関東周辺の工場地帯に向かって、編隊を組んで飛んでくるようになっていく。
一方、マリアナ沖海戦を見届けた大和たちは、再び、海軍士官学校内の第七七七部隊で、飛行機の整備に明け暮れるのあった。
しかし、理子が予言した通り、大和たちがいる海軍士官学校内の第七七七部隊にも、頻繁に、まだ、開発中のB二九ではないが、爆撃機が頻繁に飛んでくるようになっている。
それは、アメリカ軍が、日本海軍の軍艦や艦載機のエンジンの出力に比べ、速度が出るのは、プロペラやスクリューの出来栄えが、恐ろしく完璧で、とても、今の技術では不可能なレベルで加工されていることに気が付き、その加工をしている工場が、この辺りにあるという情報を掴んだためなのだ。
当然、軍事施設のため、高射砲が整備されており、迎撃のため、数機の戦闘機が、空に舞い上がるが、その前に、次々と爆弾を落とされ、施設は炎上している。
すぐさま、瓦礫を押しのけ、外に飛び出した、大和に巫矢、そして主と理子。
「やっぱり、来たわね。大規模空襲……」
そう言って、唇を噛む理子。
「あたしは、ここで死のか? せっかく、ここまで、研究が進んだのに」
多少、身体能力が優れていても、爆撃機相手に何ができるのか、そう言って、主は腕に抱(かか)えたアタッシュケースを抱きしめ、唇を噛んだ。
「大丈夫だ。ここは、俺たちが何とかする。巫矢、行くぞ!」
「うん」
そういうと、大和の巫矢は気を練りながら爆撃機に向かって駆け出した。
二人の身体からは、闘気がわき上がり、すでに目視できる状態である。
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