第23話 巫矢は射闇弓を構え、爆撃機に向かって
巫矢は射闇弓を構え、爆撃機に向かって、光速の矢を放っている。その、射程距離およそ三〇〇〇メートル、爆撃機の操縦席からでは、一瞬、地面が光ったかと思うと、光が自分の機体に風穴を開け、後方に飛び去って行くのだ。さらに、後方で、数機が爆発を起こしている。
爆撃機同士の一瞬の重なりを逃さない角度からレーザ―ビームが飛んでくる。
爆撃機は、射程外の上空まで上昇し、爆弾を落とすが、その爆弾は、今度は、光の刃によって、信管を切り飛ばされている。
そこには、闇裂丸とその鞘を二刀流に構え、爆弾に向かって光の斬撃を飛ばす大和がいる。
爆撃機を守る戦闘機は、新型の高射砲と見て、その光の起点に急降下してくる。そして、刀を構えた最後のサムライの姿を見るのであった。
戦闘機から、撃ち出された機銃の雨が、大和の両側に降り注いでいるが、大和は微動だにしない。そして、大和と戦闘機の距離が、数百メートルになったところで、大和は、闇裂丸を一閃する。
パイロットは、自らと共に、自分の機体が真っ二つになるのを、死の瞬間に脳裏に刻みこむことになった。
だが、上空から降る爆弾は、すでに、暴風と化している。
光の速さで、振う斬撃もすでに面と化してバリアのようになっているが、それでも限界がある。
「巫矢、主さん。空船に逃げるぞ」
大和は、巫矢と主に声を掛け、主を抱きかかえると、巫矢の元に走って行く。
巫矢も理子をすでに脇に抱えている。
すでに、巫矢は射闇弓に気を注ぎ終わり、大和が巫矢の腕に捕まると同時に、天に向かって飛びあがる。
そうして、一瞬で、不可視の空船の中に移動している。
「助かった。このアタッシュケースさえあれば、研究を進められる」
主はそういうと、安堵の表情を浮かべた。
「主さん。そのアタッシュケースの中身は?」
「巫矢、お前から貰ったおみくじに書かれていたことの研究さ」
主は、そう巫矢ににやにやしながら返事を返すのだ。
「巫矢、矢はまだあるのか?」
「九八矢、全部撃ちつくしました。撃墜出来たのは二〇〇機ほどですかね。矢は後から回収します」
「そうか、俺も、低空で飛んでいる戦闘機を五〇機ほどだ。何しろ、近くで爆発させないように信管を切るのが忙しくって」
この空襲、大本営によれば、戦闘機や爆撃機の撃墜二五〇機は、大戦果であるが、この日、関東一体を襲った爆撃機の編隊は、実に一〇〇〇機を超えており、大和と巫矢は、とても、東京の空を守ったとは言えず、まさに、焼石に水の状態だった。
空船のレーダーに映るその飛行戦隊の数に、愕然とする大和と巫矢。
「巫矢、確かに、神魂の里の長が言った通りだ。きっと、明日になれば、また一〇〇〇機の飛行機がやって来て、爆弾を落としていくんだ。とても、防ぎきれない」
「じゃあ、やることは一つよ。戦争終結のためにも」
死と言う恐怖に初めて曝された理子の目には、冷静な判断を失ったように、狂喜が混じっている。
「なんだ?」
「日本とアメリカが戦争するように仕向けた、スターリンとルーズベルトを殺(や)るの」
「おいおい、マジかよ」
「でも、この二人がいれば、外務省がいくら頑張ったって講和は無理よ。願うは日本の消滅だもん」
「そうか? 主さんはどう思う?」
「日本本土に爆撃機が飛んでくるようになれば、国民を守るには、それしかないかな? 守るだけじゃ、お前たちもでさえ、とても持たないだろう。でも、お前達にそれができるのか?」
「くそ! 居場所さえ判ればな……」
大和は残念そうに主に言葉を返す。そして、巫矢にもだ。
その言葉を受けた巫矢は静かにうなずき言葉を返す。
「この空船では、あらゆる無線が傍受できるわ。時間が掛かるかもしれないけど、暗号を解読して、命令系統と報告系統を分析できれば、スターリンとルーズベルトの出す指令から、無線機の居場所は特定できると思う」
「それなら、巫矢、無線機の暗号解読をお願いする。主さんは……、そのよくわからないけど、おみくじの研究を続けてくれ」
「教科書にルーズベルトとスターリンの詳しい居場所が書かれていないのが残念です」
「了解です」
「わかった」
残念がる理子に対して、静かに返事をする巫矢と主。
そうして、大和と巫矢、そして主と理子は、そのまま、消息を絶ってしまった。
そのため、四人は、海軍士官学校において、空襲の犠牲になったと思われるようになっていた。
この時、すでに大和と巫矢そして理子がこの世界に飛ばされてから三年以上が経ち、時代は一九四四年の六月であり、日本の敗戦は刻一刻と近づいてくる。
さらに、その後、数か月の間に、フィリピンの周りでは、アメリカ軍がサイパンやグアム島、ペリリュー島に上陸して、日本陸軍は各島で玉砕することになる。
特に、サイパン島では、アメリカ軍は、上陸に先立ち、空爆と艦砲射撃で、主な陣地と飛行場を徹底的に破壊し、四日間で、実に三五〇〇トンの爆弾を休みなく投下しつづけたのだ。
その中、サイパン島各地の守備隊は、その場で、死ぬまで戦い、全滅していく。
そして、アメリカ軍上陸後二二日目に、日本国のサイパン島最高司令官は、四万人以上いた守備隊が三千人ほどになった時点で、「玉砕命令」を出し自決するのである。
そうして、残った約三千人の日本陸軍は、ガバランの町目掛けて突撃をおこなった。
もはや、その時点では誰も身を伏せる者もおらず、まるで、「撃ってくれ」と言わんばかりに喚声(かんせい)を上げながら、突進したのであった。
これが、世に言う「バンザイ突撃」であり、アメリカ軍はその大半の人間を、機関銃を使い、無慈悲に、撃ち殺したのであった。
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