第24話 さらに、悲劇はこれだけでは終わらない
さらに、悲劇はこれだけでは終わらない。
サイパンに残留していた約二万の日本民間人は、日本軍とともに追い詰められていた。
日本国軍は、民間人に軍と運命を共にすることを命令し、また民間人もそのつもりであった。
そうして、日本軍のバンザイ突撃に続いて、民間人もまた、海に投身する者、手りゅう弾で自決する者らで自殺者の数は、一万人を超えていたのだった。
その場所は、現在では一方は、バンザイクリフと呼ばれ、もう一方はスーサイドクリフ(自殺の崖)と呼ばれている。
この悲劇は、別にサイパン島だけに起こったものではない。東シナ海のあらゆる島で同じことが繰り返されていたのだ。
そして、日本軍は、レイテ島で、陸海で大敗を喫して、空母戦力のほとんどを失い、また、戦艦武蔵も、レイテ沖で沈むことになる。
このレイテ決戦では、約十万人の日本兵が戦死することになった。
なにせ、アメリカのレイテ上陸部隊は台湾沖航空戦で壊滅したその敗残部隊で、日本軍は、その掃討という命令を受けて、ルソン島から送り込まれた部隊だったのだ。
まさに、この報は完全な誤報であり、アメリカ機動部隊が健在の中、日本軍は、レイテ島に、地上部隊や物資を送り込もうとした。しかし、輸送中の輸送船は、途中で空襲に遭い、三万の兵がレイテ島にたどり着けず、何とかたどり着いた者たちも、満足な武器も陸揚げできず、レイテ島の戦闘や逃避行で戦死することになるのだ。
本来なら、その援護として、航空機でレイテ島へ空爆を行う所だが、すでに、日本国軍には航空機が不足していた。
そのため、レイテ湾に殴り込み、艦砲射撃でアメリカ上陸軍に痛打を喰らわすべく、戦艦武蔵と大和そして、他の軍艦一五隻、駆逐艦一五隻で出撃したのだ。
しかし、艦隊の上空を守る航空隊もおらず、潜水艦に対しても備えがない。
戦艦大和は、数発の爆弾を喰らいながらなんとか逃げ切ったが、戦艦武蔵は、結局、レイテ湾に達することなく、アメリカ空母の航空部隊に空襲され、一九本の魚雷を食らい、一七発の爆弾を食らうという集中砲火を浴びながらも、機銃弾一五万発を撃ち尽くし、一八機のアメリカ軍機を撃墜したが、艦内の電灯をつけたまま、レイテ沖に沈んでいった。
そう、まさに、レイテ沖海戦は、近代戦争になって、働き場を無くした軍艦に、死に場所を与えるような無謀な作戦といえた。
さらに、日本軍は、最後の手段としていた神風特別攻撃隊の初めての出陣を命令するのである。
そして、日本国軍が惨敗したレイテ沖海戦の一か月後、一一月にとうとうマリアナ諸島から飛び立ったB二九が、東京空襲を行ったのだ。それから、日に日に空襲が酷くなり、愛する人たちを戦闘や空襲で失った日本国民も内心では、この戦争に負けると考え始めていた。
一九四五年四月、日本中の大都市が、空襲に脅かされるなか、遂に、巫矢は、無線の暗号解読して、スターリンとルーズベルトの居場所を突き止めた。
大和たちの反撃が、遂に始まる。
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すでに、ドイツ軍は風前の灯で、ヒットラーの所在はわからなくなっていた。
そうして、空船が、暗闇に紛れてレニングラード上空に停泊する。
「巫矢、ここか!」
「ええ、スターリンは、おそらく、現在は、この真下の軍事施設にいます。表向きは、ドイツ軍に包囲されたレニングラードのソビエト共産党の本部の書記長室にいるって言われていますが、この砦の地下一〇〇メートルの場所に司令室を築いて、指令を出しています」
「地下一〇〇メートルか。楽勝だな」
「大和、相手の本丸なんだから最新鋭の兵器を持っているはずですよ」
「わかっている。油断なんかしていない。血が滾(たぎ)って、俺自身を鼓舞しているのさ」
「大和、そのいきです」
「こんなことは、歴史上にもありません。どうかご無事で帰ってください」
黒装束に身を固めた二人は、理子に見送られ、空船を飛び出していく。
そして、着地した瞬間に、大和は、疾風になり、周りにいる警備兵を、防弾チョッキごと切り裂いていく。そして、巫矢も離れたスナイパーたちを射闇弓で射抜いていく。
百人はいた警備兵が、地面に転がっているのみだ。
「ここが入口か?」
「そうみたいですね」
砦と思われる施設の入口に立ち、敵索を展開する大和と巫矢。すでに、目視できる範囲に敵は居ない。
「この建物の中には、十数人いる。それに、かなり腕利きばかりだ。在りえない攻撃で隙を突くぞ」
「了解です、大和」
巫矢は、そういうと、射闇弓に一〇本の矢を番え、同時に、一〇本の矢を放つ。
壁越しに放たれた闇鋼の矢は、壁に穴を開け、さらにその軌道を変えることなく、防弾チョッキを貫いて、正確に心臓を貫く矢に、残りの者は、驚き、一瞬の隙ができる。
大和は、その一瞬を見逃さない。ドアを蹴破ると、即座に、警備兵に肉薄して、闇裂丸を振う。その切れ味は凄まじく、銃を構えたつもりで、自分の肘から先が無いことに気が付いて悲鳴を上げる警備兵たち。
「大の男が、腕が無くなったくらいで、悲鳴なんて上げるなよ」
そう嘘吹きながら、一刀両断にしていく大和。そして、遅れて入って来た巫矢も、大和を援護するので、残っていた八人もあっと言う間に切り伏せられていた。
「さて、この鉄の扉の向こうが、地下室に繋がっているはずだが」
扉の向こうに敵索を広げる大和。
「まだ、百人以上いるぞ」
「ちょっと、待ってよ」
扉の先に行こうとする大和に声を掛けて、矢を電磁力によって集める巫矢。
「さて、準備できたよ」
巫矢の合図とともに、鉄の扉を切り裂く大和。扉の向こうには、敵は居なかった。
だが、部屋で起こった惨劇はすべてモニターで監視されていたのだ。
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