第25話 慎重に地下通路を進むでいくと

 慎重に地下通路を進むでいくと、マシンガンの猛烈な弾幕が大和を襲う。自動でマシンガンを乱射できるトラップが仕込まれていたのだ。

「な、なに!」

 狭い通路に逃げ道や体を隠すような場所も無い。しかし、大和は、そのすべての弾丸を闇裂丸と鞘で、弾き落としていったのだ。一分間に一六〇〇発、一発あたり0.〇四秒、その軌道を読み、体に近づく弾から、正確に叩き落としていく。

 巫矢は、大和が切った鉄の扉を盾に、ゆっくり、地下通路を降りてくる。やがて、数分間で、弾を撃ちつくし、乱射音が消えた。

「巫矢、なんだ。それは、神魂一族は、防御の武器は持たないはずだが?」

 巫矢を見て、口を尖らせる大和。

「でも、死んだら元も子もないでしょ」

「まあ、死ぬよりましか。それより、これから先もこんな罠があるのか」

 ため息を吐く大和。すでに、通路の電灯は消え、辺りは真っ暗になっている。

 さらに、通路を進むと、今度は暗視ゴーグルをつけた護衛が、数十人も暗闇からナイフや銃で襲い掛かってくるのだが、敵索を広げながら進む大和は、素早く、護衛の首を跳ねて行く。 暗闇の中、大和の体術に目も動きもついていくことは常人には不可能だった。


 その後、しばらくは、攻撃を受けることが無くなった。

 洞穴のような通路を進む大和と巫矢。そこで、巫矢は足を突然止めた。

「大和、なにか、火薬の匂いがする」

「なにー!」

 大和が声を上げるとともに、大爆発が起こり、天井が崩れ落ちてきた。

 そう、この通路の途中には、爆弾が仕込まれ、遠隔操作で起爆スイッチを入れると爆発が起こるようになっていた。

 そして、通路は瓦礫で埋め尽くされている。この通路を通った敵を生き埋めにするトラップが発動したのだ。

 モニターには、土煙がもうもうと上がった所しか映っていない。


しばらく、警戒して、地下司令室でモニターを見入っていたが、ほっと、安堵をするスターリンたち。

「今の奴らは、どこの国の軍人だ? あの兵器は、刀と弓か? 良くあんな物で、ここまで来られたものだ」

「あれは、昔の日本人が使っていた武器です。いまだにあんなものを使っているとは、日本もかなり、物資が不足しているらしい」

「それでも、ここを探り当て、ここまでやって来た実力は、なかなかのものだ。結構楽しめたじゃあないか」

「それにしても、通路が埋まってしまって、クレムリンの要塞までの抜け道しかなくなってしまったぞ。これは、セキュリティ上問題があるな」

「まったく、手間を掛けさせる奴らだった」


「そうか。それは褒め言葉と取ればいいのか?」

 巫矢のロシア語の通訳を聞いて、日本語で尋ねた大和。


 驚いて振り返ったスターリンや数十人いるその側近たちは、モニターに映っていた大和と巫矢が、ここにいることに驚き、まるで幽霊を見るような顔で固まっている。

 その隙を大和と巫矢が見逃すはずはなかった。

 闇鋼の矢を束で掴み取り、射闇弓で乱射する。大和は、すでに、スターリンの護衛や諜報部員に肉薄し、稲妻の如く闇裂丸を躍らせている。

 まさに、接近戦で、大和に勝てる者はいない。

 踊るように、人壁をすり抜けると、大和は、スターリンの首元に闇裂丸を突きつけた。


「な、なんで、あの状況で生きている?」

「ああ、あの天井が崩れた時か? 俺がとっさに、横壁に右拳を叩きこんだ。そうやって、空いた横穴に二人で避難したんだ。岩盤が固くて助かったよ。すべてが崩れたんじゃなくて一部だったから」

「そうそう、天井が崩れれば、その部分にぽっかり空間ができるでしょ。横穴に逃れたあと、そこまで、這い上がって、後は、その狭い空間を這って出て来たのよ」

 大和の説明に、巫矢が補足する。しかし、まったく、理解できない顔をしているスターリンに向かって、巫矢は、ロシア語で最初から説明し直した。


「ああ、通じてなかったのか。まあ、どうでもいいことだ」

 そういうと、大和は、壁にスターリンを蹴り飛ばし、壁ごと、スターリンを五体バラバラに切り刻む。壁に入った亀裂は、まるで蜘蛛の巣のようで、バラバラになった肉片は、その蜘蛛の巣に掛かる モズのハヤニエのような残酷さだ。

 そう、刀では物理的に不可能、のちに鬼の所業と言われた斬殺劇である。


「巫矢、ちょっときついが来た道を戻ってずらかるぞ。こっちの抜け道から大勢の気配に向かって来ている」

「わかってるわよ。大和」

そういうと、二人は、再び、闇に紛れて、洞窟の通路を引き返す。

 さらに、崩れた通路では、通り抜けた後、手りゅう弾で吹き飛ばし完全に通れないようにして、さらに、表の砦部分も手りゅう弾で吹き飛ばし、空船に消えて行くのだった。


 大和たちが、消えた司令室では、駆け付けた兵士たちが、壁ごと切り刻まれたスターリンの死骸が、側近や護衛していた諜報部員と一緒に転がっているのを目撃することになる。まさに、この世の物理現象を無視する惨劇に、それを目撃した兵士たちは心底、恐怖するのだった。


 空船に帰った大和と巫矢は、スターリン暗殺が首尾よくいったことを、主と理子に報告したのだ。

「そうですか、稀代の殺人狂のスターリンが死んだんですか。これで、戦後もかなり変わってくることでしょう」

 理子は、日ソ不可侵条約を一方的に破棄して、満州やカラフトに攻め込み、シベリヤ抑留での日本人の虐殺を始め、日本を分割統治しようとした共産主義国のトップを葬りさり、無事に大和と巫矢が帰って来たことに安堵するのだ。

 それは、スターリンという男が、次に挙げるような野心を持つ男と理子は知っていたから。


 ところで、ソ連共産党の生みの親であるレーニンは、自身の遺書の中で、スターリンを軽蔑する内容の口述をしている。レーニンはスターリンの不作法な態度、度を越した権力、野心、そして政治を批判し、スターリンを書記長の座から解任すべきであると書き記している。

 そうして、レーニンの遺書のとおり、独裁者として恐れられたスターリンは、大和の凶刃によって、歴史上から姿を消した。

 第二次世界大戦の死傷者数五千万人から八千万人のうち、ソ連の死傷者は二千六百万人、さらに、共産党に殺された人は全世界で一億人に達するという稀代の殺人狂は、大和の凶刃により無残な最期を遂げたのである。

 そして、同時期、ドイツの独裁者、殺人狂のヒットラーも、地下壕で、自らの命を絶っていたのだった。

 ドイツとソ連の独裁者が消えたことで、ヨーロッパ戦線は一気に停滞する。

 お互いの陣営が、不毛な戦争に嫌気がさし、終戦に向けて動き出すきっかけを得たのだった。


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