第26話 一方、大和と巫矢がスターリンを斬殺した数日後

 一方、大和と巫矢がスターリンを斬殺した数日後、アメリカのホワイトハウスでは、暗号化された電文が、ルーズベルトに届いていた。

 それは、ルーズベルトの行動を監視しているように、ちゃんと、ホワイトハウスにルーズベルトがいるタイミングで、届けられたのだ。


(ここからは、会話部分は英語で読み替えてください)


「モシモシ、ワタシ、ミヤチャン。ミーツケタ」


 その電文を見て、ルーズベルトは側近に文句を言っている。

「なんだ、この暗号は? この私の部屋の暗号機に、敵からの暗号文が入ってくるとはどういうことだ?」

「いえ、ここは、最高の機密で管理されていて、決して敵にわかるはずはないのですか」

「だったらなぜ、ここにこの電文がある。これは、敵国からの電文に違いない。こちらの無線はすべて筒抜けだぞ。どうするんだこの失態は?」

「はっ、直ちに改善します。それにしても?」

「それにしても、なんだ?」

「普通は、暗号の解読に成功しても、決して相手には知られないようにするはずですが」

「確かに、その方が、後々、なにかと都合がいいからな」

「そうなんです。意味がわかりません……」

 ルーズベルトと側近たちは、頭を傾(かし)げている。そうやっているうちに、次の電文が入電する。


「モシモシ、ワタシ、ミヤチャン。イマ、アナタノジョウクウニイルノ」


「上空に居るだと!」

 ルーズベルトや側近たちは、窓から乗りだし、上空を見上げるが、雲一つない青空が広がっているだけで、飛行機のエンジン音一つ聞こえてこない。

「なんなんだ、一体?」

 さらにイラつくルーズベルト。そして、側近たちは、念のため、警備兵に連絡を取って警戒を強めるように指示する。

 そうこうしているうちに、再び、電文が入電する。


「モシモシ、ワタシ、ミヤチャン。イマ、ゲンカンニイルノ」


「おい、門兵はどうなっている!」

 ルーズベルトの怒鳴り声に、側近は、慌てて門兵に連絡を取るが、相手は、無線電話に出ることがない。

「くそ、こんなときにサボってやがる!」

「まさか、すでにこのホワイトハウスに敵が侵入していることは無いのか?」

「大統領、それはありえません。まったく、そんな兆候はありませんでした」

「とりあえず、この執務室までの、通路を固めろ。緊急事態だ!」


 遂に、ホワイトハウスに初めて警報が鳴り響き、厳戒態勢が引かれる。

 そこに再び、電文が入電する。


「モシモシ、ワタシ、ミヤチャン。イマ、カイダンヲアガッタノ」


 それを見た警備の者たちが、執務室のドアから飛び出していく。

 ドアの外では、銃声が聞こえドタバタと、激しくもみ合う音がしていたが、すぐに静かになった。


「どうなったんだ?」

 ルーズベルトの問い掛けに、こわごわとドアの外に出て行く側近が一名。

 そこに、再び電文が入ってくる。


「モシモシ、ワタシ、ミヤチャン。イマ、ドアノムコウニイルノ」


 ルーズベルトを始め周りの側近たちの背中に冷たい汗が走る。

 ドアを凝視するルーズベルトたち。そのドアノブが回された。

 そして、今出て行った側近が、ドアを開けて、中を覗き込んでくる。その側近はすでに、胸から血を流していた。

 そうして、今にも倒れそうな側近の首根っこを掴みながら、側近を盾に、執務室に入ってくる影があった。


「まだ、落ちがあるんだけどな」

 電文を打つために空船に待機していた影野主が呟(つぶ)やくと、そのタイミングで、再びホワイトハウスに電文が入ってくる。


「モシモシ、ワタシ、ミヤチャン。イマ、アナタノウシロニイルノ」


 その瞬間、ルーズベルトの背後にあるロケット弾にも耐える防弾ガラスが、数本の矢で砕け散り、側近たちの背中や後頭部に突き刺さる。

 そして砕けた窓から飛び込んでくる女の子の人影。


「巫矢、ちょっと早い。まだ、だれも最後の電文を読んでないぞ」

「うーん。そうですか。まあ、いいです。

それより、ルーズベルトさんジャパニーズホラー、都市伝説、楽しんで頂けましたか?」

「お、お前ら、なんなんだ!?」

 すでに、周りに生きている者もいない。恐怖に駆られたルーズベルトは、この理不尽さに、声を絞り出した。

「それにしても、戦時中なのに、ホワイトハウスは、通常警備とは、日本国も舐められたもんだ」

「やはり、日本国の者なのか?」

「知らないのか。日本古来の戦は、敵の大将首を取れば、終わりなんだよ。そのための決死隊が何度も組まれたんだから」

「お前ら、私が死んでも、この戦争は続くぞ!」

「わかっているさ。だから何度でも、ミヤチャンの電文が入ることになるのさ」

 そう言って、口角を上げる大和。

 そして、ルーズベルトの背後にあった執務机ごと、ルーズベルトを、闇裂丸で切り刻むのであった。

「お前は生かしておいてやるよ。目撃者も必要だしな」

 そう言って、首根っこを掴んでいた側近をルーズベルトの遺体の上に投げ捨てる。

「巫矢、応援が来る前に、ずらかるぞ」

「了解です。それにしても、大和、もう少し英語を勉強した方がいいですよ」

「やかましい!」


 大和と巫矢は、割れた窓から飛び出すと、そのまま、上空に留まっている空船に向かって上昇するのだった。


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