第27話 その後、駆け付けた警備兵の介抱によって

 その後、駆け付けた警備兵の介抱によって、一命を取り留めた側近の証言で、ルーズベルトの恐怖の最後が、明確に語られた。

 特に、次から次に入った暗号文は、その経過と現実が、判ればわかるほど、その恐ろしさを増し、アメリカ国家、特に軍部では、「ミヤチャンのアンゴウブン」として、軍事機密と箝口令が引かれながら伝説として、語り継がれることになるのだった。


 一方、空船に帰った大和と巫矢は、主と理子に報告がてら会話を交わしていた。


「巫矢が、最後の電文をルーズベルトが読む前に矢を放っちまいやがった」

「大和、だって、主さんが今最後の電文を送りましたって、連絡してきたから」

「巫矢、それで、すぐに飛び込んでどうする。ルーズベルトたちが恐怖に駆られて、後ろを振り返ったところで、飛びこまないと」


「巫矢、でも、とても、良く出来た怖い話ね」

「主さん。これは、私がここに来る前にいた世界で流行っていた都市伝説なの。三本足の人形が、捨てた人を襲うのよ」

 理子は、してやったりという顔で、主を見た。

「しかし、これで、身も凍る恐怖を感じたかな。俺には、どう考えても、只の三文芝居にしか思えんのだが? もっとも、脚本が巫矢だもんな」

「結構、いけてたと思うよ。背中にビッチョリ汗が浮かんでたもん」

「巫矢、お前、あの瞬間にそこまで見えていたのか」

「とーぜんでしょ」


「まあ、いいか。それで、この後、どうなると思う? 理子さん」

「大和さん。実は、このまま、放っておいても、ルーズベルトは脳卒中で、死んでいたんです。でも、まあ、親華派と言われたルーズベルトが死んだとしたら、ここまで、完全な赤字の中国への援助も変わるだろうし、日本への態度も変わるんじゃないでしょうか」

「なんだ、放っておいても死んでたのか。巫矢、お前、理子さんから聞いた都市伝説がやりたいだけだったんじゃないか?」

「そんなことないって……」

「お前、目が泳いでるぞ」

 目が泳いでいる巫矢は、話を変えるように、次の大統領に話題を振った。


「何言ってるのよ。あれだけ脅したんだから、次の大統領のなり手なんかいないわよ。大和が、恐怖体験者を一人残したのも大きいわね。

 やっぱり、恐怖体験は、語る人が居ないとね。大抵、見て生きていた者は誰も居ないで始まるんだけど。「じゃあ、誰が話し出したんだ!」ってツッコミたくなるよね」

「……確かにな。ところで、理子さん、次の大統領は誰が成っているんだ」

「大和、私の話を無視しいないの」

「まあまあ、巫矢さん、わたしの知っている限りでは、トルーマンって人だよ」

「あの中に居たのかね?」

「さあ、わかんない」

「死んでなきゃいいけど」

「だよね」

 大和と巫矢は、もし、死んでいたらと考えて、どちらでもいいや。もし、政権がコミンテルンのスパイが大量に潜り込んでいる民主党から、もともと、非戦派であった共和党に変われば、日本国の外務省にとっては都合がいいと楽観的に考えていた。


 しかし、現実はそう甘くはなかった。

 大和が唯一、命を取らなかった側近こそが、トルーマンだったのだ。

 副大統領のトルーマンは、ルーズベルトが死んだことによって、残任期間を大統領として、過ごさなければならなかった。

 しかし、トルーマンは、心底大和の言葉に怯えていた。「日本の戦は、大将の首を狙う。何度でも、ミヤチャンの電文が送られてくるぞ」にだ。もし、本当にミヤチャンの電文が送られてきたら、自分の命はない。その前にと考えることは一つ。

「天皇の首を取る!」

 その考えは、トルーマンを盲信させた。もし、天皇が戦死したら、きっと、日本国民は最後の一兵卒まで戦争を止めないだろうという情報部の進言が在ったにも関わらずだ。


 そういう理由で、マンハッタン計画、すなわち、原子爆弾の開発が、いままで以上に、急ピッチで進められるようになった。


 その反動で、フィリピンの辺りで、あれだけ、虐殺に明け暮れ、占領することに固執したアメリカ軍は、本土の占領から、B二九を日本の東京にのみ飛ばすことに専念したようで、日本各地は、戦火にさらされることがだんだん少なくなっていく。

 それに対して、レイテ島が落とされ、遂に、日本の本土、沖縄への上陸作戦を開始すると見ていた日本国軍は、沖縄決戦に備え、大量の陸軍を専守隊として派遣しているのだが、予想に反して、アメリカ軍の侵攻は遅々として進まなかった。


 そんな中、皇居の上空めがけて飛んでくるB二九に対して、日本軍の取る道は、特攻しかなかった。何しろ高度一万メートル。高射砲も届かない。日本の戦闘機も八千メートルを超えれば、もはや、ふらふらと飛ぶことができるだけであった。

 よたよたとB二九まで飛んでいくところを、真上から機銃で狙い撃ちされて迎撃される日本国戦闘機、その中のほんの一部が、やっとたどり着き、B二九に命懸けで、体当たりを敢行する。

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