第28話 B29が日本国の貧弱な防空網を突破して

 B29が日本国の貧弱な防空網を突破して、皇居の近くまで飛んでくるが、そこを守っているのは、高度一万メートルの停泊する空船の甲板の上に立つ大和と巫矢だ。


 空船自体が、光学迷彩で不可視になっているため、B二九から見たその光景は異常であった。

 日本海軍の軍服を着た、まだ若い男女が、空中に浮かんでいるのだ。しかも、持っている武器は、刀と弓である。いくら、日本国軍に武器が不足していて、武器無き戦闘と揶揄されていても、この装備はあまりにもひどい。

 しかし、アメリカ兵は、別の噂も、また頭に浮かんでいる。

 軍事機密になっている「ミヤチャンの暗号文」伝説の、鬼神の噂で在った。

 そして、その伝説は、事実で在ったことを命と引き換えに知ってしまうことになるのだ。


「巫矢、最近この皇居に飛んでくる飛行機多くないか?」

「ええ、明らかに、天皇の首を狙っているようですね」

「ちぇ、俺が余分なことを口走ったか?」

「大和、反省しなさいよ」

「いや、俺は、反省はしない。結果を出せばいいんだ!」


 そう言って、B二九に向かって斬撃を飛ばす大和。斬撃は、見事に、B二九を両断し、そして、強大な怪鳥の両翼をもぎ取っていく。

 巫矢も同じように、光の矢を放ち、鋼鉄の怪鳥を撃ち落としていく。

 それほどの速度も、旋回も急上昇も急降下もない鳥など、ただの動かない的に過ぎない。

 機銃攻撃も、軽くかわしてしまう。なにより、的が小さすぎるのである。B二九の機銃は、自動で標準を合わせ、掃射するが、空の上で、両足を踏ん張り、微動だにしない大和と巫矢は、そのセンサーにひっかることが無い。

 手動に切り替えても、空の上で、踊るように、機銃から逃れ、斬撃や矢が飛んでくる。

 皇居を目指した飛行編隊は、まったく、歯が断たず全滅していく。


 そういう訳で、皇居の周り、半径二キロ以内にアメリカ軍は全く近づくことができない。

 そのことで、焦りを感じるトルーマン。爆死した爆撃機から入ってくる無線電話の最後の言葉は、常に、「ミヤチャンの暗号文」の怪談に出てくる鬼神であり、悪魔であり、絶滅したはずのサムライなのだ。

 

トルーマンは、この最後の言葉を聞いて、もはや安眠することさえできない。やっと、眠りに就いた浅い眠りの中で、鬼神と化したサムライに刀を突きつけられ、そこで、大声を上げて飛び起きるのであった。

「早く、天皇をやらないと、こっちが殺(や)られる」

 トルーマンの神経は日に日に衰弱していく。目の周りに隅(くま)を作り、落ち込んだ目には力はない。


 そんな、トルーマンに、マンハッタン計画の最高責任者が訪ねてきた。

「閣下、遂に、原子力爆弾が完成しました」

「やっと、出来たか? それで、何発出来たんだ」

「いや、試作品として、ウラン型とプラトニウム型、二発だけですが?」

「ばかやろう。そんな数じゃあ、あの鬼神どもを殺(や)ることができるか。最低でもあと一〇発は造ってこい!」

「閣下、そんな、どこにそれだけの核爆弾を落とす必要があるのですか?」

「日本国の東京に決まっているだろう。二三区をすべて死の灰に覆わせるのだ」

「しかし、そんな無茶な!」

「やかましい。御所に近づけんのだ。周りを廃都にしてやるのだ」

「閣下、原子力爆弾は、爆心から半径三キロ以上を爆風で吹っ飛ばしますよ。それに、その後、放射能の問題もあります。そんなに核爆弾を打ち込んだら、東京の水は一生涯飲めなくなりますよ」

「わしに盾突く、日本国がどうなろうと問題ない。お前は、さっさとわしの命令通りに、原爆を作ればいいんだ!命令違反で死にたくなければな」


 正気を失っているトルーマンには、もはや、誰の忠告も耳に入らない。マンハッタン計画の最高責任者である科学者も、もうそれ以上は、意見を述べることは出来なかった。


 そういう訳で、原爆の大量生産という悪魔の所業が、急ピッチで進められる。 

 そして、一カ月後、二〇発の原子力爆弾を積んだB二九が、東京に向かうことになるのだ。


 一方、大和たちは、そのころ、B二九による東京空襲が一時の勢いを失っていることを感じていた。

「巫矢、最近、爆撃機が飛んでくることが少なくなってないか」

「ええ、そうね。もうやる気がなくなったのかしら」

「そうだといいがな? だったら、この機会を逃さず、日本国の中枢部に巣食う盲信者を殺(や)っておくか」

「えっ、それってどういうこと? 」

「今だに、日本は神の国で、どうにもならなれば、神風が吹くとか、神機が現れるとか考えているやつらだよ」

「ああっ、そういうことか。確かに、実際に、惨敗の報告を受けているのに、それさえ信じず、自分たちがねつ造している大本営の情報の方を盲信している人も居るものね」

「そういうことだ。理子さんの話だと、本土決戦になっても、二千万人も死ねば、そのしつこさに根を上げて、アメリカが講和してくると考えている奴もいるらしい」

「まるで、大人と子供の喧嘩ね。子どもが泣きながら、グルグルパンチをしてくるもんだからから、大人の方が、もう、面倒くさくなって、「参った」とか言うと思っているのよね」

「ああ、そうだ。だが、そんなことはありえない。もし、そういうことがあるのなら、フィリピン諸島各地で、あんな玉砕とかありえない。アメリカ軍は、最後の一兵卒まで、容赦なかった」


 大和は、空船から静観したフィリピンの各諸島での惨劇を思い出し、唇を噛んだ。


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