第31話 中を探る大和、すると
中を探る大和。すると、中から声が掛かった。
「そこに居るんだろ。どうぞ」
柔らかい物言いだが、その声には威厳が感じられる。
どうぞ、と言われて引く大和ではない。
「入らせてもらうぞ」
どうどう正面から乗り込む大和。しかし、巫矢は、部屋の中を警戒して、壁越しに射闇弓を構えている。理子は覚悟を決めて大和の後ろに隠れるようについてくだけだ。
正面の執務席に座っている人は、毅然とした態度なのだが、目には、焦燥感が漂っていた。
「遂に、私の元にも、死神が来たか……」
そういうと、目には力強さがもどり、決意がみなぎっている。
「私の愚かな部下が君たちに、いや、国民に迷惑を掛けた。その落とし前を付けにきたんだろう」
「陛下、何を決意しているのか分からないけど、俺たち、別に陛下を殺(や)りに来たわけじゃないんだけど」
「愚かな私に、鉄槌を下しに来たんじゃないのかね」
「そんなことできるわけ無いじゃん。陛下は俺たちの守るべき象徴だぞ」
「私を守るだと。お前たちは何者なんだ?」
「神魂一族の大和と巫矢!」
「神魂一族だと、日本書記から抜け落ちた章に書かれている、我が祖先の神々の供をした一族か」
「知っているなら話は早い」
「そうか、遂に神風が吹くのか。ここまで、国民を絶望の淵に追い詰めた甲斐があった……」
「あの、陛下さん? それちょっと違うから…… 」
「なんだ。……巫矢?さん……、でいいのか」
「そうです。巫矢です。それで、陛下さん私たちは、あなたに降伏するよう勧めにきたのよ」
「降伏を勧めに来ただと?」
「そうだ、このまま、アメリカと戦争を続けても、どうにもならない。何しろ、工業力が違う。俺たちが守れたのは、ほんのこの御所の周りだけだ」
「そうか、この御所を空襲から守ってくれていたのか……」
「しかし、もう、限界だ。ただし、アメリカもルーズベルトが死んで、日本との戦争をこのまま続けるかどうかためらっているはずだ」
「ここ、最近、アメリカ軍の動きが鈍くなったのはその影響だと思うの」
「そうか。空襲が減ったのはルーズベルトが死んだのが原因か。ところで、それは、大和殿が何かしたのか」
「いや、聞かない方がいい。俺たちは、決して表舞台には出ることができない一族だ」
「そうか。まあ、詳しくは聞くまい。日本軍と関係ない所で起こったことだ
しかし、講和を持ちかけてアメリカが納得するかだが?」
「だから、早急に講和条件を話し合う席についてほしい。やってみる価値はあるだろう。アメリカに対するあと一押しが必要なら、俺たちがする」
「講和条件? どんな条件で講和するというんだ」
「それについては、私が!」
「君は?」
「未来からやって来た理子と言います」
「未来から?」
「そうです。今から七〇年以上先の時代から来たようです」
「それで」
「その時代は、日本は太平洋戦争に完膚なまでに叩かれ、原爆を落とされ、無条件降伏させられたました」
「なるほど、無条件降伏か……」
「でも、その後、日本はすごい経済発展を遂げて世界第二位の経済大国になるんです」
「どうしてそんなことに? 日本は全てを失った敗戦国なんだろう」
「そうです。私の推測ですが、戦後、世界地図の半分を真っ赤に変えるほど、共産主義国が台頭したんです。ソ連、中国、朝鮮、そのほかにも」
「なるほど、資本主義国家が、日本を盾にするのか?」
「私もそう感じました。それに戦後、アジアの色々な国が独立するんですけど、どの国貧しいのです。列強の搾取はまだまだ続いていたんです」
「なるほど、その不満が、敗戦国のくせに豊かな日本に向かうんだな」
「そのとおりです。共産主義国のプロパガンダもあるでしょう。その影響で、日本人は、歴史の話になると、とても、自虐的で……。すぐに謝る謝罪国家になってしまうんです。どうか、日本人の誇りを取り戻すことができる講和条件をお願いします」
理子は、自分たちの時代で矛盾に感じていることを必死で、天皇に訴えた。
少し、考え事をする天皇。
「理子さん。その抱えている本に、未来のことが書かれているなら、わしに貰えないか?」
「えっ」
驚いて、大和と巫矢を見る理子。それを見て頷き返す二人。
「なに、心配いらん。神魂一族の書かれた日本書記と同様、天皇家の秘蔵庫に保管し、わし以外は、誰も見ることが出来んようにする」
「それなら……」
理子は、天皇に、抱えていた歴史の本を渡すのだった。
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