第30話 空船のモニターを覗き込んでいた巫矢が

 空船のモニターを覗き込んでいた巫矢が大和に言った。

「大和、陛下の周りから、護衛の者が消えました」

「なに、本当か?」

「これは、罠かな?」

「うーん。罠だとしたら危険かな。あまり日本人を殺したくはないから、護衛の少ない時を狙っていたんだけど」

「大和、どうする?」

「でも、行くしかないだろう。俺たちはこの瞬間を待っていたんだから」

「そうね。了解です。それじゃあ、理子さん、行きましょう。主さん、また、留守番をお願いね」


 主は、この空船にやって来てからは、四六時中、アタッシュケースから出したボックスをガチャガチャと触ってばかりいる。


「ちょっと待て、巫矢、少し、教えて欲しいことがある」

「なに、主さん?」

「前にも言ったけど、あたし、影の里で、神魂一族のことが書かれているわずかな資料を読んだことがある。その話は荒唐無稽で、とても人間のできることじゃないと思っていたけど、認識を変えるわ。それで、お願いがあるんだけど、この空船には、超電磁波の増幅装置があるはずだな?」

「主さん。そんなのどうするんですか?」

「巫矢、何も聞かないで教えてくれ。悪いようにはしないから。おみくじのナゾがもう少しで解けるんだ」

 巫矢は、主をライバルと認めている。しかも、自分が解らなかったおみくじのナゾを後一歩で解ける所まで来ているようなのだ。少し考えている巫矢。

 主は、不安そうに巫矢を見ている。それに対する大和は、巫矢に絶対の信頼をおいて、後は、決断を促すように巫矢を眺めている。

 巫矢は、複雑な器械や計器が並んでいる壁まで、歩いていくと、一つのフラグの差し込み口を指差した。

「このプラグ差し込み口が、超電磁波増幅装置に繋がっているの。増幅装置に流れた波動は、増幅されて、外部のパラボラアンテナから超電磁波となって発射されるはず」

「はず?」

「主さん。私もこの複雑なプラグの差し込み口に合ったプラグを作ったことが無いの。後は主さんの才能と努力で何とかして」

 巫矢と主は、お互いに睨み合ったあと、主が口を開いた。

「巫矢、ありがとう。きっと、お前の度胆を抜いて見せる」

 巫矢は、ふっと笑顔になった。


「巫矢、理子、行くぞ」

「はい、大和。それじゃあ、主さんよろしくね」

「ああ、そちらも気を付けろよ」


 大和と巫矢そして理子は、空船を飛び出し、暗闇に紛れて、御所の屋根にダイブする。

「確かに、護衛は、外部だけで、内部には、いなさそうだな」

 敵索を広げた大和は、巫矢に向かって呟(つぶや)く。

「ええ、でも、油断しないで」

「わかっているさ」

 大和を先頭に、屋根から音もなく飛び降り、天守閣の途中にある窓から内部に飛びこんだ。

 慎重に、階段を下りて行く大和と巫矢そして理子は、途中に罠などもなく、今度は、地下に降りて行く通路を見つけるのだった。


「ここは、昔、江戸城だった時の抜け道か? ずいぶん、古めかしいな」

「大和、ここで、間違いない?」

「でも、この中に、人がいる気配があるのは、この先だけだぞ」

「また、それ、捕虜か何かで、生き埋めにされちゃうんじゃない」

「でも、行ってみるしかないだろ。巫矢」

「うーん」


 しかし、古めかしいのは、入口だけで、すぐに、周りが、コンクリートで固められ、煌々と電灯が付いている通路に変わった。

「大和、何か、誘われているようですね」

「ああ、参ったな。警備をワザと外して、今日この時間に来るように誘い込んでいる。これは罠だな」

 理子はすでに、生きた心地がしていない。大和にしがみ付き、下を向いて大和たちに付いて行くだけだ。

さらに、大和と巫矢は警戒を強めるが、その後も何事もなく、遂に、一番奥まった扉の前に行きついた。


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