第32話 その時、巫矢が持つ無線電話に

 その時、巫矢が持つ無線電話に主から連絡が入った。

「巫矢、レーダーの反応が凄い。写っているモニターを見る限りは、B二九が二〇機ほどなんだけど、レーダーに映っているエネルギー反応が凄い。普段積んでいる爆弾の数百いや数千倍のエネルギーだ」

「大和、B二九が、凄いエネルギーを積んでこちらに向かっているみたい。すぐに、空船に戻らないと」


「そうか、わかった巫矢!それに理子さん」

 そう言って、大和は、天皇の方を向いた。

「ちょっと、用事が出来た。それじゃあ、陛下、講和の方は頼んだぜ」


 大和と巫矢そして理子は、今来た通路を全力で駆け戻る。そして、地上に出るとすぐさま、電磁力を使って空船に戻るのだった。


 大和たちを見送った天皇陛下。

「いよいよ私が決断する時が来たか……」

 そう呟くと、思量深く肯(うなず)くのであった。


 空船に戻ってくると、大和はすぐに、モニターとレーダーを確認する。そこには、確かに膨大なエネルギーを積んだB二九が、編隊を組み、東京に向かって来ているのだ。

 

 巫矢は、プラグの差し込み口に向かって、ごそごそしている主に向かって叫ぶ。

「主さん、何をしているのよ? あれ、原子力爆弾でしょ!」


 大和の脳裏には、原子力爆弾と聞いて、理子の持っていた本に書かれたきのこ雲が思い浮かんだ。

 原子力爆弾の信管はどこにあるんだ。いや、あの編隊、散開を始めている。東京中に隙間なく原爆を落とすつもりなのか? 間に合わない。俺の斬撃も、巫矢の矢もせいぜい三〇〇〇メートルも飛べばいいほうだ。


大和の頭の中に、色々な考えがグルグル回る。

せめて、御所だけでも守る。大和はそう考えて、空船の甲板に飛び出している。


巫矢も、大和の後を追おうとして、主に呼び止められた。

「巫矢、空船をもっと上空に、ここから発した超電磁波が、東京全体に降り注ぐように」

「いま、大和が外に飛び出したのに?」

「大和なら、大気圏外に出ても大丈夫。東京を救うにはこれしかない!」

「わかったわ」

 巫矢は、全身の気を空船に通し、空船に命令する。もっと高く、もっと高く。

 そうして、空船は、地上五〇キロに達しようという高度に達した。

 空船の外の甲板に居た大和は、その加速を受けて、思わず、膝を付き身動きできないでいる。

「巫矢のやつ、何をやっているんだ」


 空船の中の主はまだ、自分の持っているボックスからでたプラグを差し込もうと空船の差し込み口と格闘している。

「ああ、もうどうなっているのよ。まるで、プラグ同士が反発し合っているみたいだ」

 あせった主が、壁を蹴る。すると、そこには今迄気が付かなかった刀が根元まで刺さっていたのだ。

 これだ、この宙船に刺さっている異物と言うことは、この物質は、宙船とは反対の磁力を持っている。これと同じ磁力を帯電させるのだ。

 必死に、プラグの先を刀にこすりつける主。


 その間にも、二〇機のB二九は、東京の上空に到達している。そして、もっとも操縦士たちが恐れる「ミヤチャンノアンゴウブン」の鬼神たちは出てこない。

 ほっと安堵し、原爆の投下体制に入るB二九、この鬼神から逃れ、一発でも多くの原爆を投下するために、同じ時間に投下目標に到達し、同じ時間に原爆を投下するように訓練を受けてきたのだ。

 まさに、鬼神を葬り去るフォーメーションを完成させていた。


 そして、原爆を積んだ操縦士たちは、一斉に投下ボタンを押す。

 格納庫が開き、パラシュートを付けた原爆が投下される。そうして、自分たちは、この場所をこのまま通過して、原爆が高度二〇〇〇メートルに達したところで、起爆スイッチを押せばいい。

 その時間は刻一刻と近づいて来ている。


「やった。繋がった。巫矢、超電磁波の照射をお願い。東京全体に向けてね」

「なんのことだかわからないけど、やってみるわ」

巫矢はそう答え、計器のスイッチを入れていく。

 そして、主は、ボックスのスイッチを入れ、レバーを回し、出力を最大にする。


 B二九に乗った搭乗員たちが、一斉に起爆装置のスイッチを入れた。

「アデュー、東京、もう、人が住めることはないだろう」



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