第33話 しかし、原子力爆弾が爆発することはない

 しかし、原子力爆弾が爆発することはない。慌てて何度も起爆スイッチを押すが、数トンの重さを持つ、原子力爆弾は、爆発することなく、鉄の塊として、只、落下し、地面に突き刺さるのだった。

 マンハッタン計画の最終局面での失敗であった。


「原子力爆弾が爆発しない?」

 巫矢は、あっけにとられた顔をして、主を見た。主は笑って巫矢に声を掛ける。

「ぶっつけ本番だったけど、なんとか、上手くいったわ」

 ほっと安堵する主。さらに、思い出したように巫矢に向かって言った。

「巫矢、甲板にいる大和を救出しないと、無重力状態でどっか行っちゃうよ」

 巫矢は、はっと我に返り、すぐさま、空船の内部の空間と大和のいる空間とを繋げた。

 大和は、片膝をついたまま、宙船の床に着くと、そのまま、仰向けにひっくり返ってしまった。

 そして、そのまま起き上がろうとする気配もない。酸素が薄く、極寒、意識が薄れ行く中、宙船の甲板に闇裂丸を刺し、必死にしがみついていたのだ。

「おい、巫矢どういうことだ。俺を、宇宙空間に放り出すとは?」

「いえいえ、主さんが高く上がるように言ったんです。それにしても、大和、生きていてよかった」

 巫矢が大和に抱きついて介抱する。

 巫矢に介抱されながら、主を睨みつけた。

「主さんが?」

「いや、あたしは、核分裂停止装置、フォーカスディフェンダーが、東京全体に行きわたるようにですね」

「フォーカスディフェンダー?」

「そうです。巫矢さんが持っていた秋葉神社のおみくじ。あれに、核分裂を止めるための方法と設計図が書かれていたんだ、さすが、火除け、火伏せの神様だな」

「なるほどな。それで?」

「あとは、その核分裂を止めるための、電磁波動を東京全体に降り注ぐため、宙船を大気圏外に」

「俺が、外に居るのにか?」

「てへっ、男は細かいことは気にしない」

 大和は、やっと、ふらふらしながら起き上がると、主と巫矢に微笑みながら言った。

「主さんも、俺たちに教えてくれればいいのに。二〇発の原爆にはさすがに肝が冷えたぞ」

「大和、あたしの知識では、成功するか、失敗するか、正に五分五分だったんだ。

なにしろ、ウランやプラトニュウムの不安定な原子核に陽子をぶつけて核反応を連鎖的にさせて、そこからエネルギーを取り出すのが、原子力爆弾の原理なんだが……。その不安定な原子核の半減期を一気に進めて安定的な状態にする電磁波動を照射するなんて、初めての試みだから」

「なるほど」


「それにしても、主さん、私たちの時代でさえ、核分裂を止める技術なんてないのに、これがあったら福島原発事故も防げたのに」

「そうか、未来では、原爆をエネルギー利用しているのか。これは日本の財産になるぞ」

 主は理子の話を聞いてにっこりした。エネルギー不足のために石油を求めて、戦争を始めたのだ。戦後の未来が明るく感じられた主であった。


今度は、大和は、巫矢に向かって言った。

「酷い宇宙酔いだ。まったく、頭のネジが、膨張した血管で吹き飛ばなくてよかったよ。ところで、巫矢、この原爆による絨毯爆撃を命令した奴は誰だ?」

「えっとですね。私たちもすっかり油断していましたが、無線の傍受によると、アメリカの大統領のトルーマンですね。どうやら、大和が、生かしておいた人みたいです」

「あいつ、あれだけ脅かしたのに!」

「ごめんなさい。大和、都市伝説の電話作戦は失敗でした」

 本当は、怖がらせすぎたのが失敗の原因だったのだが、そんなことは、大和にも巫矢にもわかるはずがない。


 脅し方が足らなかったと反省した大和は、巫矢に言うのだった。

「巫矢、インドラの雷(いかづち)を奴らの頭の上に落としてやるぞ。ただし、大気圏外にだ」

「ラジャーです。大和」

 そういうと、大和は、ボタンに付いているカバーを開け、赤いボタンを押す。


 すると、宙船の砲門が開き、そこに光が集まり始める。

「インドラの雷、発射!」


 そうして、砲門がまばゆい光を発しながら、大気圏を突き進み、アメリカのホワイトハウスの頭上、数十キロ上空で、凄まじい輝きを発し、爆心付近では、その熱は数万度、そして、爆風も音速を超えていたのだが、その爆風は、地面にあるホワイトハウスのあたりでもその熱は、肌をじりじりと焼き、風速十数メートルの風が吹き荒れたのだった。

 大気圏外を舞台にした核兵器の使用は、この時代の数十年後、米ソの冷戦と言われていた時代のスターウォーズ計画を地でいくものであった。


その衝撃にトルーマンは側近を怒鳴り散らす。

「なんだ? 今のは」

「大統領、今のはどうやら、このホワイトハウスの頭上、約三〇キロの地点で、核爆弾が爆発したものと思われます」

「核爆弾だと!」

「はっ、我々も現在調査中で、詳しいことはわかりませんが……。おそらくは、我々が、日本の東京に落とそうとした原爆の一〇倍の威力はありそうです」

「一〇倍だと!」

「そうです。我々が、二〇発の原爆を落とそうとした報復だと考えられます」

「なんだと? ところで、われわれのマンハッタン計画はどうなっているのだ。時間的には、もう原爆が投下されているはずだが?」

「……そのことなんですが……、先ほど、東京に向かったB二九から連絡がありまして……。

 投下した原爆は不発で、失敗したと連絡がありました」

「失敗したのか?」

「ええ、なぜか、原爆が無力化されてしまい……、逆に、原爆を打ちこまれたようです。しかも、本気であれば、このホワイトハウスにぶち込むことができるというメッセージを込めてです。」

「……」

 トルーマンはそこで絶句して黙り込んでしまった。

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