第34話 そこに、暗号機から電文が入電する

そこに、暗号機から電文が入電する。

「モシモシ、ワタシミヤチャン。イマ、アナタノズジョウ、三十マンメートルニイタノ」


「なんだ、この電文は?」

「大統領、暗号文の暗号ルールは換えたばかりです。もう、暗号を解読されたのか?」

「この間抜けが! しかも、頭上三十万メートルだと。今、原爆が爆発した高さだろう。さらに、これから爆心が近づいてくるぞ!」

「おそらく、大統領が考える通りだと思います」

「なら、外務省に早く講和を急がせろ! もたもたしていると、このワシントンの地形が変わるぞ」

「わかりました」

 トルーマンの激高した指示をそのまま外務省に電話で伝えている。


「どのような条件で講和すればよろしいのでしょうか?」

「なんでもかまわん。相手が、このワシントンを攻撃しない条件だ」

「そんな無茶な。アメリカの勝ち戦ですよ」

「勝ち戦? のど元に、原爆を突きつけられているのにか?」


 その時、更に、上空で、爆発が起こった。今度の爆発は、明らかに最初の爆発よりも近くなっている。窓ガラスがビリビリ震え、ホワイトハウスの床が揺れた。


「今のは?」

「同じく原爆による攻撃だと思われます。さらに、爆発高度が下がっています。日本国が原子爆弾を開発して、しかも、数発も持っているとは!」


 再び、暗号機に暗号が入電した。

「モシモシ、ワタシミヤチャン、イマ、ジョウクウ二十五マンメートルニイタノ」



 そのころ、日本国の外務省も天皇の要求に困り果てていた。

「直ちに、アメリカと講和条約を結べ、話し合いの席には、私自らが出る」

「陛下、それだけは」

「ばかもの、この窮地に私が出ないでどうする。最後、国民の盾となるのはこの私以外誰が居るのだ」

「そう、おしゃられても。この状態では、アメリカは講和に応じることはありません」

「たとえ、無条件降伏をしても、これ以上、戦火を広げることを容認することは出来ん」

「陛下……」


 その時、外務省の電話がなった。その電話は、実際にアメリカと交渉を続けていた対応局からの物であった。


電話に出た外務省の官僚は、その電話の内容に喜色を浮かべた。

「陛下、今、アメリカから講和の条件については話し合いたいと連絡が在ったそうです」

「そうか、神魂一族がやはり動いていたか?」

「神魂一族?」

「いや、なんでもない。捲土重来、いよいよ神風が吹いたようだ。それで、アメリカは講和条件について、なんと言って来ている」

「それが、ワシントンに原爆を落とさない条件で、講和条約を結びたいと。

 まったく、なんのことを言っているのか分かりません」


 陛下は、日本書記の失われた章、すなわち、天孫降臨以降の世界を征服する歴史について知っていた。失われたと言われていた章は、天皇家の書庫に厳重に封印されていたのだ。

 陛下は、神魂一族の大和と巫矢が、その章に書かれている空船を動かし、太古の昔、使用された核兵器に似た最終兵器を使用したと確信を持った。


「これが、大和殿が言っていた、最後の一押しなのか?」

「はっ、陛下、大和は沖縄決戦に備えて、沖縄に向かって航行中ですが? その大和に何かさせるつもりですか?」

「いや、そうではない。ただの独り言だ。それで、外務大臣、講和条件に付いてだが……」


 陛下が、外務大臣を呼び寄せ、耳打ちをした。

「なんと、そんなことは!」

「いや、わたしは決めたのだ。後は、この不幸な戦争に国民を導いた責任を取って、軍部を解体する。そして、日本国の持っている植民地を放棄する。ただし、西洋列強国の植民地に対してもアメリカやイギリスに、同様に要求する」

「そんなことをすれば、日本は、資源が不足して、国民生活が困窮して停滞してしまいます」

「何を言っているのだ。今以上の生活の困窮や停滞があるのか? それに、日本国は今後アジアの一員として、アジアを中心とした経済基盤を確立し、アジアの平和を守る先兵となるのだ」

「……陛下……。分かりました。そのように、アメリカに伝えます」

「それから、それに合わせて、御前会議を招集しろ」

「御意に」


 大和と巫矢、そして主と理子は、空船で、アメリカと日本国との電文のやり取りを確認した。

「大和、どうやら、講和の条件についての話し合いが、沖縄で開かれるようです。それに、陛下がその会合に出るらしいよ」

「そうか、だったら、インドラの雷攻撃は一旦中止だ。

巫矢、電文を打っといてくれ。陛下が出るのなら、トルーマンにも、その話し合いに必ず出るようにな」

「わかったわ」

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