第16話 なるほどな、理子さんは良く知っているな

「なるほどな、理子さんは良く知っているな。できれば、それに、飛行機に戦艦や空母、その本に書かれている兵器、それを研究している機関に潜り込みたいな」

 大和は、一通り長老たちや理子から状況を聞いて無理な注文をしてみた。そんな、中枢を研究している機関に、見た目が子どもの大和や巫矢が入り込めるわけがなかった。

 しかし、老人はポンと手を打ち、

「あいつに頼めば何とかなるかな?」

「おい、出来るのか?」

「ああ、変わり者だが、当代きっての天才と言われたわしの孫が、そういう部署におったはずじゃ」

「そいつに連絡は付くのか?」

「それは、おまえさんらの仕事だろう。スパイを警戒して、民間人はなかなか、あいつには遭うことができん。この手紙を渡すことができれば何とかなるだろう」

 そういって、老人は手紙を書き、大和に渡した。

 その手紙には、影の一族の暗号で「こいつらは、日本国の希望だ。何とか、お前の助手にしてやれ」と書かれていたのだ。


 手紙を受け取った大和は、手紙の中身を確認するが、まったく、何が書いてあるのか分からなかった。

「暗号解読機が頭の中にあるのか。アナログだぜ」

 大和は吐き捨てるようにいったが、老人は、カラカラ笑いながらいう。

「だからこそ、影の一族は、秘密が守れるんじゃ」


 くしゃくしゃにして、懐に掘り込もうとする大和に向かってさらに老人が言う。

「これこれ、手紙の折り方が換字表のキーになっておる。ぐちゃぐちゃにするでない」

 これを聞いた大和は、手紙をマジマジと見つめ、そっと懐に仕舞った。

 そうして、巫矢に向かって言うのだった。

「巫矢、理子さん。外に出て、空船に向かうぞ。ここの屋根を吹っ飛ばすわけにはいかないからな」

老人は、部屋を出て行こうとする大和に向かって、慌てて言うのだ。

「孫の名前は、影野主(かげのつかさ)。海軍士官学校兵器開発部隊第七七七部隊に所属している」


「ありがとう。後は、任せてくれ」

 大和は、いつもの通り後ろ手に手を振りながら、巫矢と理子は頭をぺこりと下げて屋敷を出て行き、庭で巫矢と大和は理子の腕を抱える。


 そうして、射闇弓に気を通すと、一気に空に駆け上がるのだった。


「神魂一族、初めて見た。まだ、手が震えておるぞ」

 空に消え去った大和と巫矢を目で追いながら、影の一族の長は呟(つぶや)くのであった。


 再び、空船に戻ってきた大和と巫矢。

「影野主(かげのつかさ)で、第七七七部隊だって。なんか嫌な予感がします」

「巫矢、何を言っているんだ?」

「いえ、いかにもって名前と部署なんで、美味しいところを全部持っていかれそうで」

「はあ、どうでもいいだろ、そんなこと」

「確かに、それでは、海軍士官学校の上空に行きましょうか?」

「ああ、急ぐぞ」


 大和は、空船に気を通し、あっという間に、海軍士官学校上空に移動させた。

「士官学校に潜り込むのは、さすがに夜だな」

「大和、影野主さんに、ちゃんと会えるでしょうか?」

「そうだな、良く考えると俺たち、影野主さんの顔を知らないよな。まあ、女の人を見たら片っ端から声を掛けて行くか」


 そう言って、すでに仮眠を取る体制に入っている大和。

「そういうのをナンパっていうのよ。わたしを前にしていう事? それにもう寝てるし。

いいわね。大和は楽観的で。さすがに、戦時中なんだから、警戒が厳しくなっているのに」

 そう、言いながらも、座り込んだ大和の隣に座って、肩に頭を乗せて幸せそうにする巫矢。

「大和は、私の秘密を知っても前と少しも変わりません。大好きだったお兄ちゃんだったころのままです……」

 巫矢は、大和に聞かれないように小さく囁くと、瞳を閉じて、すぐに寝息を立てはじめた。

「なんで、二人ともこんなに気楽なんですか? 戦時中だというのに」

 ため息を吐(つ)き、歴史の参考書をパラパラとめくる理子。自分が、この本に書かれた歴史の中に居るとはとても信じられなかった。


 そうして、数時間が過ぎた。今の時間は深夜の未明だ。


 そして、危険という事で、理子を空船に残して、大和と巫矢は、空船から闇に紛れてダイブすると、海軍士官学校のひろい敷地に降り立った。


「さて、第七七七部隊って言うのは、どこにあるのかな」

「大和、まだ、あちこちに明かりが点いているわ。まずは、停電させた方いいかしら?」

「しかし、この時代は、夜も明るいんだな。暗殺や暗躍も時代が変わればやり方も変わっていくんだろうな。ところで、巫矢、停電ってなんだ?」

「あの明かりは、電気で点いているんだから、電線を切っちゃえばいいのです」

 そう言うと、巫矢は、矢筒から闇鋼の矢(この矢の先は、二股に分れ、鏑矢(かぶらや)になっているのだが)をすでに、電線に向かって放っている。

 電線が切れると、辺りは真っ暗になった。巫矢は、すぐに、射闇弓に電磁力を通すと、矢を素早く回収する。

「よし、行くぞ、巫矢」

大和は、巫矢に小声で声を掛けると、正面玄関から、海軍士官学校に乗り込んでいく。夜目の効く大和と巫矢に対して、警備していた兵士では、端(はな)から勝負は付いていた。

元々、重力の影響を受けず、目にも留まらない速さで動く大和と巫矢は、銃を構える暇もない警備兵の首元に、次々と手刀を叩きこみ、昏倒させている。

「巫矢、どこに向かっているんだ?」

闇雲(やみくも)に、先に進む巫矢に向かって、大和が声を掛けると、巫矢が言葉を返す。

「きっと、影野主さんが居るのは、この先です。女の勘です」

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