太平洋戦争の裏側では、世界征服を企む秘密結社とそれを阻む一族がアルマゲドンを繰り広げていた

天津 虹

第1話 舞台の中心となるのは、天空歴一九四一年


 舞台の中心となるのは、天空歴一九四一年、日本国がアメリカやイギリスを相手に開戦した時代から始まる太平洋戦争である。

 その時代に、神と悪魔と英霊の導きによって集(つど)った四人の若者たち。

 未来から来た少女を水先案内人に、軍事技術で輝かしい未来につなげた当代きっての天才科学者、そして、天空の聖杯が認めた最強の武士(もののふ)たち。

 神代の天孫降臨から続く聖戦と名付けられた私利私欲の略奪。同じ歴史が繰り返されることを阻止すべく、前世の因縁を断ち切るために、虐殺と略奪に血塗られた太平洋戦争を、真の聖戦に変えた、宇宙人が恋してやまない男の物語。



舞台は天空歴二〇一八年一〇月。


東城理子は、高校の歴史の授業を聞きながら、ため息を吐(つ)いた。

あーあっ、また、先生の自虐的日本史が始まった。ソースを出せって言うのよ。まったく、歴史は、勝者が創るものと昔から決まっているのに。連合国は、日本が始めた侵略戦争を見事阻止して、アジアの平和を守っただって。日本がおこなった侵略戦争について、真摯に反省して、謝罪しなければならないか。

 こんな授業が、行われているなんて、靖国神社に眠る英霊たちはどう思うかしら」


 東城理子(とうじょうりこ)は、窓から入る心地よい風に、顔を撫ぜられ、窓の外を向く。美しく整った横顔は少し、物憂げで、心ここに非ずといった雰囲気を漂わせている。

 その雰囲気に気が付いた教師は、声を荒げて、東城の名前を呼んだ。

「東城! 何をボーッとしとるんだ。お前は、先生の話を聞いているのか?

 まったく、お前みたいなやつが、戦争の意味も知らず、平和を謳歌しているんだ。戦争は二度とやってはいかんのだ。お前みたいなやつこそ、憲法改正とかに何もわからず賛成して、日本が再び軍事国家を歩むことが無いように、しっかり、勉強すべきなんだぞ」


 厳しく東城を叱責する声が聞こえるこの教室は、靖国神社の隣に建っている護国中学校三年三組の教室である。

 そして、授業は天空歴一九四一年から一九四五年まで続いた太平洋戦争について行われていた。


 東城理子が見ていた窓の外には、靖国神社を臨むことができる。

 理子は、窓から吹く風に、勇気をもらったような気がした。

「先生、確かに、戦争は二度とやってはいけないでしょう。でも、太平洋戦争の結果、アジアの植民地は解放されました。これは、間接的には、日本が解放したと思いますが?」

 普段はおとなしい東城理子が、めずらしく先生に反論する。

「バカをいうな。あれは、植民地支配国が人道的立場に立ってだな」

「それでは、日本はもう降伏しているのに、ソ連が日本の領土に攻め込んできたのは、侵略戦争じゃないんですか」

「いや、あの場所は、日本の領土か、ソ連の領土か。まだ不明だったんだ。それに、サハリンや千島列島を侵略したのは、日露戦争の結果で、日本が先だぞ」

「先生、千島列島と北方四島を混同しています」

「うるさい。そこはお互いの国同士、話し合いの余地があるだろう!」

「なに、話し合いの余地って。しかも、ソ連は、捕虜にした人を、シベリヤ労働させ、何人もそこで亡くなっていますが、それに対する補償も受けていません。日本の外国人に対する強制労働は、補償させられているのに。そんな国が話し合いに応じるんですか?

 大体、世界大戦の結果をみれば、ソ連を中心とする共産主義国が、世界の半分を塗り替え、アメリカに次ぐ第二の国力を得ていています。日本とアメリカの戦争を仕向けたのは、ソ連じゃないですか」

「ばかなことを言うな。日本は、自分たちの威勢を示すために、進んで侵略戦争を始めたんだ。だから、それは日本が戦争をしたことを真摯に受け止めてだな。反省を示さないと。

それに、日本が、世界中の国々のおかげで、奇跡の経済発展をしたのだから。いままで、迷惑を掛けた分、恩返しをないとだな……」

「先生、私は、戦後、脅威になった共産主義国をけん制するため、日本を西側の一員の中で力をつけさせるために、資本主義国が手を差し伸べたのではないでしょうか? 首相の日本列島浮沈艦空母発言もありましたし。日本って、不平不満を言わないお行儀のいい国として、いいように利用されていませんか?」

「だから、そんなことはない。日本は、経済大国として、世界経済の中枢を担っている」

「でも、国際社会では、どこにも類を見ない謝罪大国、英霊が眠る靖国神社に、国家元首が自由に産廃出来ない。独立国家なんて言えるんですか? 

金は出すけど口は出せない情けないポジションに甘んじているようですけど。これも共産主義思想のプロとガンダで、資本主義思想の国家の中で、力が持てず、それをいいことに資本主義国が社会主義思想の防波堤にしているのではないですか?

「お前、ネットで、陰謀説やらを見過ぎなんだ。そんなでたらめな情報を鵜呑みにするな!」

「……」

 理子は、もう諦めて、口をつむぐ。

(私は、ネット情報なんかを妄信している訳じゃない。真実を知りたいだけなのに。太平洋戦争に疑問を持つだけで、今の時代は非国民扱い? 真実を知られることが不都合なの?)

 理子は、そこまで考えて、普段そんなことに気を留めたことも無い自分が、必死になっていることに疑問を感じた。

「われらの意識と共鳴(シンクロ)する者がいるとは、今の時代では珍しい」

 突然、理子の頭の中で、何人もの声が重なって、重厚な声が聞こえる。さっきから、私が私でなくなっている気がする。

「案ずるな。われらはお前の意識に話しかけているだけだ」

 再び、頭の中で声が響く。

意識に話し掛けている? テレパシーってこんな感じかな? じゃあ、誰が、私に話し掛けているの?

 そんなことを考える理子。

「われらは、靖国神社に眠る英霊なり。われらは死んで初めて、犬死させられたことを知った。人の命を弄ぶ悪魔たちの手の上で、道化のように踊らされていたのだ」

「あの戦争の死が、道化の様ですって。とんでもないです。あなた達は、国のため、家族のために死んでいたんです」

「われらもそう願って死んだはずだった。だが、実際は、誰かに、不安と恐怖を煽られ、指し示された救いの道は、地獄への道標(みちしるべ)だったのだ。もう時間がない。われらだけでは叶わん外道の術、今発動せり。その術に紛れて東城理子お前も行くのだ。そして、神魂一族(かもすいちぞく)を助けるのだ!」

「ちょっと待って、行くってどこへ? 神魂一族ってなによ?」

「天孫降臨に付き従った神の御業を持つ一族。二度目の悲劇からこの日本を救う希望の一族だー」

 声が、フェードアウトしていき、さらに何か聞こうとした理子は、突然起こった耳鳴りと強烈な頭痛に襲われ、気を失った。


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