第2話 一方、理子の飛ばされた先だが

 一方、理子の飛ばされた先だが、

 この世界は、表向きは、民主主義という甘言を囁(ささや)きながら、裏では陰謀を巡らし、政治、経済の中枢に深く根を張り、世界を裏から支配する国際秘密結社が、ソ連の裏切りを粛清するべく画索を練っている時代である。


この画策は本来の歴史の流れを変え、第二次世界大戦という悲劇の結末を、ソ連と日本国の消滅という結末に書き換えるべく、エルサレム奪回のために派遣した十字軍の略奪で手に入れた神代の神宝、天空(てんくう)の聖杯の秘術を使い、時空を超えて、国際秘密結社と同様の系譜を持つ神魂一族の強者(つわもの)を召喚することで行おうとする。


この神魂一族とは、日本の奥出雲の人が訪れることさえ困難な秘境に、現代ではひっそりと住んでいるが、神代の時代に、神の天孫降臨に付き従い、「その神代の技(わざ)、竜神のごとし、ただし、門外にでること叶わず」と、噂される一族である。

 ただし、この一族が実在していることを確認できた者はいない……。



 国際秘密結社が歴史を変えてまで、ソ連を消滅させようとした理由は、天空歴一九一七年に、レーニンによるロシア革命が起こり、ロシアのハプスブルグ王国は滅び、ソビエト連邦という共産主義国家が樹立されたことに端を発しする。

 

 まず、国際秘密結社という後ろ盾を得たレーニンは、ロシアに戻ると「四月テーゼ」を発表する。

 その「四月テーゼ」の内容は、端的にいえば、今のブルジョアが利益を得るだけの、帝国主義戦争をやめて、「革命を起こせ」と農民と兵士たちに訴える物であった。

 まったく、国際金融機関から資金援助を受け、敵国ドイツの協力を得ながら、よくも、こんな戯言が言えるものだというのが、傍から見た正直な感想であろうが、当時の農民や兵士は、この思想を熱狂的に支持してしまうのである。


 しかし、革命が成功した後、富は労働者や兵士に分配されることはなく、ただ単にレーニンの天下になり、その後はスターリンに権力が一極集中して一党独裁体制になっていく。

 のちに、レーニンをナチス・ドイツのヒットラーと同一視する社会学者が出てくることになるが、それはそれで言い得ているのかも知れない。


 また、そのレーニンは、「ソ連一国だけで革命しても、世界中を敵に回して共産主義は持たない」という考えを持っていて、コミンテルンを創立し、世界中に、国際機関コミンテルンのスパイを広め、ソ連が潰されないように、列強各国を内部から攻撃していくのである。


※コミンテルン=国際共産党。ソ連に本部を置き、世界共産主義革命を目指した。共産主義は私有財産を禁止して、経済的に平等な社会を目指す思想。実際には共産党による一党独裁体制であり、全体主義の一種と考えられている。


 コミンテルンが掲げるレーニンの主張は、「資本主義国同士を戦わせて共倒れにさせ、最後に共産党が覇権を握る」そのための活動をせよという主張だったのだ。


 しかし、この時点では、国際秘密結社はそれほどの事とは、考えていなかった。 

そう、戦争のあるところに利権あり。明治維新を裏で牛耳って、思い通りに動かすことに成功していた国際秘密結社の番犬である日本との戦争、日露戦争に敗れた弱小国などたいしたことはないと高を括り、次の儲けの火種ぐらいに考えていたのである。


 しかし、レーニンやスターリンの狙いは、日本国であった。帝国主義を地で行く軍事国家の日本は、極東の目の上のたんこぶであり、満州事変でソ連に隣接する領土を持つソ連の存在を脅かすものであった。

 この日本国にブルジョア大国のアメリカやイギリスの相手をさせようと考えていたのだ。


そのため、コミンテルンは中国共産党の中国統一を支持することで、中国共産党に優秀なスパイを育成させた。中国共産党は、敵対関係にある中国国民党に、大量のスパイを送り込み、国民党最高指導者である蒋介石を裏で操り、中国共産党に有利な方向へ導いていく。

さらに、中国共産党のスパイは中国盧溝橋で、国民党兵に成り済まし、日本軍へ発砲し、盧溝橋事件を引き起こした。これにより天空歴一九三七年に、日中戦争(支那事変)が勃発して、日本と国民党は宣戦布告なく戦争状態に突入したのである。

そして、泥沼化した戦争は、国民党軍を弱体化させ、日中戦争終結後、中国共産党軍は国民党軍に対して圧倒的に有利になり、内戦に勝利し、中華人民共和国を建国することになる。


一方、満州国とモンゴルとの国境紛争があったノモンハンで、それぞれの後ろ盾になっていた日本の関東軍とソ連に、軍事衝突が起こっていた。

この戦いは、関東軍の中枢にコミンテルンのスパイが居た為に、再三の命令無視や作戦の漏えいがあって、関東軍二三師団は壊滅的打撃を受けてしまう。

この国境紛争の結果は、日本とソ連は、日本外務省内部のコミンテルンのスパイの暗躍によって、停戦協定を結び、日本は北方ではなく、米英領の権益に敵対することになる南方に向かうという、その後の決断に、決定的影響を与えることとなった。

まさに、国際秘密結社を出し抜くことに成功したレーニンやスターリン。


これは、ソ連が、レーニンやスターリンが思い描いた通り、「資本主義国同士を戦わせて共倒れさせ、最後に共産党が覇権を握る」という目的が現実になった証である。


遂に、日本はアメリカやイギリスと開戦する。


この歴史の流れに、一番、驚いたのは、石工と呼ばれる国際秘密結社である。確かに、レーニンに資金援助して、ソ連に革命を起こさせることには成功した。

しかし、資本主義に敵対するコミンテルンの暗躍により、本来、ソ連と自分たちの番犬である日本国を戦わせ、自分たちは影で両方に資金援助して、大儲けするはずが、日本国は、アメリカやイギリスと戦うことになったのだ。


それもそのはずで、好戦派の民主党のルーズベルトの側近は、いつの間にか、スターリンのスパイで埋め尽くされ、ルーズベルトは、意図せず、共産主義擁護の政策を推し進めてしまっていたのだ。

国際秘密結社は、フランスの早期戦線離脱という方法で、ソ連やコミンテルンに一矢を報いた。そのことにより、ドイツの目がソ連の領土に向かい、漁夫の利を目指すソ連を第二次世界大戦の土俵の上に引っ張り出せたのだ。


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