第3話 そして、そこまで、成り行きを見守っていた

 そして、そこまで、成り行きを見守っていた国際秘密結社最高決定機関のトップサーティンは、スコットランドの古城の一室で、事後対策の協議中、悪魔の決断を下す。


 このろうそくだけが揺らめく薄暗い部屋には、フードを深くかぶって、その姿形さえ覗き見ることができない一三人の影があった。

 そのうちの一人が、爬虫類臭を吐きながら、地獄から響くような呻き声を上げるのだ。そしてその刹那に見えた口元には、二股に分かれた長い舌がチョロチョロと蠢いている。


「まず、共産主義の台頭、われわれの意図するところではない」

「どうするのだ。この状態を、そのまま放置するのか?」

「そんなことをすれば、また、我々の世界征服計画は、何十年も先送りになってしまうぞ」

「そうだ、ならば歴史の筋書きを変え、日本とソ連には世界地図から消えてもらうか」

「そんなことができるのか? どうするのだ?」

「簡単なことよ。今回の大戦では、今迄、表に出てこなかった一族があろうが」

「あの忌まわしき神魂一族か!」

「しかし、神魂一族と言えど、ソ連の陰謀を叩きつぶすことができるのか?」

「奴らの能力ならできる。ここまで、ソ連には先手を取られ続けたが、それをひっくり返すだけの技量を持ち合わせているはずだ」

「そうだ。神代の時代、神の天孫降臨に付き従った一〇部族のうち、われわれの奸計に乗らず、日本というちっぽけな島国に引っ込み、その後、神話の世界から姿を消した一族だ。陰謀を叩きつぶすのにはやつらのような技量が必要だ」

「しかし、その一族、神が天孫降臨した場所にある、神の化身である闇鋼の御柱(おんはしら)とその闇鋼の神宝を守り続けていると言われているぞ」

「そうだ。この大戦で、やつらを追い詰め、闇鋼の神宝も戴くのも悪くない……」

「やつら、守りに徹して、未だ、日本国の救済にも動く気配をみせんのだが」

「そうだ、奴らは、すでに神代の兵器も失っているのであろう。われらの願い、日本国とソ連の共倒れという、それだけの動きが期待できるのか?」

「そこでだ、神代の時代英雄と呼ばれた最高の神宝を持った神魂一族の奴らを今の時代に呼び出す。そいつらなら、わしらの奸計といえど、日本国を守るために、ソ連とぶつかるはずだ。日本とソ連を戦わせ共倒れしたところを、我々が日本とソ連を叩き、闇鋼の神宝もごっそりいただき、後は植民地にでもすればよかろう」

「なるほどな、神代の時代の神魂一族か。たしかに、あの時代、世界を統一した者たちなら、可能かもしれん。その後、ソ連はまだしも、日本など、植民地にしても大した利益はでんがな」

「いや、闇鋼の価値は計り知れん。もし、われわれが手に入れれば、世界征服など、赤子の手を捻るより簡単であろう」

「そうだ。今までのように、不安と恐怖とニセの希望を与えるようなまどろっこしいことなどしなくても、恐怖でこの世界を支配することが出来よう」

「ならば、早速、天空の聖杯を使って、神魂一族の神代の強者(つわもの)とやらに時空を超えてきていただくとするか?」


 そこで、国際秘密結社の最高決定機関サーティーンは、過去の十字軍遠征の時、エルサレムで手に入れた時空を超える奇跡を起こす天空(てんくう)の聖杯の秘術を使い、過去に因縁のあった神魂一族の精鋭を、この世界に呼び出し、ソ連やコミンテルンそして日本の共倒れを願うのであった。


 *********************


 こちらの世界は、天空歴一八七〇年、いよいよ時代は、明治を迎え、勤労の志士たちが、日本という国を近代へと動かそうとしている時代であった。

 その時、神魂の里では、まさに、最後のサムライを生み出そうと胎動している。


 里の中心にある立派な武家造りの広間では、この里の長(おさ)、神魂聖衛門(かもすせいえもん)が、二人の若者を呼び出してした。一人は、自分の孫にあたる大和と、いつからか、この屋敷の離れの小屋に一人で暮らしていた巫矢であった。

 二人は濃い紫色の作務衣を着て、神魂聖衛門の前で、また、いつかのいたずらがばれて叱られるものと考えて縮こまっていた。

「大和(やまと)!」

 大和と呼ばれた少年は歳の頃なら一五歳くらいで、黒目黒髪で、やんちゃそんな瞳はきょろきょろと聖衛門の隙を窺うように動き、引き締まった体躯は、その着崩れた胸元からは、鍛えあげられた筋肉が覗いてる。さらに、体内に宿る気の力を操る能力は、歴代の神魂一族の中でも群を抜いていた。

「そして、巫矢(みや)!」

「あっ、はい」

 巫矢と呼ばれた少女は、均整のとれた背格好はやはり一五歳ぐらいに見えて、青みがかった黒髪は、絹ような光沢を放ち、後ろに一つにまとめられ、その瞳もやはり青みがかった大きなつぶらな瞳に、長いまつ毛を讃え、整った顔立ちは、美少女と呼ばれる類のものであった。

 いつのまにかこの屋敷の離れに住みつき、幼い頃から、大和の後ろを付いて回る巫矢は、大和と兄妹のように育ち、そして、美しく成長したのであった。

 さらに、巫矢は、神魂一族に伝わる神代文字で書かれた神話や神代の技術書、そして歴史の類(たぐい)の古文書を読み漁り、その知識は、神魂一族の長をもしのぎ、神魂一族の神童と呼ばれていた。

 ただし、時々わけの分からないことを言う天然系でもあった。


「さて、お前たち二人も、すでに一五歳になった。この神魂一族の成人の儀式を受けなければならん。いままでの厳しい修行は、この日のためにあったのだ」

 そう、神魂一族は、幼いころから、厳しく鍛え上げられ、また、神の御業と呼ばれる体術をその体に叩き込まれ、気の力により、常人を軽く凌駕する力を手に入れていたのだ。


「明日より、青雲の儀のため、高千穂に向かえ! そして必ず儀式に成功して、闇鋼を手に入れてくるのだ」

「「はっ」」

 返事とともに、二人の姿はもう聖衛門の前には居なかった。その動き、とても常人では、目に捕えることなどできない。

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