第19話 それから、一年を掛けて

 それから、一年を掛けて、大和は海軍のプロペラとスクリューを手直ししていく。

 そうして、大和たちは、この海軍士官学校や横須賀のドッグや格納庫で、プロペラやスクリューの交換に明け暮れることになるのだ。

 さらに、大和は、動力伝達経路の効率を上げるために、ピストン型エンジンのクランク軸の形状を少し変えたり、空気の取り入れ口の改良をしたりして、さらに、飛行効率を上げて行くのだった。


 そして、巫矢は、暗号ルールのキーとなる暗号機の基盤ルールを思考錯誤の上、遂に完成させた。 


 その暗号機の暗号に変換する基盤には、貴重な闇鋼の矢を加工し配線の一部に使っている。ミクロン単位の太さで、引き延ばされた闇鋼の線は、最終的には、三万台という暗号機の配線に使ったため、一本の矢じりを丸々使ってしまった。


「また、矢を一本失ってしまったわ。熱田神宮の鬼瓦打ち込んだのと。でも、これで万一、暗号機が盗まれても、あまりに小さくて気が付かないだろうし、もし気が付いたとしても、闇鋼がなんであるかなんて、分析なんて出来ないだろうしね」


 巫矢は、出来た暗号機で、無線のやり取りを、主にして見せている。

「なんだ、この暗号化は? まったく、ルールも原理もわからない」

「えへん。すごいでしょ。主さん、量子暗号って知ってる。これには量子暗号を使っているのです。そして、暗号に置き換えている文字は、神魂一族しか読めない神代文字なんです」

「なるほど、あたし以外に天才が居たとはな……」

「「プーッ」」


 巫矢と主は口元を引しめた後、顔を見合わせて、二人して噴き出している。

 二人には、なんのことか分かったみたいだが、大和と理子のために、ここで少し解説する必要があるだろう。

 量子暗号とは、デジタル信号ではなく、アナログ信号である。アナログと言うと古臭い感じがするが、実は、理子の時代は、アナログコンピューターが最先端コンピューターになりつつある。

 何しろ、消費電力は少ないし、演算機能もデジタルコンピューターの五万倍の能力があると言われているのだ。


 実際、巫矢の創った暗号機の電信は電源のオンとオフを使った0と1だけの組み合わせではない。0と1だけの組み合わせなら、いかに組み合わせを増やそうと、組み合わせは有限であり、根気と優秀なコンピューターが在れば、解読されてしまう。

 量子コンピューターは、0と1の間の0.28とか0.16896・・・とかを無限に使えるため、組み合わせは無限に存在する。

 すなわち、巫矢の暗号機は、入力した電文が、闇鋼の配線を通ることで、無限の組み合わせの暗号の神代文字に切り替わり、その神代文字を入電した受け手の暗号機は、神代文字の中に隠された変換キーを、闇鋼を使って読み取り、元の伝文に戻しているのだ。


「で、この暗号機が盗まれた場合は、どうなる?」

「すべてに、闇鋼にシリアルナンバーを付けています。所在不明になった物については、自爆コードをシリアルナンバーに付加して、電文を流せば、辺り一帯がドッカンです」

「闇鋼が爆発するというのか」

「そうです。量子爆弾と同じ原理ですね」

「それって、あたしが研究している核融合より、効率良く、エネルギーに変えられるな」

「そうです。分子結合や原子結合を持たない闇鋼の特質を使っています」

「参ったわ」


 主と巫矢の会話を聞いて、?マークが頭の中を飛び交っている大和と理子。

 それでも、気を取り直して主に話し掛けた。


「後は、俺たちが、軍部内部に潜入しているスパイを殺(や)れば、暗号の秘密は守られるわけだ」

「それにしても、闇鋼に神代文字、お前たち、反則的にチートだな」

 大和の言葉に、ため息を吐(つ)く主。

「あら、だったら、主さん、神代文字を研究してみる? 秋葉神社で、引いたおみくじ、木に結び付けて置いてこようと思ったぐらいだから、あなたにあげるわよ」

 そういうと、巫矢は、秋葉神社で引いたおみくじを主に渡した。

「これは?」

「神代文字で書かれているんだけど、読めても意味がよくわからないのよね。一応現代の言葉で訳してみたけど」

「なるほど、核分裂? 核融合、半減期、それにこれは元素記号か? おもしろい。過去からきたのなら、この神代文字の意味は、返って、お前にはわからないか。これは、あたしの専門分野だ。必ず、あたしが解読してやるよ」

 主はそう言って、巫矢からおみくじを貰い、ポケットにしまった。


 

 そういった作業の合間に、今度は、軍部内のスパイ狩りに奔走する。大和と巫矢は、相手の気が読める。

 そして、大和や巫矢に敵意を見せれば、その気はどす黒いオーラになって、大和たちには見えるのであった。それで、大和と巫矢は、敵意を向ける人物を片っ端から暗殺していく。その中には、単純に大和たちの技能に嫉妬をするものも居たのだが、その問題は、大和たちの頭には無かった。

 

 もちろん、作戦に関与しないような下っ端までには手をださない。

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