第18話 まずはお前達の力を試したいな

「まずはお前達の力を試したいな。これを見てくれ」

 挑発的な主の言葉に内心不愉快になりながら、巫矢は、渡された書類に目を通した。

 それは、プロペラやスクリューの羽根の構造の図面だった。

「どうだ、この図面通りに鉄を加工することが出来るか? この国の技術じゃできないのだ。今のところ。あたしの計算では、空気や水を捕える効率が上がって、いまより五%から七%は、速度が上がるはずなんだけどな」

 その言葉を聞いて、巫矢の手に持った図面を覗き込んだ大和。

「これを作るのか? なら俺がやってやるよ。物はどこにある」

「あら、あなたがするの。いいわよ。素材はそこにあるから」


 主は、其処に転がっていた、捻ってプロペラの形に荒削りした鉄板を指差す。


「これを使うのか。それなら」

 大和は、闇裂丸を抜くと、器用に、プロペラらしきものを削っていく。

「あなた、なに、その刀、どっからそんな物騒な物を出した? それに、なんで、鉄が削れるんだ?」

混乱する主をしり目に、大和はプロペラを削りながら、主に答えている。

「ああ、闇裂丸は、纏う気を俺の気で包み込めば、存在感が薄くなる。まあ、認識阻害の効果があるな。この時代、刀を差しているのは軍人だけだし、ここに入るのに武器が目立つのはよくないだろう。それから、この刀は闇鋼でできている。鉄を切ることなどなんでもないさ」

「そ、それが、伝説の闇鋼なのか? ちょっと見せろ。興味ある」

「なら、これでも見とけ」

 大和は、プロペラを削りながら、無造作に、主の方に、鞘を放り投げる。


 鞘を拾い上げた主は、撫でたり、叩いたり、弾いたり色々してため息を吐いている。それをみた巫矢は、勝ち誇ったように主に言うのだ。

「ちなみに、どんな薬品や化合物を使おうと、傷一つ付かないわよ」

「ああっ、そうみたいだな。残念だけど、私の専門分野である核兵器でも無理そうだ。そもそも、闇鋼って、物質を構成する分子や原子が存在していない感じがする。何なんだろうな? 

仮説のみでいまだ証明されてないけど、多次元に存在する物か」

 巫矢は、この話を聞いてうんうん頷いている。巫矢も同じ感想を持ったことが有るのだ。

「あなた、その分析力、やるわね」

「お前こそ」

 二人は、顔を見合わせて、口角を上げる。初めて、二人が、お互いをライバルと認めた瞬間だった。

「お前ら、なんの話をしているんだ? ほら出来たぞ」

 大和が見せた、そのプロペラは、なめらかな光沢を持ち、その機能美は、まさに黄金比が成せる技であった。

「ふーう」主は、ため息しかでてこない。それでも、数か所に計測器を当てる。

「あんた、なんで計測器も当てないでわかるんだ」

「あん、鉄がどんな風になりたいのか耳を傾けてやれば、どう加工すればいいか教えてくれるぞ。あんたの設計図とどこか違っているのか?」

「まったく、職人って言うのは、科学者の計算を超えるな。エクセレント、パーフェクトだ。さっそく、ゼロ戦で試運転しないと」

「それで、試験は合格か? どうなんだ? 」

「ああっ、合格よ。お前たちは、あたしの助手だ」

「じゃあ、暗号機は私にやらせてよ。私、ちょっと思いついたことがあるの」

「面白そうだな。じゃあ、あなた、やってみるか? それから、大和とか言ったか。あなたは、これから、戦闘機のプロペラと、軍艦と魚雷あと潜水艦のスクリューの付け替えをお願いする」

「そんなに在るのか。まあ、時間はたっぷりある。時間を掛けてだな」

 

 理子は、これで、少しは、日本国側の負け方がマシになるはずだ。なにせ、逃げ足が速くなるのだからと考えていた。

「これから、歴史上起こる作戦は、私に任せて、先読みして動くことができるわ」

「うん? この子も神魂一族なのか? 戦闘力は一般人以下に見えるが」

「ああっ、理子さんは、未来人だ。歴史を変えるために過去に来たらしい。俺たちは過去から来たみたいだし」

「未来人? 歴史を変えるだと、タイムパラドクスが起こるんじゃないか?」

「それは、大丈夫みたい。歴史の分岐点が増えるだけらしいの。集合意識体によると」

「なるほど、パラレルワールドか? 観察者の意識で歴史が変わるというやつだな。

ところで、巫矢、お前はなんでそんなことがわかるんだ。集合意識体とアクセスできるのか」

「はい、肉体を持った今は無理ですけど。元々は、地球から離れた星で思念体として存在してました。それで、テレポートで地球にやってきて、大和と出会いました。丁度、明治維新の頃なんです」

「なるほど、じゃあ、お前は、宇宙人だな」

「はあ、主さんて、全然、私の話をうたがわないんですね?」

「当たり前だ。そういう訳で、大和は過去から来た昔人(むかしびと)か? 面白い。実に面白い。私の研究パートナーとしては最高だぞ」

 そういって主は、三人と握手をして回るのだ。

「巫矢、それに理子さん。この主さんには、非常識という言葉は辞書にはないらしい」

「大和、味方にするなら、非常識なやつほど頼りになるものだ。さて、お前たちは、今日からここで働いてもらうぞ。この作業服に着替えて、こっちにこい」

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