第19話 偽りの姿
滅多にジオメトリの人員が立ち入らない場所。幹部の連中も立ち入らない場所。滅多なことでは立ち入りを許可されない棟。すなわちフラクタル研究棟。
「松良力也です。呼び出しに従い、参りました」
ロックが外される。見た目通りの重量の扉を慎重に押し開ける。
「一体どういうつもりだね、松良」
呼び出された部屋に入室すると挨拶もなしに問いただす質問が響いた。
彼の他には補佐役の男性と女性の研究員が控えている。片方はステファニー・リゲル、もう片方は
「どう、といわれても呼び出される理由が全くもって理解不能ですね」
「とぼけるな‼」
しらを切り通すつもりはなかったが、力也の態度で堪忍袋の緒が切れたのか一括された。緋鳥は首をすくめて怯えてしまっている。――― ここは緋鳥に免じて早々に退散した方が得策だろうと力也かた話を切り出した。
「前回の襲撃でミアプラは総力を挙げて乗り込んできました。こちらの被害は甚大です。加えて世間の起源に対する印象は悪くなる一方となっています。。――― そこでジオメトリの被害を最小限に抑えつつ効率的に任務を遂行できるよう、人事異動を行いました」
「・・・・・・ その人事異動の目的は何だ。こちらの推薦状を無視したあげく、
「推薦状の件については申し訳なく思っています。あなたの目論み通りフラクタル所属ではなく、ジオメトリ所属にしたのは私の意向です」
「・・・・・・ その理由を聞いている」
言い訳次第ではただでは済まさないという意味合いが含まれた問いに力也が震え上がることはない。
「第一にふたりを私の監視下に置きたいからです。変化があったとき、いち早く対応できるのは限られた人間のみです」
「ならば早急に引き渡せ」
「やってみればいい。できるものなら」
力也はいたってシンプルに訴えた。自分の上司、それもフラクタルの最高権力者に。その態度は彼にとって冒涜的であり、同時に強制的に降参させる呪詛の言葉だった。
「・・・・・・ 自分の立場を理解していないようだな」
それでも田部は負けじと反論を試みてくる。
脅しを賭けているつもりのようだが、しかし力也も上司を牽制する術を持っている。なくせば地に落ちてしまう最大の武器を。
「あなたも自覚しておくべきだ。私がいなければフラクタルを存続させることはできない、と」
力也の言葉に実業家、いやフラクタル研究長の田部六連は歯をぎしりといわせた。今まで数多の力也の無礼を許しているのはひとえに弱みという特殊武装があるからだ。武装している限り滅多なことでは口出しされない。
この張り合いは力也に分がある。この研究長はいつになったら悟るのか。呼び出される度に研究棟へと向かう自分の身にもなってほしい。
「――― 失礼します」
これ以上話すことはないと踵を返す。できれば同じ空間にいたくなかった。心の中で緋鳥がそれなりに元気であることを確認できただけマシだと言い聞かせる。
力也は、田部六連を憎んでいた
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