第42話 曇りのない空
アゲート墓地。
そこに
ふたりが亡くなってから近くを通ることがあったものの、一度もお墓参りに来たことはなかった。それは
「結局、ボクは心のどこかで響希君と楓のなかにいる伊弦とけやきの記憶が蘇ることを望んでたんだろうなぁ」
力也が感慨深く独り言のように零した。屁理屈を抜きにしても、そう思わずにはいられなかったのだ。
「力也がそう思っていたのだとしても、ふたりは記憶が蘇ることを望んでいなかった。これがふたりの選択だよ」
アイネンはすべての事件の後始末を終えた頃、ようやく十年前に起こったことの全貌を聞かされた。正直まだ消化しきれてないが時間をかけて気持ちを整理させようと考えている。
ようやく線香に火がついた。
そこにナイスタイミングで遅れてやってきた
四人でお墓の前で手を合わせる。線香独特の落ち着いた香りが鼻腔をくすぐった。
お墓参りが終われば、怒濤の毎日がやってくる。
「さて、ボクはもう行くよ」
力也はひとり立ち上がると次なる目的地に行くために歩みを進めようとする。
「っておまえ、まいなのところにお見舞い行くつもりだろう。忙しそうにしているだけで・・・・・・本題を片付けてからお見舞いに行け」
アイネンがたしなめると力也はばつが悪い顔をした。
「・・・・・・ バレた?」
「そんなことしてる場合じゃないだろう。――― おまえはもう、フラクタル代表なんだから」
「治安はサーちゃんに任せたよ、ジオメトリ代表?」
アイネンは思いも寄らない反撃に頭をガシガシ掻いてから、照れを隠すように言い忘れていたことをこの際だとばかりに付け加える。
「言っておくが、中二病キャラだけは勘弁してくれよ。なーにが『ガブリエル様』だよ。おまえの性格に合わなさすぎてイライラしたぞ」
「あれはもう卒業さ。今は自分を偽ることも、強く見せようと演出しなくて済むからね。・・・・・・だってサーちゃんもまいなも緋鳥も、美空先生だっているから」
自分がからかったつもりだったが、力也に返り討ちにされて恥ずかしくなる。以外と口げんかをすると力也の方が上だという事実に腹が立つ。
「そうね、マーニャと正式にフラクタル研究員に復帰したことだし、これから田部の後始末と起源の研究も前進させないと」
田部六連が残した爪痕は計り知れない。これからさらに垢となって出てくることだろう。
時代が進むにつれ、起源所持者――― いや、起源も見方も変わる。浸透していくかもしれないし、そうでないかもしれない。どちらにせよ、世間が決めることであり自分たちだけに決定権が委ねられているわけではない。
しかし存在してしまった以上、ないことにするのは困難だ。だからフラクタルが中心となって一般層に起源を認めてもらえるよう地道な努力をするのだ。
未知なるものもいつかは例外として認識されなくなる日が来るのだ。すべてはその日のための歯車を準備することからはじめよう。
「――― 風が心地よいな」
四人は髪をなびかせながら、アゲート墓地から見下ろせるフラクタルをしばらく無言で眺めた。
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