第43話 それぞれの道
「まさか、
響希は愚痴のように介護しながら言った。これも後情報なのだが、詩内美空の両親と
「恨みたければワシを恨めば良い」
卯水さんはわざと突き放すように響希に言っているのだと理解した。最初からこの話をする際は自分が悪者になると決めていたのだ。
「恨むなんて・・・・・・ 俺はそれよりも卯水さんに育ててもらって感謝しているくらいですよ。そして、今度は俺が卯水さんの面倒をみますよ」
「ひと言余計だ」
一三は響希を振り返った。そしてみたことのない響希の表情に胸が熱くなった。
「お前さん、そんな顔ができるようになってたんだな」
響希の表情は波風の立つことのない硬い表情ではなく、優しく包み込むような柔らかな表情をしている。憑き物が落ちたように明るく見える。
きっとこれから先、一三の知らない表情もできるようになるのだろう。そのとき自分はいないかもしれない。それでも響希と一緒に過ごした時間が大切なのだと改めて再認識した。
時が流れれば、必ず変化がついてくる。肌で実感した瞬間だった。
そしてフラクタル防衛人員ジオメトリも否応なく状態が激しく変化していた。
一時はフラクタル存亡の危機に瀕したこの研究機関は代表が
とにかくそれによりジオメトリ代表を選出しなければならず、一時的に混乱状態になったが、なんと敵組織ミアプラのリーダーサジ・アイネンが代表として松良力也から指名を受け、拝命を受けたことにより事態は一転した。
当初はジオメトリないから反発の声が相次いだが事件の全容をジオメトリ職員に開示されたことにより、渋々といった形で徐々に沈静化された。この内容はジオメトリ内で徹底的な緘口令が敷かれており、当面は公表しないと釘を刺されている。
山は越えたが、ミアプラの残るメンバーさらには
響希は新しく再建された国内有数の起源の研究機関〈フラクタル〉へと足を進めていた。
午後からはきちんと任務に就かなければならない。しかし、それよりも前にある人物に伝えたいことがあった。
研究機関フラクタル独自の特殊警備部隊〈ジオメトリ〉へ真っ直ぐ向かう。
ややあって目的の人物が廊下の隅の壁に寄りかかっているのが確認できた。あちらも響希のことを待っていたのだろう。考えていることは同じだった。
もう一度、相棒として最初からやり直す。それから―――
「もう少しゆっくりしてくればよかったのに」
姿を認めるなり彼女は冗談交じりで話し掛けてきた。そうしたらいつまでもこの廊下で待っていてくれているくせに。
「幹部の人を待たせるつもりはありませんので」
しかし口に出た言葉は思ったこととは違った。
「そっか・・・・・・ それじゃあ改めて――― 」
「
「
ふたりは同時に微笑み合い、互いの手を握り返した。
フラクタル・スピリット 石蕗千絢 @Chiaya_story
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