第8話 復帰

 それから数日後、雪也せつやは懲戒処分期間を終え、職場に復帰した。


「悪かったな、遅れは取り戻すから」


 雪也は廊下で久しぶりに顔を合わせるなり謝罪を口にした。

 

 響希ひびきはその言葉を聞いて内心胸をなで下ろした。初任務の別れ際、雪也とぎこちない会話しかできなかった。このまま不調な状態を引きずりたくなかった。

 しかしその懸念はこのところ数日間の任務で払拭された。


「今日は夜勤か。・・・・・・ しかもフラクタルの警備」


 そんな響希の心情を余所に雪也は勤務情報を確認した。追って響希も端末から情報を共有する。


「待機だな」


 不意に雪也がそんなことを言うので耳を疑った。思わず見返す。


「フラクタルの監視カメラはジュリア担当。おれらはいつ異常が起きても行動できるように夜通し待機するのが役目」


 ようやく夕方頃に執務室に集合との連絡の意味を理解した。


「まさか、何も聞いてないの?」


 雪也が信じられないとばかりに聞いてくるので正直に「何も聞いてない」と答えると、「あの中二病野郎」とあからさまな悪態をついた。


 連絡不行き届きは仕方がない。任務は遂行をしなければならないので徹夜は覚悟しておかなければならないだろう。執務室へと繋がるドアへと手をかける。


「よかった。雪也君・蒲水君、今すぐ所定の場所に向かってくれる!」


 ドアを開けるなり麻衣さんから指示が飛んだ。ただならぬ様子だ。ジュリアの面々が慌ただしくモニターに向き合っている。


 響希は反射的に無線を耳に装着しながら尋ねる。


「フラクタルに侵入者よ。幹部と当直のロマネスコで対応に当たってる。まだ内部にまでは侵入されてないわ」

「了解です」


 ジャケットを羽織り、雪也とともに駆け足で現場に向かう。

 

 雪也は話を聞くなり愉しげにウキウキし出したので、で、響希は不安でならない。また前回の二の舞にならないよう努力するしかないと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る