第5話 初任務ー言い訳と覚悟ー
「反省しなさい!
執務室には、
雪也はというと、拗ねた子どものように黙り込んでいる。
執務室で作業をしていたメンバーは、気まずい空気に耐えきれず室外に退散する者、忙しそうにキーボードを叩いている者がいる。だが、耳だけは成り行きが気になるのか、そちらの方に神経を集中させていて、仕事に身が入っていないのがまるわかりだ。
身柄を拘束するはずだった人たちは皆、凍傷を起こしていて病院に搬送されている。やりようによれば拘束だけで済む問題を、ここまで手を焼かせる結果となってしまった。現在、その責任を問われている。付け足しておくと、響希もあやうく彼らの一員になりかるところだった。
「・・・・・・ 俺は相手を無力化することに成功しました。成果は大きいはずです。昇級させてください」
だんまりを決め込んでいた雪也がとんでもないことを訴えた。
「はあ?あなたそんなことを考えていたの⁉」
麻衣さんは呆れ半分額に手を当てる。
「ん~。病院送りに器物破損、成功より失態の方が俄然多いと思うよ?」
近くのソファーに寝転がっていたリーダーが口を挟む。
任務初日にして響希の無線は故障してしまっていた。なぜなら無線が一時ではあるが、凍ってしまったからだ。それで壊れるのもいかがなものかとも思えるが、雪也の起源はそれだけ強力であるという証拠で、つまり彼は響希の安全は配慮していたが、その付属物までを考慮していなかったのである。
「今回の件で雪也君の昇級はより遠のいてるようにも見えるけど?」
「それはっ」
雪也は何も言い返せなかった。
リーダーの言い分はもっともであり、それを理解できないはずもなかった。
「まずは始末書を提出してもらってから、今後のことを考えるとするよ」
リーダーは雪也が再び沈黙したのを折りに、部屋を出て行ってしまった。
麻衣さんは溜息をつき、「一緒に記入して提出しに来て」と用紙を渡し、部屋を後にした。
その際、響希には立ち入る隙も与えられなかった。
その夜。
響希は一向に書類に手をつけようとしない雪也をどうにかなだめすかし、ようやく提出までこぎつけた。
雪也は書類を書き終えるとさっさと執務室を出て行ってしまったので、ひとりでの提出になる。麻衣さんはそうなることを予期していたのか、問い詰めることはせず「ご苦労様、寮に戻って良いわ」とジオメトリ専用にあてがわれている寮への帰宅を許可した。まあ寮というより社宅に近いが。
途中、フラクタル施設内から寮へと繋がる連絡通路でリーダーに出くわす。
「響希君、今日は災難だったね」
出会うや否や軽くターンし、身体をしならせ決めポーズをとる。前髪をかきあげ、声を少し色っぽくすることも忘れない。
響希はその姿を見ていよいよもって気が滅入った。・・・・・・ 勘弁してほしい。
「・・・・・・ それ、いらつくのでやめてくれませんか。任務中の真面目なままを希望します」
思わず本音が出てしまう。
力也はそんな彼の疲労具合に肩をすくめた。
雪也を響希に預けるよう仕向けたのは他ならぬ力也自身なのだ。他の誰でもない、雪也を変わらせるには響希が適任であると判断した。
実際、雪也は響希と組んだことで心を開きはじめているフシがある。ひとえに響希の尽力のおかげだ。
「雪也は以前よりも物腰が柔らかくなった。――― ありがとう」
だから告げる、感謝の意を。
君には誰かの心を動かす力があるから。
響希はいきなり礼を言われたことに戸惑った。初任務でこっぴどく叱られ、しまいには何も行動できずにいた自分の不甲斐なさに自省していたところなのに。
頭まで下げられる覚えは全くない。
「この失態を次に生かします」
響希はその言葉に誠意を持って返した。
力也はその返答に含めた笑みで返した。期待しているぞ、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます