第4話 初任務ー独善的な行動ー
現場は町中から外れた場所にあったため、さいわいけが人は少数で済んでいた。
「どうやら、否定派と不良集団の衝突みたいだな」
ことの顛末は、不良集団が起源所持者で構成されていて、近隣住民が手を出せなかった。そこに否定派が名乗りを上げ、成敗しようと試みたらしい。
「無意味な武装を施したとて、変わらないんだよなあ」
雪也は頭を掻いた。
けが人の全員が否定派だ。哀れみを隠せない。
「アイツら、正規の
うちひとりが苦痛に耐えながらほえたてる。
起源を発動できるならば、一応は訓練を受けて資格を所持しているはずである。年齢制限もないので誰でも取得はできる。取得して自身の起源を登録して初めて専用の
正規品ではないとなると・・・・・・
「・・・・・・ 訓練を受けていない可能性があるぞ」
雪也の思考を受け継ぐ形で、響希は解答を口にする。
現場を収束させるには、彼らの暴動を阻止する他ない。しかし突入の判断を下す権利は、新人の響希にはない。
雪也はメガネを外し、目を細めた。響希は彼を見てぎょっとした。
その瞳は今までの彼からは想像もつかない闘志に燃えている。
「たぎるねえ」
「あっ、おい!」
雪也は響希の返事も待たずに喧噪のする方へ走り出した。
【蒲水君、彼を追いかけて‼】
一連の流れを聞いていたまいなはすぐさま響希に指示を出した。こうなることは予想していた。
「了解です!」
やがて響希は取りかかっていた治療を一通り終えると、雪也の後を追った。
「派手にやってるね」
眼前では今まさに攻戦が繰り広げられている。雪也はそんな様子を嬉々として眺めている。
響希はそんな雪也を横目に流しつつ、不良少年たちを検分していく。当然だが、起源の模様や彼らが起こしている現象を解析するのは響希の役割だ。
雪也はそのスキルを持ち合わせていないため「じゃあ任せた」と速やかに身を引いた。・・・・・・面倒ごとを押しつけられたとも解釈できる。
集中するべく彼らを観察していくうちに、響希はひとつの疑念を抱く。
不可解なことに先程の負傷者も目下にいる否定派も全員が火薬武器で武装している。通常、そういった武器の類いが出回ることはない。
「奴らも調査する必要があるかもな」
雪也は面白くなさそうに現状を把握する。
その表情を響希はちらと見やる。彼の心の魂胆にある本質に勘付きはじめていた。
本来ならば切った張ったの実力行使を好むタイプ、そうなのではないだろうか・・・・・・。
「響希、下がってな」
そんな懸念を現実にするように、雪也が集団の眼前に突っ込んだ。
数秒遅れて、響希も彼らを制圧すべく前へ出た。
どうしてこうなったのか。なにひとつ戦略を立てていない。無線からは雪也を止めるよう指示が聞こえるが、もう遅い。後の祭りだ。
接近してきた相手を組み伏せる。顔を上げると、雪也は容赦なく迫ってきた相手に蹴りや拳をふるっている。
「動くな‼」
そのとき、背後から怒声が響いた。咄嗟に振り向くと、不良少年のひとりが否定派を一名人質にしていた。
「アンタら、ジオメトリだろ。・・・・・・ こいつが殺されてもいいのか?」
荒い息を立てながら、響希たちに選択を迫る。完全にこちらが下手を打った。彼らは気が大きくなっているのか、罵詈雑言を浴びせてくる。
「――要求はなんだ」
響希は交渉を試みつつ隙をうかがう。起源の準備はできていた。
「オレたちを―――――― 」
少年らの言葉が止まる。追って響希も異変に気がついた。
附近の空気が冷たい。いや、急激に温度が下がっている。
響希は反射的に隣に位置する雪也を見た。
同時に強烈な寒気が辺りを包み込む。間違いなく、この瞬間的な寒さを生み出しているのは雪也だ。
雪也。
その名前にあるとおり雪の結晶が彼の起源の模様だった。
「俺の起源は《冷却》。認意の物体を凍結する能力だ」
生気に満ちたその瞳は彼の起源とは全く違う炎のようだ。
吹雪に全体が覆われ、視界がままならなくなる。ごおっとした音が鳴り響き、それ以外何も聞こえなくなる。
やがて吹雪が止み、視界が晴れた。
一面真っ白の雪景色が飛び込んでくる。次に雪也。・・・・・・ そして最後に目にしたのは彫刻のように動かなくなった人たち。
ふたり以外、世界が凍てついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます