第17話 新たな動向

「何のつもりだ」


 開口一番、サジ・アイネンは不機嫌さを隠すことなく、相手を睨めつけた。


「何って、スカウトよ」


 戯けた態度を崩さない屈強な体躯の男性は、――― 赤星あかほし武巳たつみ。「紅檜皮べにひわだ」のまとめ役であり、もっとも油断できない人物。背後には帯刀した少女と構えの態勢を保つ少年を据え置いている。


「随分ジオメトリに苦戦しているらしいな。――― この際どうだ、俺等と共闘した方が有益なんじゃねぇの?」


 武巳は人懐こい笑みを向け、次の瞬間に苦みを噛みつぶした顔を作った。スカウトなどといってのけたが、実は余裕がなかったりする。相手を下に見がちだという性格だと自覚しているので、自省しつつ本音をぶつける。


「・・・・・・ 実際問題、俺等も順風満帆ってわけじゃねぇ。お前と組むことで状況打開策が練れると期待して勧誘しているんだわ。――― いい方を変える。協力してくれ、厄介なことになっちまった。これは俺のミスなんだが、一刻の猶予もねぇ状態に追い込まれちまった」


 そんな武巳の心情を知らないサジ・アイネンは試すように見返した。


――― 決断の時は迫っていた。



――― わめき声が聞こえる―――


 目覚めると、見覚えのない天井が視界に入った。どうやら自分はベットに寝かされているらしい。


「痛い!いたいイタイイタイイタイああああああああ―――――― ‼」


 耳をつんざく叫び声が木霊した。


 反射的に左横を見やると、リーダーこと松良まつよし力也りきやが半べそをかきながら治療を受けている最中だった。


 ようやく自分の置かれている現実を認識する。


――― サジ・アイネンの起源を真っ向に受けて傷の処置をしたというところ―――


 意識した途端、全身に激痛が走った。

 身体は湿布やら包帯やらで埋め尽くされている。


「――― リーダー・・・・・・ 」


 かすれた声に響希ひびきは驚いた。しかし、今の状況の気になりように勝るものはない。

 か細い声にもリーダーは気付き、治療から逃れるように響希の元へと急いだ。


「あっ響希君、気がついたかい?聞いてよ!マイマイが優しく労るように治療してくれないんだよ~いでっ」


 リーダーの嘆きは消毒液を塗布されることで一時停止を余儀なくされる。


「しっかりしてください。大体、自分の起源を過信するからこんなことになるんです!」

「ガブリエル様に不可能なことはないっ!あっ待って。後は自分で――― 待って待って、心の準備が――― あああああああ」


 通常通りのやりとりを繰り広げるふたりを横目に流しながら、安堵する。


 それにしても、的組織に敗北するとは情けない。おまけに気まで失い、先の記憶が全くない。

 ミアプラのリーダーという強敵ではあるが彼を相手にできないのでは意味がない。後日改めて体力回復も兼ねた訓練をするべきだろう。


「安心してください。双子は身柄を確保しました。・・・・・・ サジ・アイネンは逃亡しましたが」

「安心したまえ!雪也君は消耗が激しかったようだが、元気にしているよ!――― っいたいイタイ」


 痛みを懸命にこらえながら、それにとリーダーは付け加える。


「――― 彼は、経験が豊富だ」


 元々、ジオメトリにとっては厄介な人物のなかのひとり。今のところ引き分けに持って行くのが精一杯の相手。


 響希は繰り返し強くなろうと決意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る