第10話 ふたつでひとつの刃
不審人物を捜索するが、辺りは粛然としている。隣の雪也も警戒態勢を怠ってはいないが、疑念を隠しきれていない。死角のない監視カメラの映像では、間違いなく侵入者の映像が映っていた。すでに別に場所への移動を開始したのか、あるいはまた別の要因か。少なくとも現状はなんともいえない。
「人影すらありません」
「妨害電波が張られてる。それだけならまだマシだけど、こっちの連絡が盗聴されてる可能性も否めないぞ‼」
「落ち着け雪也。ここは臨機応変に対処するしかない」
落ち着いていないのはむしろ響希の方だったが、焦っている人を見ると自分のことを一歩引いた距離で捉えられた。
雪也は深呼吸をし、精神の乱れを統一させる。
前回の件で職務停止を受けて雪也なりに自分を見つめ直した。いくら自分の過去に傷があろうと職場に持ってくる気持ちではないと反省してはいた。でもそれをすぐ直せるかどうかは別の話で・・・・・・ 。響希がいなかったら自暴自棄に暴れ回っていたかもしれない。今回もまた助けられた。
「・・・・・・ 侵入者の捜索及び拘束を優先しよう」
「わかった」
響希はすぐさま同意を示す。ここで引き返したところで何の意味もなさない。
付近の注意を抜かず、捜索を再び開始する。
しばらく歩いたところで不明瞭な影がふたつ、行く道を塞ぐようにして立っていた。
雪也が一歩前に進み出る。
「君たち、そこで何をしている」
「「・・・・・・ お兄さんたち、私たちと遊ぼう」」
ふたりが同時に声を発する。不自然なほどにシンクロした少女の声が無抵抗に響希の耳中をまさぐった。本能が危険だと告げている。
「遊ぶ?・・・・・・ ああ何おれたちの邪魔をするつもりか」
雪也は笑みを浮かべた。この問いに対する彼女たちの答えは、濃度の濃い闇の中でも理解できた。なら、こちらも遊ぶだけだ。格の違いを見せつけてやる。
響希は足下に起源発動の模様が浮き出たことを確認する。瞬時に援護の態勢へと切り替える。
ふたりめがけて無数の模様が浮き出される。直後、その模様からは鋭利な刃物のような氷柱が突き立てられた。
しかしあと少しで届くというところで、彼女たちは動いく。ひとりは雪也に。もうひとりは響希だ。
雪也は起源をもって相対する。
響希は咄嗟にオートマチック拳銃を《生成》した。抜いているのでは遅いと勘が働いたのだ。
繰り出してきた細身のナイフの先をオートマチック拳銃の銃身で制する。受け止
めた隙にカウンターの中段蹴りをお見舞いする。しかしそれさえも身軽に躱される。
――― その際、響希にとっては見慣れた模様が見えた。
「っ起源か・・・・・・ 」
極小の模様がそのナイフには記されていた。それも小さすぎて見落としかねないレベルの。
再び間合いを取る。
「ちょこまかと見た目通りの動きをするね、君たち」
「ハア?何よアンタ!」
「・・・・・・ ちょっと」
雪也の挑発にふたりの意見が割れる。
暗がりから出たふたりの少女は見た目がうり二つだ。双子なのだろう。もっとも、性格は別個らしい。
響希は雪也の側に寄る。
「・・・・・・ どう思う、あのナイフ」
雪也の問いに迷わずこたえる。
「あのナイフに触れない方が身のためだと思う」
「同感だ」
奇妙なことに、あの双子がそれぞれ持つナイフには半分ずつの模様しかない。つまり併せるとひとつの模様になるということだ。
起源の性質は模様を見れば判断できる可能性もないわけでないのだが、大抵は性質を知ってから模様に納得する場合が多い。要は連想ゲームに正解するか否か。
今判断できるのは禍々しい気がその模様から放たれているということだけ。
響希は手中にある拳銃を握り直す。自分で作り出した、しかし支給されたものと同一のオートマチック拳銃を。リーダーからこういうときは拳銃で応戦するように前もって命令されていた。自分の起源だけではどうにもならない場合は必ず生じる。そうして鬼籍に入った者たちは何人もいるのだ。
いざとなれば、人の命を奪うこともためらわない。幹部級になればなおさらだろう。
響希には命を奪うことができるだろうか。・・・・・・ その覚悟はジオメトリの一員になる上でできている。拘束だけで事が収まるとは微塵も思っていない。
「・・・・・・ 響希、先に行け。おれがふたり纏めて相手をする。ここに立ちはだかるってことは、その先に何かがある」
「おい待――― 」
デジャブを感じた。
案に違わず、雪也は眼鏡を外し反論するより先に双子めがけて氷柱を突き立てた。
今更ながら、彼は起源をこういった使い方ができるのかと舌を巻きそうになる。
「おれなら大丈夫だ!すぐに片付けて追いつく‼」
雪也の活に我を取り戻す。
彼は以前のような自分勝手な行動はしないと暗に告げていた。 ――― 信じる。
響希は頷き、全速力で双子の間を駆け抜ける。
その際、追撃があったがこれは雪也が対処してくれた。そのため不都合なく彼女らから距離を取れた。間合いに入らなければ後は気にせず前に進むのみ。
雪也は暗闇に消えていく背中を見送る。そしてトドメとばかりに狭路を塞ぐようにして高々と氷の要塞を築き上げた。これでもう目の前の相手は彼を追えない。
自分たちを逃がさないためにこのような立地を戦闘場所として選んだように見えるが、かえって役に立った。広地だったら確実に今の雪也にはこんなことはできない。
目の前の双子はそんなことも知らずに顔を膨らませて悔しがっている。何か小言を浴びせてくるが知ったこっちゃない。こちらはお前たちで手一杯だ。
が、顔には出さない。代わりに挑発の笑みを浮かべる。
「第二回戦だ。ほら、遊びたいんだろ?」
双子が憤怒の表情に支配される。・・・・・・ 焚きつけるのは得意な性分だ。
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