第13話 再会、そして衝突

 ひしゃげたガレージの深部には部下である蒲水かまみず響希ひびきが昏倒してしまっていた。


 その一部始終を目撃していた力也りきやは幼なじみの無慈悲な行いに脱帽しそうになった。


「よくもまあ、派手にやってくれちゃったね、サーちゃん」


 サーちゃんことサジ・アイネンは幼なじみの相変わらずの様子に憤りをあらわにする。


「・・・・・・ 力也か」

「私の名はガブリエルだよ。フッ」


 対する力也もお決まりのポーズ。次いで初めて目の当たりにした者ならすくみ上がるような睨みをきかせた。


「新入りなんだから、お手柔らかに接してくれてほしかったね」


 しかし、サジ・アイネンには彼相手に狼狽する精神なんて持ち合わせていなかった。それどころが力也の言葉に計り知れない胡散臭さを感じた。以前とは別人のような力也だから。


「嘘をつけ。あの新入り、何者だ」


 力也は気を失った彼の元で無事を確認すると、ようやく口を開いた。


「・・・・・・・・・・・・ フラクタル職員を辞職し、平穏を乱すことを繰り返すサーちゃんに教える義理はない」


 それに、と付け加える。

「覚悟も甘い。自分は重傷を負わせる程度で殺しはしない、という気持ちでこんなことを繰り返しているのが。・・・・・・ サーちゃんの部下になった人たちは、人殺しをして君をサポートしてるのに」


 事実だった。サジ・アイネンはとある情報を得るために襲撃を執拗にしてきた。だが、彼自身が人殺しをしたことはなかった。


 しかし、それは部下の練度が低いからだ。技量があれば殺さなくとも相手を無力化できる。しかし、練度を高める訓練ができない理由がある。急いている事情があるのだ。


 力也はその理由を理解している。


 なのにサジ・アイネンには力也が理解できない。


 力也には明確な意志があってフラクタルに残留していることは見て取れる。あの事故以来、かつての友人のひとりである力也のことが少しも解らなくなってしまった。自分を理解してくれるであろう友人は、もう、力也しかいないはずだったのに。


「・・・・・・ 力也なら私の考えに検討つくだろう。何を行おうとしているのかも」


 力也は一瞬、顔を歪める。


「検討ならつく。・・・・・・ 理解できないはずがない。だけど、にも信念がある」

 

 戦闘態勢に入った。


 力也の身体中に夥しい数の模様が浮かび上がる。それはまるで呪いを一度に背負ってしまった魔術師のようだ。


「戦って、サーちゃん」

 

 サジ・アイネンはもう迷わなかった。


 こうなるのならば力ずくで解ってもらうまで。あの日以来、彼は変わってしまった。自分も否応なく変わらざるを得なかった。


 彼を変えてしまった原因には、自分の非も含まれている。力也を・・・・・・ 孤独にしてしまった。




 差し伸べた手を握り返してほしかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る