第12話 お見事

 雪也せつやは絶賛不機嫌の真只中にいた。


 先に行けと豪語したものの、いっこうに決着が着かない。こうしている間にも響希がどのような状態に陥っているのか不明だ。


「よくもまあ、ちょこまかと・・・・・・ !」


 普段戦闘中の雑談を好まない雪也だが、今宵ばかりは口が勝手に開く。何せナイフが触れれば一環の終わりだと言うことが判明したのだ。応援に来たロマネスコが複数息の根を止められた。下手に手を出せない。


 響希ひびきを先に行かせたのは、自分ひとりで事足りると思ったからだ。見栄を張ったわけではない。


 調査を進めなければならない段階で敵に遭遇したと言うことは、その先に何かがある。足止めを任されていると考えるのが妥当だ。ふたりの相手は新人である響希には荷が重い。速攻片をつけて追いつく算段だった。後悔しかない。


 やはり自分の胸の内に驕りがあったのかもしれないさえと感じ始める。


 起源所持者の親の元に生まれ、それを生業とすることを期待されてきた。雪也も期待に応えようと必死に起源をマスターしようとした。でもそれが難しかった。


 最初は起源所持者のレッテルが嬉しくて仕方がなかった。誰よりも早く専門学校に入学し、起源を極める。それが目標。両親は憧れの存在だった。いつも憧憬の眼差しを両親に向けていた。


 しかし、まもなくそんな日々に幕切れが訪れる。


 いくら努力しても起源の成長がみられない。いち早く学校に通ったはずなのに、いつの間にか雪也と歳の変わらない少年少女たちが同等のクラスの授業を受けていた。


 両親は何も口にすることはなかったが、かえってそれが苦しかった。


 そして自覚してしまった。両親のように起源をマスターできないと。


 だから両親から逃げるために、ジオメトリ所属を志向した。・・・・・・ やさぐれてしまっていたのだ。


 誰かを守る仕事は、自分の誇りつながるはずだ。出世すれば親に顔向けできる。気がせいていた。


 ところが、響希の真っ白で何も考えずにジオメトリに所属したという発言は雪也に響いた。なぜか胸に鎮静剤を投与してくれた。今思えば、ジオメトリに所属している者は大概が何か目的を持っている。彼のような人はそういない。


 おそらく自分の近くには響希のような人柄の人が必要だったのだろう。


 昇級したくて、でも上手くいかなくて空回りして。ひとりで行動するようになった時、リーダーから直接、普段は拝めない剣幕で諭された事がある。


「ジオメトリの幹部の連中はただ単に強いだけではないんだ。本当に助けが必要になったときに、手を差し伸べてあげることのできる連中だ。・・・・・・ 信念が確立しているんだよ」


 当時はへらへらしているリーダーが真面目に説教してきたので、反感から受け入れられなかった。「その内わかる」と言われて良い気がしなかった。


「あークソッ」


 後悔ばかりが頭にへばりつく。思考に靄がかかっていた。いざとなれば、命を奪うしかないと覚悟を決める。こちらは何人もられているんだから、命には命で報いて対向するべきだ。


「アラァ、手を貸さなくても良さそうね」


――― 冷水を浴びせられた感覚に陥る。


 しかし、実際は冷水なんて浴びせられてはいない。

 弾かれたように声の主の方向へ向いた。


「・・・・・・ サラ先輩」


 名前を呼ばれ、軽く手を振る。それから双子の方を見やった。


「相手と周りを念入りに観察して。・・・・・・ 容疑者を捕縛するのに情けなんていらないわ。」


 サラは微動だにしない。手助けしなくとも、雪也はこの双子を自分の力だけで拘束可能だと判然した。


 ならばその期待に応えなくては。


 改めて周囲の状態を知覚。

刃のような氷柱が広範囲に広がっている。そして撤退を許さない狭隘きょうあいな路地。


「なんでこんなことになるのよう!」

「・・・・・・ 知らない。殺すっ!」


――― ヤケクソになり出す双子。


 攻撃パターンには限りがあるようで、今まで繰り出してきた体術のコンビネーションは出し切っていることを嗅ぎ取っていた。


――― この無謀な攻撃は躱せる。


 雪也は次々と押し寄せてくる打撃を読み切り、意図する位置まで後退した。


 その結果――― 双子は見事、氷中に閉じ込められた。氷柱の中は空洞で、時間とともに酸素がなくなると一大事になるが、後は先輩に任せよう。


 雪也は最後の一撃の拍子に尻餅をついた。


 その背後で先輩が舞台の幕引きを宣言する。


――― お見事、と

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